第4話

◇◆◇



「デルフィーヌ!」


「あ。レックス。久しぶりね。どうしたの?」


 勇者パーティは勇者レックス含む幼馴染三人なんだけど、彼らはまだ冒険の旅に出発していない。


 旅に出ても彼ら四人は、大きな功績で名を上げたりした節目節目に故郷へと何度かは帰って来る。けど、出来るだけ早く魔法薬を作れるようになって、勇者の幼馴染デルフィーヌのお役目を果たして置きたい。


「なんか、最近……付き合い悪くない? 何か気に入らないことあった? 誰かに何か言われた?」


 王道ハイファンタジーヒーローらしく、集団の中ではぶれた子も気になってしまうリーダータイプの性格のレックスは優しい。本当に優しくて、彼にはいやらしい下心が見えない。


 本当に、誰にだって優しいのだ。にくらしくなるくらい。


 けど、私はレックスが可愛い女の子には全員に優しくて、困ったことがあれば率先して助けてくれる男だって知ってる。


 私は私にだけ、優しい人が良い。万人に優しい男ではなくて。


「そんなことないわよ。けど、最近将来的なことを考えるようになったの。私も早く一人前になって、お金を稼げるようにならないといけないから」


「……それって、最近デルフィーヌの家の薬屋に住み込みすることになった男に関係ある? グスタフだっけ?」


 耳が早いと思ったけど、それも当たり前のことかしら。この街はあまり人も居ないし、人間関係は密接で誰かが何か変わったことをすれば、一日も経たないうちに全員が知っている。


「グスタフは関係ないわ。けど、あの子はとても良い子よ。レックスも仲良くしてあげてね」


 ギュスターヴことグスタフは、ボロ布のようになっていたけど、お風呂に入れてあげたら見違えるように素敵になった。流石、世界を滅ぼすラスボスなのにヒーローレックスと人気投票一位を争っていただけのことはあると思う。


 黒髪黒目で人形のように整った顔立ちに、どこか妖しさを感じる色気。それに、何も知らないという純粋さと天真爛漫さ。危うい均衡の中で、なんだか不安になってしまう魅力。


「……良い子なのか?」


 レックスはいぶかしげに聞いたので、私は不思議になった。どうして、そんなことを彼が言ったのか、本当にわからなくて……。


「すごく、良い子だけど……え。どうしたの?」


 私はようやく隣に居たレックスを真っ直ぐに見たので、やっとこっちを向いたと思ったのか、彼は嬉しそうににかっと笑った。


 ……心臓に悪い。


 だって、前世の記憶を取り戻すまでレックスのことを本当に好きだった訳だし、私には好きだという記憶が残っている。


 けど、冷静に考えて、どんなに大好きな人でも、絶対に叶わない恋ならば、未練なく身を引きたかった。


 レックスは金髪碧眼で凜々しく精悍な顔で、逞しく鍛えられた冒険者らしい身体を持ち、誰もが勇者と聞いて想像するようなTHEヒーローと言える外見を持っている。


 まあ……控えめに言っても格好良いし性格良いし、世界救っちゃうくらい意志だって強いし、女の子にモテない訳がないよね。


 レックスのことは嫌いでないから、厄介なのだ。彼の傍から離れないと、すぐにより好きになってしまいそうで。


「いや、それなら良いけど。最近、俺らの狩り場で魔物がよく倒されててさ……なんか、変なんだよなー」


 レックスは頭をかきながら、話題を変えた。

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