第15話 一か八か
「二人とも、分かっているとは思うが、改めて決闘のルールを説明する」
神官マリルが俺とボーロを見て言った。
ここは、ダンジョン前の広場、
俺とボーロは五、六歩離れて
マリルの説明によれば、ルールは以下の通りだ。
一、決闘は剣による勝負とする。
一、とどめを刺してはいけない。
一、致命傷を与えるような箇所への攻撃は禁止。
一、どちらかが降参するか戦闘不能になるか、あるいは審判であるマリルが勝負ありと判断した時点で決着とする。
「それでは、よろしいか?」
「はい」
「ああ、いいぜ」
マリルの言葉に俺とボーロが答えた。
テシリア嬢も見てくれているはずだ。一瞬俺はテシリア嬢の顔を見たくなった。だが、
(だめだ……!)
俺は踏みとどまった。彼女は俺のことなんて見てないかもしれない。あるいは見ていたとしても、
『大して期待はしていないから』
という冷めた表情をしているかもしれない。
(そうだ、この決闘はテシリア嬢に頼まれたわけではない、俺が勝手に決めたことなんだ……だから……)
「よろしい、では、始め!」
そう言いながら、マリルが上に上げた手を振り下ろして決闘が始まった。
開始と同時にボーロは一気に間合いを詰め、左右への素早いワンツー攻撃を放ってきた。
(くっ……!)
俺は最初の攻撃を
(やっぱり速い!)
俺達が使っている剣は教会が用意してくれた決闘用の剣だ。
レイピアほど細くはないが、細めで軽い片手剣だ。
(両手剣なら俺にも少しは
などと、しょうもないボヤキを考えている間にボーロの攻撃はどんどん激しさを増していった。
彼の攻撃は素早いワンツー攻撃主体で、時折三撃目を入れてきたりする。
一撃目はかわせても二撃目を食らう。ならばと、二撃目に合わせて打ち込むと、受け流されて三撃目を食らうという有り様だ。
(王国一というのは嘘ではなさそうだ……)
俺達は一旦間合いをとってお互いに様子を見た。
まだ、始めて一、二分というところだが、俺は既に両腕を何箇所か斬られていた。
白いチュニックの袖に血が
「なんだなんだ、そっちから吹っかけておいてその程度かよ」
ボーロが思いっきり馬鹿にしたように言った。
悔しいが彼の言うとおりだ。
(返す言葉がない……)
(足を使ってみるか)
そう思って、今度は俺から間合いを詰めに行った。
リーチでは多少俺に
当然、ボーロはそれを楽々と
それに併せて俺は突きを放った剣を引きながらサイドステップでボーロの逆をついた。
そして、引いた剣でボーロの脇腹を突きにいった。
(一撃でも……!)
だが、ボーロはそれを読んでいたのか、あるいは、その一瞬で見切ったのか、ステップと
「ほう、やるじゃねえか」
ニヤニヤしてボーロが言った。
(やはりだめか、でも……)
足捌きは思いの
(足を使ってなんとか隙をみつけるか……)
俺のこの考えは悪くなかった。だが、絶えず動いていなくてはならない。
(確かにこれは体力勝負だ)
そんな時、一瞬打ち込めそうな隙が見えた。
(いける!)
俺はボーロの手元を、彼が剣を握る右手を狙って打ち込んだ。
ガキィーーッ!
俺の剣がボーロの剣の
「くっ……!」
ボーロが顔をしかめた。
手元近くを打たれて、多少は手が
「ブサイクな見た目通り地味でせこい攻撃だな、おい」
と、結構今の攻撃が効いたのか、憎々しげにボーロが言った。
(地味とはなんだ!小手打ちはテシリア嬢の得意技だぞ!)
と声を大にして言いたかったが、
『余計なことは言わないで!』
と、テシリア嬢に怒られてしまいそうなので、それは俺の胸のうちにしまっておくことにした。
その後も、俺は足を使ってなんとかボーロの隙をつこうとした。
だが、そこは彼も王国一の剣士だ。同じ手を二度も食うほど甘くはない。
そして、闘えば闘うほど俺の傷は増えていき、出血とともに体力が急速に減っていくのが自分でも分かった。
「ほらほら、どうしたぁ、そろそろ限界なんじゃねえかぁ?」
そう言いながら、ボーロは一つまた一つと俺の体に斬りつけた。
(やばいな……)
俺の両腕両脚は切り傷だらけで、出血もひどくなってきた。
「ノッシュよ、降参するか?」
神官マリルが俺に聞いた。
「いいえ……まだやります」
できるだけ体力の消耗を見せないようにと、姿勢を正して俺は言った。
(こんな情けない俺をテシリア嬢はどんな顔で見ているだろう……)
俺は彼女を見たくて仕方なかった。だが、彼女の顔に失望の色が浮かんでいたらと思うと恐ろしくて見ることができない。
(俺が負けるのは構わない……けど)
もし俺が負けたらテシリア嬢はどうなってしまうのだろう?
(いや、やはり負けるわけにはいかない、せめて……せめて相打ちにでも……!)
口では煽るようなことを言っているボーロだったが、さっきの小手打ちが効いたのか、その後はこっちの出方を伺うような戦法に変えている。
放っておいても自滅しそうな相手に無理に攻撃はしてこない。
ボーロは俺の足を警戒している。俺に勝機があるとすればそこだ。
(一か八かだが……)
俺は踏み込むと同時に突きを打った。ボーロは当然のごとくそれを軽々と捌く。
それまでの俺は、ここで後ろに引くか、横にステップしていた。
が、この時は更にもう一歩前に踏み込んだ。
「なっ……!」
さすがにこれはボーロも予想していなかったらしい。
だが、そこは一流の剣士、彼はすかさず踏み込んだ俺の左の
(ぐぁああーーっ!!)
ボーロの剣は俺の左腿を見事に貫通した。未だ経験したことがない激痛が左脚に走る。
だが、腿に刺さった剣はすぐには抜けない。
俺はその時既に剣をボーロの右手に振り下ろしていた。
ガシィッ!
俺はボーロの右手の小手に渾身の一撃を見舞った。
「ぐぁああああーーーー!」
ボーロが激痛に喘ぎ、剣を持つ手を離す。
そして、俺はボーロの喉元に剣を突き付けた。
「それまで!」
マリルの声が響いた。
「勝者、ノッシュ=ノール!」
(勝ったのか……俺……?)
歓声がぼんやりと聴こえる。
ボーロの喉元に剣を突き付けたはずだが、
(なんか、よく見えないな……)
視界が白くぼやけている。
(そうだ、剣を……)
俺は左腿に刺さったボーロの剣を抜いた。
「ううっ……!」
(
「ばか、やめろ!」
マリルが言うのが聴こえた。
(あれ……?)
剣を抜いた左腿からドバドバと血が流れ始めた。
(あ……やばいかも)
膝の力が抜け、俺はガクリと膝をついた。
(うう……さすがに疲れた……)
白くぼやけた視界に地面が見える。その地面がゆっくりと近づいてくる。
(なんで地面が……)
バチィイイーーーン!
(すげぇ音……)
その時――
―――ノッシュ
――――ノッシュ
(テシリア嬢……?)
――――ノッシュ!
(テシリア嬢が……初めて俺の名を……呼んでくれてる)
―――ノッシュ!!
(決闘をしたかいがあったなぁ……)
――――――――
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