第27話 悪魔の能力

「コンタクト。銀座三星12階。悪魔1体とその使徒と思われる男性。至急応援求む」


 服部は冷静にスマホで新庄に連絡した。


「了解。15分で向かう。外で戦闘するな。建物は破壊してもいいから、なんとかして中に閉じ込めろ」

「了解」


 高級寿司店の入り口には悪魔とその使徒。それに向かい合うようにニコとシヴァが前衛に立つ。


 ミーシャは常世田達を守るように中衛に陣取った。


 常世田と服部は、千秋を守るように窓際の『退路』を確保している。常世田は、いざとなれば窓を突き破って千秋を抱きかかえてでも逃げるつもりだった。

 服部はその能力で、壁沿いに木の根を這わせて地上まで降りることもできる。


「総員、敵を外に逃すな。建物は破壊してもいいと許可がおりた。15分で応援が来る」


 服部がリーダーシップを発揮すると、それを聞いた店員が慌てて店を出て行った。その内の1人が機転を効かせて非常ベルを鳴らす。デパートには火災を知らせるベルが鳴り響いた。


「あー、うるさいなー。で? どっちがやるの?」


 悪魔はそう言いながら、ニコとシヴァを交互に見遣った。それを聞いたニコはニヤリと笑みを浮かべると、笑いながら言い放った。


「くはは! まさか1対1でやれるとでも思っているのか!?」


 刹那! ニコが猛烈なスピードで悪魔に殴りかかる。それと同時に、シヴァは奴の頭部を狙って爆撃を放った。


ボオオオオン!


 並の相手なら、頭部が破裂していただろう。しかし、その悪魔の耐久度は高く、表面が少し焦げただけでビクともしなかった。


 ここでシヴァの様子がおかしくなる。


 シヴァは異常にプライドが高い。彼は『破壊』できない敵を見て激昂した。全身の筋肉が隆起し、緑色のオーラを吹き出し、激怒の表情で唸り始める。


「ぬうううううああああああ!」


 ニコが悪魔の頭部にパンチを繰り出し、それを悪魔が防御した時点で、シヴァがその戦闘に参加した。


 ニコは、攻撃する度に爆発するシヴァのパンチや蹴りに巻き込まれないように、少し斜めに位置どり奴の背後を狙う。


「へえ、さすがはヒンドゥーの破壊神。ちょっと痛いね。それにさっきから背後を狙ってる君も普通じゃないね。なにその威力」


 悪魔から余裕の笑みが薄れ、忙しなく両手両足でニコ達の攻撃をガードする。


 と、ここで初めて悪魔が反撃に転じた。


 その蹴りはニコの頭部を狙った飛び蹴りで、シヴァを牽制しながら豪快に宙を舞い放たれた。


ドゴオオオオ!


「ぐっ!」


 ニコは両手を交差してそれを受け止めたが、尋常ではない威力に顔を歪めた。

 その衝撃でニコは壁まで吹き飛び、それを突き破って隣の店舗まで飛ばされた。


 ニコが離れたことでシヴァの破壊攻撃が一層激しさを増す。


ズドオオオン! ボゴオオオン!


「あ! 痛い! いたた!」


 ミーシャは冷静に悪魔を観察していた。かなり名高い悪魔であると。また、禁じ手により常世田たちに直接攻撃を仕掛けて来ないとも限らないので、ここを動くわけにはいかないと。


 ミーシャの脳裏には、ある悪魔の名が浮かんでいた。シヴァの破壊に耐える強靭な肉体、ニコを吹き飛ばす尋常ではない攻撃力。


(ルシフェル? ベリアル?)


 すると、ニコが隣の部屋から飛び込み、悪魔に強烈な飛び蹴りを喰らわしたところで、悪魔の後ろに控えていた男性が動き出す。


 彼はトコトコとミーシャの前に歩み寄ると、立ち止まって彼女を見下ろした。


「私とやるのか? そちらから攻撃した時点で私は反撃できるようになるぞ?」


 男性はニヤァ〜と気味の悪い笑みを浮かべると、両目を赤く光らせた。



 直後!



「ぐえっ! ぐぎぎ!」


 常世田は呻き声を上げた。一瞬何が起きたのかわからず、突然、首に何かが巻きついたのを察する。


 常世田の首は、後ろから千秋の両手により力強く締め上げられていた。千秋の目は赤く光っている。


(チャーム!)


 服部は即座にそれが『魅了チャーム』であると判断した。それと同時に装備している刃物を全て遠くへ投げ捨てた。複数のナイフが壁に突き刺さる。


 直後、服部は千秋の腹部をパンチした。


 それと同時に服部の目が赤く光る。


 服部は常世田に殴り掛かった。千秋は気絶し、その場に倒れ込んでいる。


「げほっ! ごほっ! ぐはっ!」


 咳き込む常世田の頬に服部の拳が突き刺さる。


 ミーシャは悪魔らしい能力に嫌悪感を抱きながら、その戦いに手を出すわけにもいかず、歯ぎしりした。

 目の前にはチャームを使用して薄気味悪い笑みをこぼす男が立っているが、殴り倒すと禁じ手に該当してしまう。


「ぐっ! 服部さん! 目を覚ましてくれ!」


 服部の格闘術は常世田の想像をはるかに上回る戦闘力だった。少しでも隙を見せれば急所めがけて殺人パンチが飛んでくる。ぬるいパンチで反撃すれば、その腕を絡め取り、肘や肩の関節を破壊しにくる。


 常世田はその度に煙と化し、関節技を解いていた。


「くそっ! 厄介極まりねー!」



 戦局は明らかに不利。



 常世田は服部の厳しい攻撃をしのぎながら、何とかしてこの状況を脱する策を考えていた。



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