ep.5 砂漠のヤンキー、ヤシの木の上でヤシる。

「やっほー♪ ミネルヴァもこの世界に来たんだね」


 と、ここでマリアが手を振ってかけつけてきた。

 朝からずっと仕事だったのか、冒頭と同じカゴを持ち歩いている。中身は天秤のみで、どうやら今日の分を無事完売させたようだ。

「けさは何処へ行ってたの?」

 と早速きいてきたので、ここは僕がかくかくしかじか、マリアに砂漠の件を説明した。



「なるほど~。それ、私も同行していいかな?」

「いいけど、商業ギルドの方は仕事大丈夫なのか?」

「うん。寒い時期だから、周りの農作物は殆ど収穫済みで、冬を越すための保存食を蓄えている家庭が多いからね。でなくても、最初は私1人だったけど、今はシアンがいるから」

「そうか。同行してくれる仲間は多ければ多いほど助かるよ。喜んで!」


 そういって、僕はマリアの探索パーティー参加を快く承諾した。


 じぶん冒険者ギルドのマスターさながら、このあと組合で蓄えている経費や必要物資を勘定・清算し、当日の探索に備えればいいだけ。

 かのオペレーションの件を除き、第一部の時みたいに一々王室関係者へ報告しに行かなくていいのは本当に便利である。




 ――――――――――




 そして当日。

 山脈を渡り歩いた時とほぼ同じメンバーに、マリアが加わっての砂漠エリア突入だ。

 ヘルはこの日、診察で忙しいから不在だけど、マリアと入れ替わりなので結果的に前回と人数は同じである。さて気になる大雨後の、山脈から見える景色は――?


「おー! 砂嵐がキレイさっぱりなくなっている! 一面ずーっと砂漠だな!?」

「うんうん。遠くの景色も見える様になったね。見て、あそこにヤシの木が生えてるよ」

「お、あっちには建物らしき黒いのが幾つか見えるね~! 村かな? 人がいたりして。にしても砂漠、広すぎじゃない!?」


 なんて、僕だけでなくヒナもマリアも大はしゃぎだ。

 ミネルヴァが降らせた雨のお陰で、止んだ今は砂漠地帯の全貌が見えるのである。空も雲一つない快晴だから、地形だってくっきり。


 その代わり、早速砂漠地帯に足を踏み入れながらだが、ミネルヴァがこう懸念を示した。


「今こうして見る限り、静かで人が歩いている様子は見当たらないけど… 平面の砂漠続きで、身を隠せそうな岩などが殆どない。敵に目を付けられる可能性は非常に高いわ」

「う~ん。いきなりこっちが攻撃を仕掛けてこない限り、向こうがすぐに襲ってくるとは思えないけどなぁ。チアノーゼ戦の後のことと、ベルスカを握る側の思惑おもわくを考えたら」

「それでも敵にとって、私達に知られては都合が悪そうな場所に、知らずのうちに立ち入ってしまう可能性はゼロではないでしょ? そういう時のための予知能力発動は必須よ」

「…あ、そっか」


 つまり僕が取り戻している能力の1つ「未来予知」で、地雷を避けようという事か。

 そうと分かればすぐ、未来が見えるようにと深呼吸がてら念じた。



「…」


 僕達が向かう先はヤシの木。つまりオアシス近辺。

 理由は、とりあえずこの広大な砂漠を冒険する際の「目印」を覚えておくため。


 ヤシの木以外、身を隠せそうな場所はない。日除けもほぼ皆無。

 今は冬だから、幸いにも強い日差しを浴びても「暖かい」程度で済んでいるけど、これが夏場だったらエグい灼熱地獄なんだろうなぁ。



 さて、そうこう駄弁っている間にオアシスまでの未来予知、完了。


「うん。何も悪いことは起こらない!」


 僕はそういって、同行しているミネルヴァ達を安堵させた。

 念じたことにより、脳内にパッと映し出されたビジョンにて、僕達が人為的なトラブルに巻き込まれる事はないという確認がとれた。みな、歩行ペースを上げていく。



「あら…? あのヤシの木から、“何か”を感じる。電磁波、とは違うような」




 おっと?

 ここへ来て上界の神ミネルヴァさん、もしやこれは例のアレ、発見フラグですかね!?


 なんて、ここは僕達もその反応に期待したものだ。

 意外と距離はあったけど、なんとか辿り着いたオアシスのヤシの木の下、ミネルヴァが眺めているその先を僕もにらんでみる。すると、


「あ! ホントだー! 太陽の光に反射してる!」


 そう。ここへきて早速、ヤシの木の葉っぱに乗っかっているクリスタルチャーム発見だ。

 新しい場所へ行けるようになるにつれ、新しいチャームやお宝がこうして見つかる事もあるのだからホント、冒険って面白い。


「ここは私が拾ってくるよ! さて、よいよいしょっと」

 そういって、ここは今いるメンバーの中で最も低身長かつ身軽なマリアが、ヤシの木をすいすい登っていった。

 さすが普段は海辺で暮らす島の女。途中から木が重みでしなり始めても、そう簡単に折れないと分かっているからか決してものじせず、天辺まで辿り着くのが早い早い。


「とったよ~♪」


 木を登り始めてから、わずか20秒ほど。

 マリアが今にも折れそうな木の天辺から笑顔を向け、チャームを握りしめた腕を振った。


 チャームのロゴは、よく見ると竜巻マーク。

 という事は、クリスタルの主はあのツートンカラーヘアのヤンキー男か!

 マリアはすぐに木を降りた。


「よっと。ねぇ、冒険の途中だけどこれ、持って帰ってアゲハに報告する?」

「ううん、できるなら今すぐ解放しよう。報告は後でもいいよ。もしかしたらこの砂漠を多く見てきて、俺達より詳しいかもしれないし。ね?」


 僕はそういって、ミネルヴァへと目を向けた。

 どうやら彼女も同じ意見らしい。僕の視線の意味を察したのか、すぐコクリと頷いてはマリアの手にあるチャームへと歩み寄った。



 笑顔でチャームを差し出すマリア。

 それをミネルヴァが、ゆっくりと手をかざす。


 チャームは、ミネルヴァが近づき、力を注ぎ入れるにつれ発光が強くなってきた。



 光が、次第に強くなる。つむじ風も吹いてきた。

 白から、やがて虹色の光へ、そして――!


 ドーン!!



 チャームからお馴染み、光のスライムが宙高く発射された。

 弧を描きながら、すぐ近くのオアシス目前にて着地する。そいつの足元には小さな電流がビリビリと放出された。


 やがて電流がすぐに収まると、僅かに湯気を上げながら、身体が実体化していった。


 長身で色黒、磁力を駆使した高速移動技が得意の男。「ヤス」ことヤシル・カリーファの解放である。




「…あ゛ー。『地に足をつける』って、こんな感覚だったか。久々だな」


 なんていいながら、某アクションSF映画の人型アンドロイドがやってそうな着地ポーズから、普通の立った姿勢へと戻すヤス。

 生身の身体の一部または全体に、義骨として医療用の合金を組み込まれた「サイボーグ」の類としては、これでリリーに次ぐ2人目の解放かな?


「久しぶりね、ヤシル。あのお別れ会のあと、急に異世界に飛ばされて困惑したんじゃない?」

「はっ、ったりめーだろ。目が覚めたら砂の上で? 途中からなんか黒ずくめのよく分かんねぇ連中が、でっけぇ扇風機みたいなもん幾つも彼方此方あちこちに置いていく様子が見えて? で、それからはずーっと砂嵐しか見えねぇ状態よ」

「えー」


 と、僕はヤスが今日まで遭遇してきた様子を耳に困惑したが、今なにげに聞き捨てならない単語が幾つか出てきたぞ?

 その意味に、マリアもヒナも察する。ミネルヴァの目が鋭くなった。



「なるほど。地理的に、あんな大規模な砂嵐が発生しているのはおかしいと思ったの。あれは、フェブシティのテクノロジーを駆使した人為的現象だったのね。


 きっとその先の… 誰にも知られたくない、何か実験的なものを、隠すために」


(つづく)

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