第30話 王は説教した後、方向を示す
「恐らくゴーダンの王が圧政を強いているのはわざとで、奴隷を作るためでしょう。それにゴーダンは元々はかなり裕福な国だったのではないでしょうか?おそらく畑は相当大きいと思いますし、漁獲量もそれなりにあったのでは?まぁ、だからこそザルビンのような国に狙われてしまったんでしょうが」
「あ・・」
「なので元々食料はかなり備蓄されていたと思います。今の状況がどの位続いているのか分かりませんが、奴隷を養い、戦争を起こすつもりならまだ食料はあると見ていいでしょう」
「おぉ」
「なので、国王、その他貴族達、贅を尽くす者には消えてもらい、奴隷を解放し働いてもらうことが出来れば大体10万人で15万人を支えるくらいには持っていけます。つまり夫婦二人共働きで年金を貰う老人が1人の状況です」
「これでも厳しいって言えば厳しいですが、まだマシになりますし、国庫は軍事費に消えてしまっているかも知れませんが、もしかしたら宝石、貴金属の類が残っているかもしれません。それならば食料の買付も出来ます」
「ふむふむ」
「それでも国を立て直すまでに援助は当然必要ですが、遠く離れた我が国がいきなり介入したら、我が国が侵略したと思われるかも知れません。そうなるとゴーダンが今後、近隣諸国との付き合いにも問題が出るかも知れません」
「・・・・・・」
「なので、私がアキト様と仮定して動くとしたら、まずセイランに介入します。新しい王が立つのを援助し、速やかにセイランの国内の安定を図ります。我が国が介入するとしたら、そのタイミングですね。セイランの人道的支援として介入したとして他国に言い訳が立ちます」
「ふむふむ」
「そしてゴーダンが攻めてくるのを待って返り討ちにするか、奴隷解放を大義名分としてセイランにゴーダンを攻め入らせます。勿論、裏で介入してゴーダンもすぐに開放してしまえば、近隣の国も文句はつけてくるかも知れませんが、積極的に参戦はできないでしょう」
「おぉ!」
「なので残りはザルビンですね。ゴーダンがセイランに落ちれば攻めてくるでしょう。ここはアキト様には申し訳ないんですが、ザルビンの王族だけ消えてもらうとしても、あとはセイランとゴーダンの状況が落ち着かないうちは援助も難しいでしょうね」
「そうですか・・」
「まぁ、セイランの王として立つ者の資質にもよると思います。一気に勢力を拡大するか、じっくり行くかで変わってきます。まぁセイランに余裕があればあるほどザルビンの方も早く何とかなるかも知れませんね」
「おぉ流石、国王様!」
「いえいえ。良いですかアキト様。大事なのは先ず情報です」
「はい」
「正しい情報を正しく把握すること。そして正しく判断し正しく動くこと。それが出来れば、アキト様が思う困っている人を助けたいという事に繋がってくると思います」
「そうですね・・でも、その判断が難しくて・・」
「1人で判断すればそうでしょうね。どうしても視点が狭くなりますから。だから難しければ誰かに相談してみて下さい。そうすればその分視点が広くなります」
「分かりました、ありがとうございます!」
その後アキトは国王達と雑談を交えながら食事をし、中央サークル王国がセイランの援助をするならまず転移システムの設置が必要であるとの結論に達した。
そして転移システムに必要な魔石は在庫があるとのことで、アキトがセイランに介入し、セイランの国内を安定させた後、中央サークル王国との仲介を行い、作業員の安全が確保されるようなら転移システムの設置を行う事をカリム国王と話し合った。
「いやぁ、ありがとうございます。光が見えてきました」
「それなら良かったです。応援していますので弱き民の為、頑張ってください」
「はい。では失礼します!」
笑顔でアキトはアーシェと共に転移していった。
「ふ~、喜んで貰えてよかった・・」
「本当ね・・アキト様は気付いてなかったみたいけど、会話の最中にアーシェ様の視線が鋭くなったのよね。久しぶりに薄氷の上を歩いた気分だったわ。もうこんな事は勘弁ね」
「国王様。お客様の席にこんなものが・・」
メイドが持ってきた一枚の用紙。国王カリムがそれを見ると
【良くやりました。少し説明しすぎでしたし、行動指針までは蛇足ではありましたが、アキト様が様々な視点からの洞察を学べた褒美として、契約書の中の国からの報奨金から20%分を後ほど中央サークル王国に寄付することを約束します】
「あぁ、やっぱりアキト様の教育が目的だったか。読みが当たって良かったぁ・・少しやりすぎてしまったようだが」
「でもカリム、良くやったわ。そして20%・・6000億ね。正直助かるわ」
「だが、準備を進めないとな。指導員やら援助するものやら」
「そうね・・」
アキトは王視点からの問題解決のヒントを貰えたことで心が軽くなっていた。
「やっぱり、王様になる人は違うな。単に奴隷を王国に亡命させればって思ってたけど、いろんな考え方があるんだな。それに情報、把握、判断、行動。そして相談することか。前の仕事に通じるものもあるのに、力押しに慣れちゃったのかな?」
アキトは国王とアーシェの会話を思い出し、アーシェに相談をする。
「ねぇ、あーちゃん。その売られた奴隷ってどこに行ったのかわかる?」
「えぇ、ザルビンとセイランですよ。ザルビンは単純に労働力として8万人連れ去っています。セイランは王になろうとしている転生者、セイヤの敵側であるヒューリー男爵家が肉壁兼兵士として使うために無理矢理2万人を買い上げているようです」
「セイランとザルビンに連れ去られた奴隷を戻すことが出来れば、ゴーダンの労働力問題は何とかなりそうだけど、食べさせるものがあるかどうか・・じゃあ、やっぱり西の国から介入したほうが良いよね?」
「そうですね。味方は多いほうが良いですからね。セイヤを味方に付けたほうが良いでしょうね」
「ちなみに、その奴隷達ってやっぱり魔法か魔道具で逃げられないようにされているの?」
「いえ、焼印を押してこいつは奴隷だぞ、こいつには人権が無いぞっていうのが皆に分かるようにされているだけです」
「え?じゃあ逃げようと思えば逃げられるんじゃないの?」
「実は奴隷の主人・・この場合は奴隷を所有している人達ですね。が、この奴隷は自分の所有だと言う証を身に着けさせるんです。で、その主人というのは王かその側近のみに限られると法律で決まっています」
「ふむふむ」
「なので、たまたま民家に奴隷が居たって言っても通りません。更に証を付けていない奴隷が街を歩いていたら、誰に殺されようとも、殺した者が罪に問われることはありません。むしろ殺さないと今度は自分が奴隷を見逃したという罪で奴隷に落とされます」
「はぁ!?何それ!」
「ザルビンが撒いた悪法です。頭も精神も未熟な者が徹底的な支配を目論んだ結果、こんな悪法がまかり通り、ザルビンは人口が一気に減りました」
「バカだろ?どうしてそんな酷いことを・・」
「バカでしょう?対処方法、もしくはちょっと頭が回れば幾らでも抜けられるやり方です。ですが、ザルビンは文明の程度が他国より低く、民は教育を受けていません。力で支配することも、されることにも疑問を持たないのです。だからこの程度でも通ってしまうのです」
「・・・・・・」
「あの辺りの奴隷騒動の諸悪の根源はザルビンですからね。とは言え手を付けるならやはり西の国からでしょう」
「そっか、ありがとう」
「いえいえ」
「・・・・・・」
「?」
「ねぇ、あーちゃん。何でさ、あの時僕を諦めさせるような事を言ったの?」
「う~ん、どうしてでしょうねぇ」
「・・・・・・」
「気付きませんか?」
「え?」
「気付かないならまだまだです。私の方からは何も言うことはありませんね」
「あーちゃんの事だから僕のためだって言うのは分かるけど・・」
「なら、よく考えてみて下さい。そして気付いたのならこれからの行動に活かしましょうね」
「うん・・」
アキトが肩を落としトボトボとフェアリーの部屋に向かっていく。アキトが歩いているとフィーとリーがやってきた。
「かみさま。かみさま」 「かみさま。かみさま」
「ただいま。フィーとリーはお利口にしてた?」
「うん。おみやげ?」 「おみやげ?おみやげ?」
「あぁ、ごめん。今日はお土産無いんだ」
「ない。おみやげ?」 「おみやげ?ない」
「また、明日出かけるから余裕あったら探してくるね」
「うん。うん」 「うん。うん」
そしてフィーとリーが飛び回る様子を見てアキトは気付く。
「あぁ、そうか。この部屋・・この部屋だって結局皆に作ってもらったんだもんな。俺は助けることに夢中になって助けるって事がどういう事か分かってなかったんだ」
「そうか。だから、わざとあーちゃんは諦めさせるようなことを言ったんだ。カリム国王に教わらなければ、中央サークル王国すら巻き込んだ大騒動を起こすところだったんだから・・幾ら力があろうとも15万人もの命を背負うって事をそんな軽く考えちゃ駄目だよな」
アキトは俯き、思わず呟く。
「俺はまだまだだな・・」
「まだまだ。まだまだ」 「かみさま。まだまだ」
するとアキトの呟きをフィーとリーが拾う。アキトの呟きの意味をフィーとリーが理解しているかは分からないが、そんな様子にアキトは思わず笑顔になる。
「うん、そうだね。俺はまだまだだ。だから頑張るよ」
「かみさま。がんばる」 「がんばる。かみさま」
「ありがとう。おやすみ、フィー、リー」
「おやすみ。かみさま」 「ばいばい。おやすみ」
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