魔導十傑訓練

修行の始まり

修行の始まり

 二三冊目のノートを捨て、二四冊目のノートに続きを記す。

 一冊百ページ近いノートの中は、まだ二〇歳の青年が書いたとは思えない難解な数式の羅列がビッシリと書き記されている。

 そのまま二四、二五、二六とノートをどんどんと真っ黒に埋めていき、数式を書き記して来たノートの数が三〇に届いた時、立ち上がった青年は階段を駆け下りて地下へ。

 かれこれ二時間近く格闘して来た数式を体現し、具現、発現へと至った時、彼の考案していた無詠唱魔法が完成した。


(出来た……!)

「これは……一体どう言った魔法なのですか?」


 魔法学校コールズ・マナの理事長、アンドロメダ・ユート・ピーが様子を見に来た。

 青年、コルト・ノーワードの周りには、様々な色で輝く光の粒子が漂っている。コルトが魔力を練り上げるとそれらは光に集まる虫のように集まり、練り上げられた魔力をより眩く輝かせ、より強い魔力のを灯らせた。


(古き文献の中にあった、魔法使い補助の魔法。小さき精霊を行使し、魔法の補助をしてもらう簡易補助魔法……本当は精霊との契約が必要なのですが……)

「まだ魔法が、精霊と共に起こしうる奇跡と信じられていた時代の魔法ですか……今となってはもう忘れ去られてしまった秘術だというのに、よく再現出来ましたね。それも、無詠唱でなんて」

(古き文献の中のの定義があやふやだったので困りましたが、大気中の魔力の残滓と分かれば簡単でした。魔法強化の魔法……“スピリッツ”とでも名付けましょうか)

「まだ魔法に名前もなかった時代の魔法が、こうもあっさりと復元されてしまうだなんて……やはりあなたは天才ですね」

(当時としては基礎中の基礎みたいな技術ですけどね……実現に四日もかかってしまいました)


 逆に言えば、たった四日で誰も復元出来なかった魔法を復元したと言う事だ。普通に考えても普通じゃない。

 さすが世界魔法使い序列二位に最年少で入った魔法使い。

 つくづく、天才。


(それで、他の皆さんはどうですか?)

「えぇ。序列圏外の魔法使いを中心に鍛えていますよ。ただ……ちょっと苦戦しているようですが……」


 コールズ・マナに集った魔法使い達。

 今も通う現役生。かつてこの学び舎で勉学に励んでいた卒業生。コールズ・マナの狭き門に入れず、独学で魔法を学んだ現役の魔法使いら、世界魔法使い序列圏外の魔法使いが、魔法を極めた魔導十傑から魔法の基礎から応用まで、しっかりと叩き込まれていた。


「戦いに求められるのは魔力、気力、それら以前に……体力! 魔導書読んでも体力つかねぇぞ! 知識だけあっても、戦場で生かすだけの体力がねぇと持たねぇぞ!」


 シシド・レオニーダが指導するおよそ五千人の魔法使い達。

 全員で息を合わせて腕立て伏せをしていると、明らか体力不足の巨漢魔法使いがその場にへたり込むと、シシドの足が巨漢を踏みつけた。


「おら、負荷かけてやるから頑張りな。全員が回数こなさないと、先に進められねぇだろうが」

「は、はい……!」


 また別の場所では、魔導騎士グラディス・クラウディウスが二千人近い魔剣士一人一人に稽古をつける。

 自身は一切休みなし。

 だがその剣は二千人を相手にしても一切揺らぐ事なく、繰り出すごとにより正確な剣筋で生徒達を鍛えていく。


「脇が甘い。そんな力任せで振り回して、悪魔など斬れるものか!」


 懐に入り込み、脇の下を峰で殴る。

 殴られた衝撃で体が吹き飛び、その剣士は失神させられた。


「次だ」


 皆が譲り合う。

 と、グラディスの方から皆の方へ跳び込み、木刀で順に殴って意識を奪っていく。


「自ら一歩踏み出さない奴に前進する道はない! とっととくたばるか、足掻く前に死ぬか……それが嫌なら、戦え!」


 一方、学内で最も大きい講義室では、バラガンによる高速詠唱の技術が行われていたのだが――


「――。――、――」

(((何言ってるか聞き取れねぇ……)))


 全会話内容、高速詠唱につき誰も聞き取れず。

 だがこれも、皆が悪魔と戦えるようにするための訓練。


 魔法に長けた悪魔族の大半は高速詠唱を使ってくる。彼らの魔法を常に見てから判断し、対応していたら後手の一貫が出来てしまう。

 後手ばかりに回っていたら負けてしまうのは必定。


 ならばどうするか――敵の先手を取る。

 相手の高速詠唱を先に読み取って、こちらの高速詠唱で先に攻撃すればいい。


 無論、言ってしまうのとやってしまうのとでは難易度が丸っきり違うのだが、それは最早言うまでもないと言う事で。


「――」


 まずは日常会話を聞き取れるようになって。


「――」


 次は自分の行使する魔法を聞き取れるようになって。


「――」


 最後に実戦の中で聞き取り、剰え反撃出来るようになって貰いたい。

 と、バラガンは言ったのだが、誰も聞き取れている者はいなかった。


 そして、コルト・ノーワードの分野は無詠唱魔法。

 新しく開発した汎用性魔法を、比較的戦力の低い魔法使いらに使って貰いたい訳だが、詠唱魔法が主流の世の中で、無詠唱魔法を受け入れて貰うのは、なかなかにハードだった。


(では皆様。早速始めて参りましょう)


 魔導十傑による訓練。

 その名もズバリ魔導十傑訓練の始まりである。

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