文学語り

志水命言

第1話・『桜の樹の下には』

 春。それは、様々な始まりを意味する。窓外から見える桜の木も美しくほんのりと紅づき満開。今日から故郷を約六〇〇Km離れた東京の地での生活が始まる。

庵李いおり、行くで!」

「……わ、あ、待ってよ!置いていかないでよ、お姉ちゃん!」

 あれから大学の入学式や履修登録が終わり、川の水が流れて行くように、時も流れた。

 自身のコミュ障のせいで友人作りにまた失敗した。そんな私の隣にはスマホの画面を見てニヤニヤする町田まちだが居る。私はどこにでも居るような服装ではあるが、町田は「ありのままが一番」という自論と反してとても着飾っている。そう言ったセンスと感性が仇となり人から遠目にされたそう。私たちは溢れ仲間……いや、お姉ちゃんたちが作った大学非公式サークル「色書会」の仲間と言った方が正しいだろうか。

「……庵李、何だい?さっきから俺を気にしている」

「してないよ……。で、何ニヤニヤしてるの?」

「おや、顔に出ちゃってたのか。ごめんね。これだよ」

 そう言って町田はスマホの画面を見せた。スマホの画面いっぱいの桜。

「桜……」

「そう、桜だね。桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられない……桜の樹の下にはフフッ。屍体したいが埋まっているのかもしれないね」

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