私、今日から東京地検アルスタン王国第二都市ミルティーユ中央支部で働きます!
勘解由 瞬
序章 プロローグです!
皆さん、こんにちは、こんばんは、私の名前はフォーリア・ヌオーヴ。
今、病院のベッドでこの文章を書いています。
私は昔、検察事務官として働いていました。
こうしてベッドで横になって何もしない時間が多くなると、ふとしたときに昔のことが次々に思い出されます。
楽しかったことや、つらかったこと、悲しかったことに、嬉しかったこと。
いろいろな思い出が蘇ってきます。
あっ、日本の方がこの文章を読む可能性もありますね。それならば、私たちの世界のことなどを少し説明しておきましょう。
今の時代、もう教科書などで知っている方もいるかもしれませんが、一応知らない人のために説明します。知っている人は、この部分は飛ばしてもらっても構いません。
まず、私たちの星ですが、名前をトルネリアスといいます。異世界の地球とは異なり、魔法がある世界です。魔法とは所謂、地球の皆さんが想像していたようなものです。
そして、その星にある国の一つが、私の出身国であるアルスタン王国です。
私が生まれる前の、ある日のことです。
アルスタン王国第二都市ミルティーユの近くの森の中に、大きなワープゲートが出現しました。
ワープゲート自体は、特段珍しいものではありません。上級貴族の方々などお金をたくさん持っている人は、隣の国に赴くのによく使っていました。
しかし、その日出現したワープゲートは一般に使うものとは規模が違いました。
魔法使いが作り出せるワープゲートの大きさを優に超えていたのです。
人々は、急に出現したそのゲートに恐怖を感じ、同時に期待もしたようです。
この先はどこに繋がっているのだろうか。もしかして、まだ行ったことのないどこか遠いところに繋がっているのではないか。
様々な想像を膨らませ、人々はそのゲートがどこに繋がっているのかがわかるのを、維赤今かと待ち望みました。
そして、王国の騎士数名がゲートの向こう側へと行きました。
その結果、ゲートは人々の想像をはるかに超えて、ほかの星、所謂異世界と繋がっていることが分かりました。
それが地球の日本というところで、その中でも東京と呼ばれる、ミルティーユよりかなり大きな都市でした。
ゲートの繋がっている先が判明してからというもの、互いの国はすぐに使者を交互に送って、外交関係の話し合いをしました。
それから、二カ国は互いに貿易を行っていこうという条約を交わしました。
しかし、そこでワープゲートのある欠点が判ったのです。
それは、自国で作った工業製品はワープゲートを通すと消滅してしまうということです。
都合のいいことに服などといった衣服類は消滅しないものの、剣や弓などといったものは互いの国を行き来することができなかったのです。
ですから、二カ国はさらに協議を進めました。
そして最終的に出された案が、物が運べないなら、人材を運ぼうという案でした。
しかしまた、新たな問題が生じました。
それが、アルスタン王国の法制度でした。当時のアルスタン王国は、日本に比べて法整備が圧倒的に遅れていました。
悪行も、現代のように裁判で法をもって裁くのではなく、王立審問会と呼ばれる会の審問員数名の独断で悪行をした者の処遇を決定していました。
法律なんてものは一切なく。ただ、八か条の王則と呼ばれる、規則があっただけでした。
八か条の王則とは次に示すものです。
『一つ 汝、王国の民は国王の名のもとにその生を享受すべし』
『二つ 汝、王国の民は国王の御意思に従い生活すべし』
『三つ 汝、王国の民は王国の秩序の維持に努めるべし』
『四つ 汝、王国の民は互いに協力して王国の発展に努めるべし』
『五つ 王国の民とは我が国の領土内で誕生、若しくは居住している者のことを指す』
『六つ この王則は国王の名のもとに発布され、発布から二十日が過ぎた日の日の出をもって施行される』
『七つ この王則を改変する際は、国王の認可を必要とする』
『八つ 王国の永遠の発展と繁栄をこの王則を以て宣言する』
当時の日本は、これだけしか規則がなく、治安も安定していなかったアルスタン王国に自国の貴重な技術者を送ることはできないと苦言を呈しました。
そこで、まず両国が取り掛かったことが、アルスタン王国の法整備でした。
基本的に日本の法律を大部分で適応し、一部アルスタン王国に合うように改変もしくは追加がされました。
そして、ワープゲートが出現してから一年と三か月後、第一陣として憲法と刑法と刑事訴訟法が施行され、王国の治安と個人の権利が劇的に改善したのち、初めての日本人技術者がアルスタン王国に足を踏み入れました。
その時にアルスタン王国に生まれたのが、裁判という概念であり、同時に裁判官や検察官、弁護士といった職業が生まれました。
私が職に就いていた数十年前は、まだ刑法施行から三十年ほどのことだったので、アルスタン王国民が裁判官などといった職業に就くことは珍しく、より専門的な日本の方が裁判官などの重要な仕事をし、私たち王国民の仕事はそれをサポートすることでした。
そして、その王国民のうちの一人が私です。
裁判官、検察官、弁護士の中で、検察官の方をサポートする検察事務官。
その名誉ある仕事に就けたことは、今でも誇りに思っています。
これで、ある程度の補足説明は終わりです。
解ったでしょうか。
もし、わからないことがあれば、図書館にでも行ってみてください。たぶん歴史の資料があるはずです。
話を元に戻しましょう。
では、これからゆっくりと、私の昔話をしましょう。
時間はたっぷりあります。
それでは始めましょうか。
私の長い長い昔話を。
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