魔導十傑―Ⅱ

 魔導十傑、集結。

 五年前の魔王戦以来の顔合わせ。


 最年長のアンドロメダはまるで変わらないが、最年少のコルトが若干大人びた事に時間の流れを感じさせられる。

 が、残念ながらコルトは身長があまり伸びなくて、一七〇も無かったので、大柄な男や長身の女性が多い十傑の中に入ってしまうと、まだまだ子供だと思わざるを得なかった。


「久し振りだなぁ、愛弟子。五年経ってもほとんど変わらねぇのな、おまえ」

(お久し振りです、シシドさん。残念ながら、体はあまり大きくならなくて……)

「コルトはそれでいいのよ」

「私達が、抱き着きやすい、です」


 と、コルトの左右に座ったエティア姉妹が左右から腕を組んで来る。

 真正面に座るシシドは、呆れた様子で。


「へいへい。そりゃようござんしたね。相変わらず、俺の愛弟子はモテるこって」


 ちなみにシシドがコルトをと呼ぶのは、実際にシシドがコルトに体術を叩き込んだ師匠だからだ。

 魔法の才能には恵まれていたコルトだったが、幼少期は体が弱く、病気しがちだったコルトの体を強くするためにシシドが彼を鍛えたのだ。

 故に二人は師弟関係に当たり、コルトもそれは認めていた。


「魔王の呪いは解けていない、か。コルト、おまえなら解術の術など幾らでも思い付きそうなものだが?」

(そんな簡単じゃありませんよ。それに悪魔族相手に限られますが、魔王の覇気をぶつけて威圧する術を身に着けましたし、これから悪魔族を相手にするなら、有効活用出来るかと思います)

「それに、魔王がまた声の封印をして来ないとも限らん。それはそれで面倒だ。そうだろう、グレンマルス」

「それはそうだが……何かと不便であろうに。魔力が尽きてしまえば、“テレパス”とて使えぬのだぞ?」

「コルトの事だ。敵と戦う途中で魔力切れを起こすなんてヘマはすまい」


 グラディスの言葉にグレンマルスは頭を抱えているが、コルトは笑顔で。


(大丈夫ですよ、グレンさん。あれから僕の魔力量も上がっていますし、今も魔力量を上げる訓練は続けています。皆さんの足を引っ張らないよう、頑張っていますよ)

「ウム……まぁ、おまえの実力を知らん訳ではないからな。ただ、儂から見るとおまえもそこの左右の娘達も、単なる子供だからのぉ」

「――」


 五〇〇年も生きているあなたからすれば、人間みんな子供でしょう。とはバラガンの意見。

 高速会話は健在なんだな、とコルトはフードを深く被って隠す彼の顔色が窺い知れずに心配だったが、元気そうだとわかって安堵した。


(アルファ。リリスさんは元気?)


 リリスの代理人たる四人を代表し、アルファが席に座り、他三人は彼女の後ろに並んで立つ。

 アルファは髪を掻き上げ、黄金色の髪から発する火の粉を隣に座るシシドへと飛ばした。


「問題ありません。ただ此度の件、主は大変心を痛めておりました。また多くの人が死ぬ。その前にまた、大量の代償が必要になるだろう、と」

「そこは研究者には定番の、進化には犠牲が必要なのだ、とか何とか言っておけばいいものを。心底善人だねぇ、おまえ達の主様は」

「……シシド・レオニーダ。主への軽率な発言は許しませんよ」

「罵った訳じゃねぇだろ。ただ今更だって話だ。命の冒涜だの禁忌だの、あいつは犯しに犯しまくってるだろ? その結果生まれたのが、てめぇらホムンクルスなんじゃねぇか」

「あなた……消し炭にされたいの」

「死にたいのかしら」

「僕が斬ろうか?」

……殺す

「ホムンクルス風情が、俺に勝てるとか思ってんのか? あ?」


 五人の魔力が膨れ上がる。

 アルファとシシドが立ち上がって即交戦となりそうだったが、アルファにはベアトリーチェの鎌が、シシドにはグラディスの魔剣が突き付けられ、ベータ、ガンマ、デルタの三人はずっと沈黙を守っていたアンドロメダの多重結界で拘束された。


 更に二人の間に、グレンマルスの巨体が割って入る。


「弁えろ貴様ら。ここはこれから一丸となって立ち向かわねばならぬという話し合いの場ぞ。ここに集った十組は全員が仲間。仲間同士で傷付けあって戦力を欠く馬鹿が、魔王なんぞに勝てるものか」

「二人共、さっさと魔力を抑えろ。この現場を見られたら厄介な人がいるのを、忘れたか」


 グラディスの発言に二人はハッとさせられる。

 だが時は既に遅く、扉を蹴破ったヒールを鳴らして入って来た戦闘狂が、恍惚の笑みを浮かべて全員に視線と殺気を向けた。


「始めるのか?! 始まるのか?! そうだとも、そうであろうとも、そうでなくてはならん! 魔王以前に貴様ら全員と殺し合うのも悪くない!」

「――」


 遅かったか、とはバラガンの声。


「十三対一か……充分だ。さぁ、殺し合いだ!!!」


 吹き荒れるゼノビアの魔力。覇気。

 魔導十傑の面々で無ければ、彼女を前に立つどころか、意識を保つ事さえ出来ない。

 特にスイッチが入った時の彼女の圧は、魔力だけで周囲の物体を圧し潰す。


「こら」


 と、後ろから杖がゼノビアの頭を叩く。

 魔力も覇気も嘘だったかのように消えて、ゼノビアは頭を痛がった。

 軍帽を被っている上、ただ軽く小突かれただけなのに、戦闘狂にして最強の女が、目尻に涙を浮かべて痛がっている。


「仲間同士で争うなんて愚かだと、グレンマルスさんが言ってくれたばかりでしょうに……まったく、しょうがない人だ、あなたは」

「ダブルグラス……」

「皆様お久し振りです。すみやせん、こんな老いぼれが最後に来ちまって。どうぞ、席に着いて。早く会議を始めやしょ。ねぇ、アンドロメダさん」

「そうですね。皆、自分の席へ。ここから先、軽率な行動は慎む事です」


 世界最強、エフィルトール・ダブルグラス。

 彼の出現で、全員が押し黙った。騒然としていた場が静まり返り、全員が静かに己の席に座し、場が整った。


「いやいや、すみやせん……コルトさん、調子は如何ですか」

(お気遣いありがとうございます、エフィルトール様。あなた様に関してましても息災のようで、何よりでございます。此度はわざわざ遠方から足を運んで頂き、誠にありがとうございました)

「はは、堅苦しいなぁ……止して下せぇ。あっしゃあ、戦うしか能のねぇ老害だ。敬意を払う必要なんて、ありゃしやせん」

「……では始めましょう。五大魔王ペンタグラム対策会議を」

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