第三章:旅のはじまり
宇宙というやつは、想像以上に、悪趣味だった。
観察デッキの自動ドアがウィンと開いた瞬間、私の目の前に広がったのは、漆黒と点描が混ざった、いわゆる「宇宙っぽい」景色である。何もかもが黒く、深く、底なしで、そして静かだった。静かすぎて、笑えてくるレベルだった。
笑えるわけがなかった。
なにこれ。無音。完全無音。視覚だけがこの世界を支配していて、音の存在があたかも最初から禁止されていたかのようだ。
私は思わず言ってしまった。
「これ、CGって言われたら、信じるぞ……」
その言葉が、自分の喉を抜けていった瞬間──空気の壁に衝突し、空転し、最後には虚空に吸い込まれていくのを、私ははっきりと感じた。返ってこない。誰も拾わない。ノーリアクションの極地。まるでスベり芸の地獄巡りである。
「……おーい?」
もう一度、小声で呼びかけてみる。が、無意味であった。そもそもここには私一人しかいないのだ。ツッコミは空へと放たれ、ツッコミとして機能することもなく、ただただ宇宙の沈黙に回収される。それはまるで、コメント欄のない動画配信のようだった。何を言っても、ノーコメント。沈黙。沈黙。沈黙。
私は慌てて話題を変えるべく、別の切り口を探す。
「……なんか……あれだな。VRの静寂演出みたいな……」
だが、それもまた滑る。観客はいない、演出家もいない。これは体験ではない。事実である。これは現実の宇宙で、私は今、その中に立たされているのだ。
もしかして、これが罠なのではないか。無限沈黙攻撃。沈黙に見せかけて精神をじわじわ蝕んでくる、陰湿なタイプのやつ。中学のとき、突然誰にも話しかけられなくなったあの一日を思い出すじゃないか。あれは辛かった。
静かすぎて、溶けてしまいそうだ。
音がなければ私は境界を失い、ただの内臓の集合体になる。そして境界がなくなれば、思考は際限なく内側へ向かい、最終的には「お前誰だ」状態になる。そうなったらおしまいだ。なんとかしなければ。
そう、しゃべれ。しゃべり続けろ。自分の輪郭を保て。
私は再び、言葉をひねり出した。
「うーん、銀河……銀河ってのは、こう、もっとこう、キラキラしてると思ってたな……」
だめだ、全然キラキラしてない。ギラギラすらしてない。星はただそこにあり、勝手に輝いているように見えるが、音がないと、これほどまでに心が寄せられないものなのか。
「いやちょっと待ってくれよ……これって本当に宇宙? だって、演出のない舞台みたいな、台本忘れてきた舞台のような、裏方しかいないような……」
自分の言葉に自分で混乱してくる。
気がつけば、私は宇宙の静寂を前にして、独り言をひたすら垂れ流すという極めて危険な行為に没入していた。これはいけない。宇宙は思考の増幅装置である。沈黙のなかで自分の声だけがやけにでかく響く。周囲の音がゼロだから、脳内のBGMとナレーションと妄想と後悔と未整理な記憶が一斉に鳴り出す。
「……うっさいわー」
ふと、私は気づいた。
宇宙が静かすぎるせいで、私の脳内が大音響を奏で始めている。言葉にならない焦燥感。誰にも伝えていない後悔。過去のあれやこれや。中でも一番うるさいのは、中学二年の文化祭で漫才をやってすべり倒した記憶である。あれが今もなお反芻されるのは、どう考えてもこの沈黙のせいだ。
外界が黙っているから、自分の内側が勝手に喋り始める。
なるほど、これは自己認識の罠である。
音がなければ、思考は加速する。言葉が返ってこなければ、自分が自分を追い詰める。ツッコミを入れても返しがないと、漫才は成立しない。そして漫才が成立しない空間に、私はたったひとりで放り込まれている。
つまりこれは、孤独なボケ地獄である。
ああもう、だめだ。黙ろう。黙ったほうがいい。
私は口を閉じた。
とたんに、静けさが襲ってきた。
宇宙が、ぐわっとその無音の重力を私に浴びせかけてくる。これはただの無音ではない。音がない、という状態ではない。音があってはならない、という規則。宇宙は沈黙をルールにしている。
しゃべって輪郭を保つ? それは一時しのぎでしかない。言葉があれば安心するなんて、それはテレビをつけっぱなしで寝る老人と変わらない。私の精神は、言葉に依存している。言葉という安全装置を手放せない、チキンな構造になっている。
そして──
ここには、その装置が、通用しない。
私は観察デッキのガラスにもたれ、深々とため息をついた。
「……脳内がめんどくさいな」
それは、自嘲であり、宣言であり、敗北だった。
──この旅の終点は、あの太陽の中だ。
いつか、あの無音の向こうに、自分が溶けて消える瞬間がある。
そう思うと、この静けさが、少しだけ“予告編”のように感じられた。
けれど、宇宙は何も言わなかった。まるで「やっと気づいたのか」という顔で、黙ってそこにあった。
***
食堂のことを「メインギャレー」と呼ぶのは、さすがに気取っていると思った。
それはもう徹底的に気取っていた。天井は高く、床はなぜか光っていて、壁面には季節感ゼロの抽象画が掲げられ、やたら高そうな照明がしずしずとぶら下がっている。そして、その中央に鎮座するのは、シンプルを極めすぎて逆に落ち着かない白い配膳カウンターである。
私は、その配膳口の前でメニューらしきパネルを前に呆然としていた。
「なにこれ、選べるの……?」
小洒落た宇宙食って、もっと無機質なチューブみたいなやつじゃなかったのか。どうやら現代の宇宙船では、旅の最後に向けてのメンタルケアの一環として「食の満足度」なるものが重視されているらしく、メニューは異様に多い。そして選べる。私は数秒ほど固まり、「とりあえず無難なやつ……」と適当に押し、謎のビーフシチュー的なものとライス的なものを受け取った。
そのトレーを持って、空いているテーブルを探して歩く。
どこに座ってもいいのだが、どこに座ってもいいと言われると、人は逆に迷う。端っこはひとりっぽくて気楽だが寂しそうだし、中央は人目につきすぎる。といって、誰かが座っている隣はあまりに人懐っこすぎる──そうやってうろうろしていると、どんどん自分が不審者になっていく。
やっとのことで、窓際の二人席にたどりついた。星の光を浴びながらご飯が食べられるらしい。ありがたいのかなんなのかよくわからないが、ありがたがることにした。
私はトレーを置いて、椅子に腰を下ろした。
その瞬間だった。
「失礼します」
静かな声が、私の左耳の後ろあたりから聞こえた。
びくっとする。まったく気配がなかった。というか、誰かが近づいてくる音も、気配も、空気の揺らぎすら感じなかったのに、そこにいた。青年だった。地味な色のパーカーを着て、髪は整えられているのかいないのか判別不能、年齢不詳の顔で、表情は中立的。曖昧な“透明人間力”に長けた人間というのは、ときどきいるが、彼はその中でもトップクラスの無音登場を決めてきた。
彼は私の向かいに、自然すぎる流れで腰を下ろした。
「こんにちは……なんか、静かですね、この船」
彼はそう言った。声は小さく、丁寧だった。音楽でいうと、ノンダイナミック・ノンビブラート。話すたびに周囲の空気が減圧されるような、そんな静けさを連れてくる声だった。
私はとりあえず相槌を返す。
「まあ、外が無音だからね。中も沈黙のバイアスかかるよな……」
すると彼は、ほんの少し間を置いて、唐突に言った。
「……あの、僕、死にに来たんじゃないんです」
は?
私は思わずトレーの上のビーフシチューを見た。何かが聞き間違いではないかと、一瞬本気で思った。
青年は、こちらの動揺を一切気にする様子もなく、さらに静かに続けた。
「僕、自分の大切な人の“死に方”を思い出せなくて……もう一回、それをどこかで見られるんじゃないかと思って、来ました」
私は、思考が停止した。
なんだその理由は。
怖すぎるだろう。
でも、変なことは言っていない。いや、言っている。でも、言い方があまりに淡々としているから、こっちが取り乱したら負けな気がしてくる。なんだこの気まずい空気は。彼は、ホラー映画の最初の犠牲者役でもなければ、ポエムを語る詩人でもない。ただの──いや、ただの青年だった。
私は言葉を選ぼうとした。けれど、見つからなかった。
すごいですね? では失礼? 誰か呼びましょうか?
……無理だ。どれも無理だ。
なぜなら、この静けさのなかでは、どんな反応も場違いになるからだ。彼の言葉は、あまりに音量が小さく、意味だけが大きかった。結果として、私のリアクションの居場所が、どこにもなかった。
青年は、少しだけ微笑んだ。
「……なんか、変なこと言いましたね」
「いや、まあ……なんというか……」
私は曖昧に答えた。彼を否定するでもなく、受け入れるでもなく。そうするしかなかったのだ。だって、「誰かの死に方をもう一度見たいから宇宙に来た」なんて、そんな発言、通常営業で返せる言葉があるなら教えてほしい。
──たぶん、私たちはどこかで似ている。
彼は、それ以上何も言わなかった。ごく普通の動作で、スープをひとくちすすった。
私は、ずっと彼のトレーを見ていた。
彼の食事は、パンと、野菜スープと、水だけだった。選べるメニューがあんなにあったのに、それを選んだのか、それしか選べなかったのか。
結局、会話はそれ以上続かなかった。
彼は静かに立ち上がり、「ごちそうさまでした」と、誰にともなく言い残して去っていった。私はその背中を目で追いながら、なんともいえない気持ちになっていた。
怖いというほどでもない。
でも、忘れられない。
その理由がよくわからないまま、私はビーフシチューにスプーンを突き立てた。
***
私は、精神リソースルームという名前に一抹の胡散臭さを感じていた。
そもそも“リソース”ってなんだ。精神における資源とは。やたらとカタカナの多い施設名は、たいてい中身が曖昧だ。にもかかわらず、私は気づけばその扉の前に立っていた。理由は簡単だ。退屈だったのだ。
観察デッキは静かすぎるし、部屋にこもっていると無限思考ループに陥る。先程の彼との謎の会話も、まだ脳内でくすぶっていた。こういうときは何か別のもので気を紛らわせるしかない。たとえば──本、である。
リソースルームの中は、案外広かった。天井まで届く巨大な書棚に見えたものは、実際には全面ディスプレイパネルで、本棚風に仕立ててあるだけだった。くるくると回るホログラフが、古典から現代思想までのタイトルをランダムに表示している。無機質で、無感情で、妙に意識が高そうだ。
私は思わずつぶやいた。
「……学習型ポエム自動販売機か?」
とりあえず、適当に指を伸ばしてみた。ひとつの“本”が宙に浮かび上がるように投影される。パラパラとめくってみるが、内容は……うん、意味不明だ。
『円環の真ん中には、つねに意味がなかった。ゆえに人間は語り続ける。』
なにそれ。急に円環。急に無意味。これは果たして論理なのか詩なのか呪いなのか。私はツッコミを入れながら、なぜか次のページもめくってしまう。
『水はかたちを忘れない。だが、かたちを覚えていることを忘れている。』
だから何だというのだ。忘れたのか覚えてるのか、はっきりしてほしい。
……しかし、読んでいるうちに、だんだんと変な集中が生まれてくる。まるで自分が何か大事なことを読み落としているのではないかという焦りが出てきて、内容を理解できないのが自分のせいな気がしてくるのだ。いやいや、これは書いてる側が悪い。絶対そう。そうだろ?
そう思いながら、次のページをめくったときだった。
『“わかってる風の顔”は、鏡よりタチが悪い。』
一行だけ、そこに書かれていた。
私は、なぜかその言葉から目が離せなくなった。
「……なんだよ、それ」
そう口にしても、言葉は自分の中に沈んでいった。意味はよくわからない。わかってる風の顔ってなんだ? どんな顔だ? 鏡よりタチが悪いって、鏡は何をした? 突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める。なのに──
刺さる。
なんか、妙に刺さる。
私は本を読み進めるのをやめて、その一行をもう一度、ゆっくり読んだ。
『“わかってる風の顔”は、鏡よりタチが悪い。』
頭の中に、過去の自分が浮かんでくる。何かに納得したふりをして、会議で静かに頷いていたときの自分。よくわからない映画を観たあとに「テーマ性は面白かったけど、構成に粗があるかな」とか言ってたときの自分。恋人に別れを切り出されたとき、「まあ、そうなるとは思ってた」と冷静ぶった自分。
全部、わかってる風の顔だ。
実際には、なにもわかってなかったくせに。
私は手を止めた。スクリーンの中の文字が、どこかこちらを見ているような気がした。
読んでいたはずが、読まれていた。
そう感じたとたん、本を閉じたくなった。いや、閉じた。スクリーンの本がするりと消える。部屋には誰もいない。自分の呼吸音だけが小さく響いていた。
私は無意識に、頬に手を当てた。
──熱い。
なぜか、自分の顔が熱を持っていた。
部屋に戻ると、まずため息が出た。
特に意味のないため息だった。いや、意味がないように見せかけて、いろんな感情がごちゃ混ぜになっていた気もする。先程の彼の話は、いまだに頭の中に引っかかっているし、さっき読んだ“わかってる風の顔”の一文も、脳のどこかでくすぶっている。
でもそれを整理する気力はなく、とりあえずベッドに倒れこんだ。
船室のベッドは、妙に柔らかかった。沈む。沈みすぎる。まるで、「さあ、深層意識へようこそ」とでも言われているかのような沈み込み具合である。
天井を見上げる。
特に何もない。白い。何も書いてない白い天井ほど、夜中に見ると意味不明な不安をもたらすものはない。
ふと、過去の自分の言葉が頭をよぎった。
「まあ、向いてないからな」
思い出した瞬間、自分の顔がひとつ歪んだ。
あれは、大学のゼミでプレゼンを放棄しかけたときの一言だった。周囲がわりと真面目に準備していた中で、私はスライドも作らず、口頭で乗り切ろうとしていた。教授に「やる気ないのか」と言われて、苦笑いしながら返したのが、これだった。
「興味が続かなくて」
これは、仕事を転々としたときの説明に使ったセリフだ。飲み会のたびに、聞かれては答えていた。うまくいかなかったわけじゃない、ただ興味が続かなかっただけなのだと。やりたいことが見つかっていれば続けてたよ、と、謎の上から目線で。
「別にもう求めてないし」
これは、恋人と別れたときに吐いた。正確には、恋人“だった”人に「あなたって、何がしたいかわからない」と言われたとき、私はこの一言で全てを片づけた。傷ついていないふりをするための、ワンクッションフレーズ。
──我ながら、ひどい。
私は、ベッドの上でごろりと寝返りを打った。
「いや、待て。なんなんだこの恥ずかしい人生は」
すべてが“そういうことにしておいた”だけの言葉たちだった。向いてないからやめた。興味が続かなかったから辞めた。求めてないから離れた。
……それ、ほんとか?
むしろ逆ではないのか? うまくいかなかったから、そう言っただけじゃないのか? できなかったから、言い訳として口にしただけじゃないのか?
それを──まるで悟った人のような顔をして、繰り返してきたのか?
「うわ……超つまらん……」
過去の自分のインタビューを聞いているような気分になる。受け答えが無難すぎて、2分で寝る。いや、1分半で寝るかもしれない。
それほどまでに中身がない。なのに、私はそれらのセリフを、あたかも真理かのように使い倒してきた。
冷静な分析を装った、自動防御システム。それが私の発言の本体だったのだ。
私の脳内には、過去の自分のセリフだけがアーカイブされている。会議の場面。面接の場面。別れ話の場面。誰も止めなかった。誰もツッコまなかった。だから私は、使い続けた。
ああ、くそ。
自分のセリフに、自分でムカつく。
しかも、ムカつく相手が、自分しかいないという事実が、さらにムカつく。
ベッドの柔らかさが、慰めにもならない。沈みながら、思考だけがもぐもぐと自己否定を咀嚼し続ける。
“わかってる風の顔”──
あの一文が、また浮かぶ。
そうだ。私は、わかってる風の顔をしていた。
それは誰のためだったのか。
私は誰に向けて、そういうことを言っていたのか。
……いや、もういい。
今は、もう喋るのも面倒だ。
私は、毛布を頭までかぶった。
しばらく、何も考えないふりをしながら、呼吸だけを数えた。
気づけば、私はまた観察デッキにいた。
我ながら飽きないな、と思う。というか、なんなのだこの導線は。部屋でモゾモゾと考えごとをしているうちに、なぜか足が勝手にここに来てしまう。これはもうスターダスト・ボヤージュの呪術的構造なのではないか。なんか足元に誘導磁石でも埋まっているのでは?
そんなくだらないことを思いつつ、私はデッキの中央に立った。
誰もいない。
昨日の彼もいない。いや、いたらいたでどう対応すればいいのか分からないのだが。今の私は、誰かと会話をするには少しだけ脳が茹だっている。もうしばらくは独りでいい。
星々は、相変わらずそこにあった。
なんというか、腹が立つほど変わっていない。昼でも夜でもない、時刻の概念もない場所で、彼らはただ、点として存在し続けている。それが何光年離れていようと、近くのLED照明にしか見えなくても、彼らには彼らの事情があり、こちらには何の関係もない。
私は手すりにもたれて、ぼーっと外を見た。
前に来たときは、あまりに静かすぎて、自分の脳内ノイズが増幅されていた。今も同じくらい静かなのだが、なぜか、少しだけ違って聞こえる。いや、聞こえるわけではないのだが。
……ツッコミが、出てこない。
それに気づいたとき、自分でも驚いた。
あれほど「CGかよ」「無音演出かよ」と脳内でツッコミ倒していたこの景色に対して、今の私は、特に何も言えない。いや、言おうとすれば言えるのだが、言ったところで自分の口がむなしく動くだけになるのが、なんとなく分かっている。
「……そっか、“わかってる風”じゃないと出ないのか」
ふと、口に出してみた。誰にともなく。
そして、自分の言葉に、自分で頷く。
わかった気になって、世界にツッコミを入れる。おかしな点、不自然な点、無意味な演出、それらを指摘して安心する。自分は“分かってる側”にいると信じるために。
でも、今の私は、何もわかっていない。
星のことも、宇宙のことも、この船のことも、昨日の彼のことも。何より──自分のことも。
私は、ゆっくりと息を吐いた。
「なんも知らなかったな。……知ってたつもりって、いちばん寒いな」
その言葉は、誰にも向けられていない。
ただの、気づきだった。
そうか。私は、知ってるふうの顔をしていただけだったんだ。ずっと。仕事でも、対人関係でも、ひとりの時間でも。
知っていることにしておけば、安心だった。
でも、ここでは通用しない。星々は、私の知識の薄っぺらさに、何も言わず無関心でいてくれる。それが逆に、つらい。
私は目を細めて、遠くの光を見た。
あれは星か。惑星か。船の光か。それすら分からない。
でも──まあ、それでもいいか、と思った。
「ま、知らないまま進んでみるか。せっかくだし」
その言葉が出たとき、なぜか肩の力が抜けた。
何かを理解したわけでも、悟ったわけでもない。ただ、“知ってるつもり”をやめただけだ。でもそれが、こんなにも気楽だったとは。こんなにも、旅のはじまりにふさわしいとは。
私はもう一度、空を見上げた。
無音の星々が、相変わらず変わらず、そこにあった。
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