第17話 剣
「オリビア。猫と鳥知らない?」
「ユナとルルのことですか? 一緒に遊んでいたのでは?」
「あいつら勝手にどっか行った」
正確には、俺から逃げたのだと思う。
眉を寄せるオリビアは「いじめたんですか?」と不愉快な質問をしてくる。俺が悪いと決めつけてくる失礼な護衛だ。俺はただ、ペットと一緒に遊んでやろうと思っただけなのに。
「一緒に追いかけっこしようと思ったのに」
「左様で」
しょんぼり肩を落とす俺に、オリビアがなんとも言えない視線を向けてくる。呆れたような憐れむような変な目だ。
「そんな物で追いかけまわすのがいけないのでは?」
そんな物とは、俺が手にしている虫取り網のことだろう。「どこから持ってきたんですか」と尖った声を出すオリビアであったが、ケイリーの名前を出した途端に天を仰いでしまう。口には出さないが、ケイリーに対して苛立っているらしい。余計なことをしやがって的な空気をひしひしと感じる。
ケイリーは、俺のことを野放しにしがちである。俺としては大変ありがたい。ケイリーの目の前でなければ、基本的には何をやっても文句は言われない。俺を叱りつけてくるのは、いつもオリビアと兄上だ。
そんなゆるいケイリーに、オリビアは頭を抱えているらしい。得意になった俺は、ぶんぶんと虫取り網を振り回してみせる。
「これで鳥を捕まえるの」
「ダメですよ」
苦い顔をするオリビアは、あろうことか俺から虫取り網を取り上げようとしてくる。遊びの邪魔はさせないぞ。急いで逃げるが、オリビアは諦めない。そうして俺の手から虫取り網を引ったくったオリビア。相変わらず横暴である。
「何するんだ! 泥棒だぞ!」
「ルルをいじめない。何度言えば理解してくれるんですか」
「いじめてない! 遊んでるだけ」
むうっと頬を膨らませて不機嫌アピールしてみるが、オリビアは動じない。それどころか俺を睨みつけてくる始末である。そのまま睨み合うこと数秒。先に折れたのはオリビアの方だった。
ふいっと視線を逸らせた彼女は、わざとらしくため息を吐き出す。ため息つくと幸せ逃げるのに。
「もっと普通に遊びましょうよ」
「普通に遊んでるけど?」
そもそもオリビアが訓練やら何やらで俺と遊んでくれないのが悪い。ケイリーも遊んでくれないし。俺は、いつでも遊んでくれる遊び相手がほしい。
そう指摘すれば、「じゃあ私と遊びますか?」と楽しい提案をしてくる。
「遊ぶ!」
即答すれば、オリビアは苦笑した。
○
「剣に興味はありますか?」
「あんまりない」
正直に答えれば、オリビアはまたもや苦笑する。遊ぼうと愉快な提案をしてきた彼女についていけば、到着したのは騎士たちが使う訓練場の一角であった。
そこから訓練用に刃を潰してある剣を持ってきた彼女は、俺に差し出してくる。ずっしりと重いそれを受け取るが、あんまりテンションは上がらない。剣はかっこいいが、ここは魔法の存在する世界である。どちらかと言えば、俺は魔法の方に興味がある。
子供にとっては大きな剣をズルズル引き摺れば、オリビアが慌てて手を伸ばしてくる。「こう構えるんですよ」とかなんとか言って指示してくるが、どうでもいい。俺は今のところ、剣は他の騎士たちが振っている姿を見る方が楽しい。だってこれ重いし。地味だし。疲れるし。
げんなり肩を落とす俺の傍に片膝をついて、オリビアは困ったように小首を傾げている。どうやら俺に剣を持たせれば、無邪気にはしゃぐと考えていたらしい。子供が全員、剣が好きだと思うなよ。
「楽しくないですか? テオ様ってこういうのお好きじゃありませんでしたっけ?」
「俺、魔法の方が好き」
「……左様で」
だが生憎と、オリビアは魔法があまり得意ではない。そういうちまちましたものは性に合わないと本人が以前愚痴っていた。彼女的には、直接相手を剣でぶった斬る方が合っているのだろう。物騒な奴である。
「オリビアは脳筋だもんね」
「……」
何やら反論したそうな顔をしたオリビア。だが、どうにか文句を飲み込んだらしい。代わりに深いため息が出てくる。
「オリビアも俺と一緒に魔法の勉強する?」
「そうですね。暇があれば」
何やら投げやりに答えたオリビアは、遠い目をしていた。
ここ最近、俺はずっと魔法をやりたいと兄上に頼み込んでいる。「魔法よりも先にやることがあるだろう。勉強はどうした」と嫌なことを言ってくる兄上との戦いは骨が折れる。
この世界、魔法はあるがそこまで魔法オンリーというわけでもない。オリビアのように、魔法ガン無視で物理で戦う脳筋野郎も結構いる。
まぁ、人には得意分野というものがあるからな。魔法を極めようとする人がいれば、筋肉に振り切る人もいるし、勉学に励む者もいる。人それぞれって奴だ。
ちなみに兄上は、趣味程度に魔法の勉強をしている。俺は魔法をガンガン使いたい。だってせっかくのファンタジーっぽい世界だ。楽しまないと損だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます