第47話 オースティンside14


「ユ、ユイナ様が……っ」


「ユイナがどうした!?もしかして、また問題を起こしたのか?」


「いなくなりました!」


「なっ……!?」


「ユイナ様が部屋からいなくなってしまったのです!」


「どういうことだッ!」



カルゴの話によれば、ユイナは朝までは部屋の中にいたのだという。

しかし侍女たちに「体調が悪いから寝かせて。お昼ご飯もいらないから部屋に入らないで」と言ったユイナは、早々に侍女達を部屋から追い出したそうだ。


そしてユイナの体調を心配した侍女たちがカルゴの元にやって来た。

そこでユイナの体調が悪いことが伝えられて、診察をするために部屋に向かい、声を掛けるが返事がない。

寝ているのかもしれないと一度は踵を返した。

しかし数時間後にノックをしても反応がなく、何かあったのではと心配になり合鍵を使って部屋の中に入ろうとしたが、扉が動かないことに気づく。


騎士達を呼び扉を打ち破ってみると、部屋にユイナの姿はなかった。

どうやら扉が開かないように内側から重たい棚を置いて塞いでいたようだ。

開きっぱなしの窓からはヒラヒラとカーテンが靡いていた。

ユイナの部屋は二階ですぐ側に木があるため降りられない高さではない。


すぐに王宮の周囲を隅々探したが、ユイナは見つからない。

朝、侍女が去ってからすぐに部屋を出て行ったのだとしたら馬車がなくてもかなり遠くまで行けるはずだ。



「もしユイナ様に何かあったら……!それにオースティン殿下の体調にも不安があるというのに」



パーティーの前日にユイナに発作を抑えてもらったがユイナの力が徐々に弱まっているとするなら、いつ効果が切れてもおかしくはない……そう思った瞬間にオースティンの胸元を襲う鋭い痛み。



「……ぐっ!」


「──オースティン殿下ッ!?」



オースティンが膝から崩れ落ちて倒れるのをカルゴがなんとか支えて、ソファーまで引き摺っていく。



「落ち着いてくだされ!オースティン殿下っ、ゆっくり呼吸をするのです!」


「っ、……はぁ、ッぐ」


「誰か……!すぐに来てくれっ」



カルゴが大声で助けを呼ぶ声が遠くに聞こえた。

オースティンは痛む胸元を押さえ込んだ。


(こんなのは……嘘だ。嘘だと言ってくれ!)


視界が徐々に霞んでいき、そのままオースティンは意識を失った。


その間、騎士たちが招集されてユイナの捜索が内密に行われた。

婚約披露パーティーを開いたばかりにもかかわらず、ユイナが逃げ出したとあれば面目が立たない。


異世界から来たユイナは土地勘もなく、金も持っていない。

それにユイナはサルバリー王国ではとても目立つため目撃者は次々と名乗りを上げた。

目撃情報を元に近辺を捜索した結果、幸いにもすぐにユイナは見つかったそうだ。


王宮に連れ戻されたユイナは激しく抵抗していた。

暴れるユイナを傷つけるわけにもいかず、戸惑いながらも騎士たちは国王と王妃の前に連れて行く。

それでもユイナは逃げようと必死に体を捩る。


意識を取り戻してから話を聞いたオースティンは、ユイナの無事を確かめるためにフラフラと歩き出す。

父と母も慌てた様子でこちらにやってきて、オースティンの体を支えた。



「ユイナッ、何故こんなことをしたんだ!王宮の外は危険ばかりだと教えただろう!?」


「一歩間違えば危険な目に遭うところだったのよ?わかっているの!?」


「……」



何を言ってもいくら待ってもユイナは俯いて黙り込んだまま何も答えない。

国王と王妃は顔を見合わせてから焦ったように口を開く。



「ユイナ……帰ってきたばかりで申し訳ないんだけど今すぐにオースティンの治療に行ってくれないかしら?」


「……っ!」



国王と王妃の言葉を聞いて、ユイナはギロリと二人を睨みつけた。



「私、もう絶対に聖女の力は使いません!」


「……なんだと!?」


「急にどうしたの!?皆の役に立てて嬉しいって言っていたじゃない!」



しかしユイナは理由を説明することなく、敵意を向けたままだった。



「あなたたちが私に優しいのは力があるからですよね!?それ以外はどうだっていいんでしょう!?」


「何故、急に……ユイナ、いきなりどうしたんだ?」


「そ、そんなことないわよ」



二人がいくら否定していたとしても、ユイナはますます怒りを露わにするだけだった。



「この世界にもお医者さんがいるんでしょう!?だったら、治療してもらえばいいのよ!」


「オースティンの病は、この国の医療技術では……!」


「毎日、張らなきゃいけない結界だってそう!他の国の人たちは魔獣と戦っているのに、どうしてこの国はそうしないの!?」


「……ユイナッ!」


「私の力に頼ってばかりじゃなくて、ちゃんと自分たちで国を守ったらいいじゃないっ!」

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