電脳魔導のマギテクス ~SF世界でなんでも強化する付与魔術はちょっと最強すぎる件~

薄塩もなか

#001「装甲列車を停止しろ!」

「さぁ本日もやってまいりましょー!! 今回は軍の装甲列車をジャックしたオークたちの制圧任務だーっ!!」


 ヘッドフォンから聞こえる高い声。

 任務の実況を始めるオペレーターがどこにいるというのか。

 …………あいにくと、それが俺のオペレーターだ。


「黙れ、アヤネ。うるさい」

「おいおい、ボクがうるさいのは今に始まったことじゃないだろ!? それにテンション上げてやっていかないとつまらないよ、こんな任務!」

「おまえはただオペレーター室からドローンを制御するだけだろうが」


 俺は自分の周りを飛んでいるいくつかの、小さな円盤を見た。

 アヤネの操るドローン。マルチビットとか言ったかな。様々な機能があるが、単体ではそれほど強くはない。俺が近くにいて、補助する必要がある。


「一応、電脳潜航サイバーダイブで意識はこっちにあるんだよ?」


 電脳潜航サイバーダイブ。いわゆる意識を電脳に潜航させる新時代の接続方法だ。もちろんリスクもあるのだが、アヤネは気にしていない。


「おっと! 列車がやってきたよ! 飛び乗って!」

「……ずいぶんと劇的な任務だ」


 歩道橋から飛び降りて、下の線路を通ってきた装甲列車に飛び乗る。

 残念ながら列車を操っているオークたちに見つかってしまったようで、ぐおぐおとやかましい声を上げ、牙をむき出しにして銃を構えている。


「オークというのを知らない皆々様にご紹介! オークっていうのは緑色の肌をした豚人間だね。おっと! 比喩じゃないよ! 顔が豚だし、かなり太ってる! 醜いなんて言ったら……保護団体に怒られちゃうかな!?」

「…………アヤネ、まさか外部に通信を繋げてるんじゃなかろうな?」

「まさか! 上層部の報告用に一応解説してみただけさ!」

「必要ない」

「ツルギきゅんのいじわる~~!」


 アヤネが目の前にいたら、舌でも出してこちらを挑発しているだろう。もっとも俺の目の前にはゆらゆらゆれるマルチビットと、武装したオークの群れしかいないが。


 ドドドドドドド、とオークたちが俺に向けて銃撃を始めた。

 マルチビットが俺の前に飛び、エネルギーシールドを展開する。小さなドローンにも装備できるこれは、希少な魔石を使っているとはいえ、それほど強固ではない。

 俺の付与魔術抜きならば、の話だが。


 右手を前に突き出し、付与魔術でシールドを強化する。

 特にエフェクト的な変化はない。付与とは気づかれる時点で三流なのだ。


 銃弾を弾きながら、装甲列車の屋根に登ってきたオークに近づいていく。

 背中にセットしていたブレードで、銃器ごとオークを切り裂いた。


「ブヒィ!?」


 当然、このブレードも俺の付与魔術をかけている。

 もっともそうしなくても、十分に名刀ではあるのだが。

 かけない理由がないからな。


 さて──残り三体か。

 しかしこいつらを長々と相手している暇はない。


 運転機能のある最前車両に乗り込んで、列車を止めなければならないからな。

 でなければ十数分後にはこの列車は終点へと突入し──ドカンだ。

 俺は装甲列車の屋根を切り裂き、内部へと潜り込んだ。


「ぶ、ブヒィ!?」


 上の奴らがうるさいが、無視だ無視無視。

 内部には兵士たちの死体がそこらに散らばっている。

 本来の装甲列車の持ち主だ。底まであいつらが強いと思わないが……。


「うひゃ~~! これはきっとアレだね。あいつらをまとめるボスがいるよ!」

「そりゃあリーダーはいるだろうが……」

「そうじゃなくってぇ……ボスは強いって相場が決まってるんだよ!」

「ゲームの話か?」

「この先にはもう戻れないよ! セーブしていくかい?」


 当然、セーブ機能なんてあるわけがない。アヤネの茶目っ気だ。

 これはゲームではなく、現実なのだから。


「勝手にセーブしておけ」

「オートセーブだね、了解!!」


 線路を遮る扉を切り裂き、前へと進んでいく。

 すると一回りほど他のオークより巨大なやつがいた。

 その手にはガトリングが握られている。


「ぶははははは!! その黒髪、黒いコート! 噂に聞く、連邦局の死神だな!!」

「ほう、俺を知っているのか」

「一応な。だが今日から忘れてしまってよさそうだ!!」

「たしかに。死んでしまえば死神も怖くないからな」

「ぶははははは!! ……死ぬのは、貴様だ!!」


 ガトリングが回転し、銃弾の雨が俺に降り注いできた。

 しかしマルチビットによるエネルギーシールドを展開。

 それを破壊するほどではない。


 すぐさま近づいてガトリングを切り裂くと──。

 二の太刀でボスオークを袈裟斬りにした。


 ……はずだった。

 

 ガキィイイイン、という音とともに剣が弾かれる。

 そのままボスオークの拳が俺に向かってきた。

 エネルギーシールドが防ごうとするうが、それすらも打ち壊し、進んでくる!


 とっさに俺は防御したが、後方に吹き飛ばされた。

 今、ボスオークの腕が鈍色に光っていた。

 それだけではない切り裂いたはずの肩の部分もだ。


「ぶはははははは!! わしは硬化の魔術を使えるのだ!!」

「なるほど、丁寧にどうも。他には?」

「他? 魔術は基本、一人に一つだろうが!!」


 そう言って迫ってくるボスオーク。

 銃器を失い、接近戦に切り替えたか。


 このオーク、馬鹿だが魔術の練度は本物のようだな。

 ガトリングや銃弾を硬化しなかったのは自身の肉体しか硬化できないのか。


「つ、ツルギきゅん、どうしよう!?」

「ふん……任せておけ」


 殴りかかってくる拳を受け流し、そのままオークを放り投げる。

 たしかにであってではないらしい。それならば。

 俺はボスオークの頭部を両腕で掴むと、そのままありえない方向へ捻じ曲げた。


「ごがっ!?」

「硬化と言っても関節は対象じゃないはずだ。動けなくなるからな。であれば関節技は当然効く。こうやって──首をへし折ることもな」


 もっともより魔力を消費すれば、付与魔術で突破できたが……。

 わざわざ簡単な対処法があるやつにムキになる必要はない。

 ボスオークを手放すと、そのまま崩れ落ちた。


「いぇ~~い!! さっすがツルギきゅん、やるぅ~~!!」

「それよりもさっさと最前車両に向かうぞ」


 先ほどと同じようにロックされた扉を切り裂いて、奥に向かう。

 そのまま運転席を見つけるが──誰も座っていない。


「つ、ツルギきゅん!! これ機械制御みたいだよ!?」

「こういうときのためにおまえがいるんだろ?」

「あ、そうか!! では挿入 いれるね……」


 マルチビットからケーブルが飛び出し、運転席の機械に突き刺さった。

 チカチカチカとマルチビットのモノアイがゲーミング色に光る。

 …………しかし一向に止まる気配がない。


「ツルギきゅん!! ブレーキをしてるんだけど、アクセルが止まらないよ!!」

「どうにかならないのか!?」

「あ~~ちょっと待って。五分あれば多分、止められると思う」

「あと数分もない」

「え!?」


 なんせ少し先に駅が見える。

 たしか……あそこが終点だったはずだ。

 となると線路もあそこで終わる。もしこのまま突っ込めば大惨事だ。


「おい、ブレーキは効いているんだな?」

「う、うん!!」

「ブレーキを……強化!!」


 俺は地面に手を付け、ブレーキを強化する。

 今できる俺の最大出力。それをアクセルが上回れば、終わりだ。幸いにもどんどんと速度は落ちていき──ちょうど駅に入ったところで列車は止まった。しばらくそのままブレーキを強化し続けていたが、マルチビットがこちらに飛んできた。


「おつかれ、ツルギきゅん!! エンジンも完全に止めたよ!!」

「やれやれ……」


 俺は魔力の使いすぎでその場に膝をついた。

 少しぐらい休んでも罰は当たるまい。



 ◆ 



「此度の一件ご苦労であった、后神ツルギ特等」

「恐縮です、長官」


 トレインジャック事件から数日──。

 一通り事件の片付けが済んだ俺たちは上司に呼び出されていた。


 夕凪タツミ長官。髭面の、熊みたいな男である。

 種族はドワーフ。ずんぐりむっくりしている連中だ。


 場所はいつもどおりの長官室。長官用の机しかないつまらない部屋だ。


「もちろん七咲アヤネ一等もな」

「えへへ、まーボクのおかげと言っても過言ではないからね!」


 俺の隣で自慢気に腕を組んでいる少女はオペレーターの七咲アヤネ。

 銀髪のツインテールで背は低く、乳はでかい。


 ボクっ娘である理由は知らない。痛々しい女なのである。

 と言ってもまだ中高生程度の年齢なので仕方がないのだが。


「それで、わざわざ労うために呼んだのですか?」

「それならボク、このあと焼き肉につれてってもらいたいな~~」

「いやもちろん新たな仕事を与えるためだ」

「だと思いました」

「がっかり……」


 パチン、とタツミ長官が指を鳴らす。

 すると右側の壁がひっくり返りモニターが現れた。


 どうしたことかと戸惑っていると、映像が流れ出した。

 うちの人間ってどうしてこうも演出過多なんだ。


「数年前、魔王と呼ばれる男がいた。文明が発展したこの世界にもな」

「たしか定期的に発生するんだっけ?」

「勇者も発生するぞ。……でしょう? 長官」

「うむ。貴様らに任せたいのはその勇者の護衛だ」


 ぱち、ぱち、と即興で作ったようなスクリーンショットが流れる。

 そこには魔王と勇者は定期的に現れ、互いに殺し合う宿命だと描かれていた。

 もっとも──その宿命は数年前に解決したのだが。


「勇者の護衛? 魔王を殺すような人に必要なのですか?」

「仕方ないだろう。死刑囚に武器を持たすわけには行くまい」

「え!? なんで勇者が死刑囚なの!?」


 アヤネが驚いてぴょこんと跳ねる。

 タツミ長官は気難しそうに両手を組み──唸るように呟いた。


「これは極秘だが……此度の魔王はこの国の王族だったのだ。勇者は世界を救うためとはいえ、それを抹殺した。上層部はを処刑すべきだと判断している」

「しかしそれは各国が黙っていないのでは?」


 魔王の正体は知られていない。ただの災害だと認識されている。そのため各国、いや世間一般では勇者は世界を救った英雄という扱いなのだ。


「だから秘匿処刑なのだ。とはいえ、彼女には魔王を倒したセレモニーに出てもらう必要がある。もし出席させなければ流石に怪しまれることだろう。そこで貴様らだ」


 俺とアヤネは目を見合わせた。

 流石に今回の任務が汚れ仕事であると気づいたからだ。一方で──国で有数のエージェントである俺たちでなければ務まらないこともわかった。


「といいますと?」

「もし怪しげな素振りを見せたら彼女を即刻暗殺するのだ。……そしておそらく来るであろう彼女の同胞たちからも守る。それが今回の任務だ」


 俺は上官の前でわざとらしく溜息をついた。

 ……こいつは劇的。いや、悲劇的だ。

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