第106話 ドワーフと一緒に脱獄

 「ガハハハ・・・愉快な奴だな」

 「そうか! まあこれも食べてくれよ。うめえぞ」

 

 俺は豚と玉ねぎの串焼きを渡した。

 塩コショウくらいのシンプルな味付けのものだ。


 「おお。うまい!!  この串焼き以外は、初めて見る料理ばかりだな」


 俺が振舞った料理が簡易なものばかりでも、ユーさんは嬉しそうに食べてくれた。

 百年ぶりのご馳走であるなと言いながら浴びるようにしてビールも飲む。

 俺が持ってる酒の残りがビールしかなかったのが申し訳ない。

 と言ったけどユーさんは全然気にしてなかった。


 「あんた、酔わないね。酒強いんだな」

 「おお。いくら飲んでも儂はほろ酔いくらいにしかならん」

 「へ~。二日酔いにもならない感じか」

 「そうだな。なったことがないな!」


 俺とユーさんは楽しく宴会を続けていた。

 ここまでで、すでに色々な話を聞いている俺は、まだ酔ってない。

 しっかり情報を精査していた。


 ◇


 ユースウッド・バーリアン。

 バーリアンという姓は、ドワーフの出身地から取られている。

 そして、ユースウッドは王でもあったそうだ。

 ドワーフキングという肩書を持っていたらしい。

 そんな彼が地下牢に閉じ込められた経緯は、第三次南北魔大戦にある。

 その戦争の最中、ドワーフの王ユースウッドとエルフの王ナディア・クオンタールの会談がここパスティーノにおいて行われるはずだったところ。

 突如として解放軍の敵襲にあってしまい、都市にいた仲間たちが全滅。

 ユースウッドは敵に捕まり、ナディアはどうなったのか分からずにいる。

 

 その後、地下牢に運び込まれる囚人から聞いた話では。

 連合軍の要であったユースウッドとナディアの消失により、連合軍は不条理な停戦条約を結んだと聞かされたらしい。

 そこから何年経過しているか分からない世界。

 暗い牢の中で皆の安否を気にしているユースウッドであったのだ。



 ◇


 「じゃあ、あんた、王様なんだな」

 「ああ、そうだ。当時200歳という若き王だったな」

 「へ~・・・・え?? 200歳で若い方なの?」

 「うむ。儂、ドワーフだからな。ドワーフは人間の十倍は生きるぞ、これでも若造なんだぞ。たぶん300歳くらいだと思うからな。ガハハハ」

 「へ~。800~1000歳まで生きるのか・・・すげえな」

 「ドワーフとエルフは大体それくらいだ」

 「ふ~ん。じゃあ亜人種とかも?」

 「いや、奴らは個体差があるな。ヒュームと獣人種。この二つが大体同じくらいの寿命だ。あと、魔人族が儂らよりも長いな」

 「へ~。なるほどね」


 俺は頭にメモをしておいた。

 何でも情報は収集しておかないと勿体ないのである。


 「それでルルはなぜこちらにやって来たのだ。ジーバードの人間なんてここに来れるはずがないぞ。まさかファイナの洗礼を・・・まさか連合軍は解放軍にしてやられたのか」

 「いやいや、ファイナの洗礼はまだあるよ。俺はさ。ある男に腹を刺されて飛ばされたのよ。クルーナの輝石とかいう奴でこっちに来たんだ」

 「なに。あの石・・・まだあったのか」

 「ユーさん、知ってんの?」

 「あれはこちら側とそちら側がまだ一つだった頃の遺物だ。一個の大陸の時は端から端まで移動するのに時間がかかったからな。昔の人間はそれを上手く使って移動していたんだぞ。でもまさか。そちら側にあの石があるとは・・・」


 と一瞬悩んだユーさんは、気持ちを切り替えて酒を飲む。


 「うまい! で、ルルは、その様子だと不本意ながら来たみたいだな・・・帰りたいか? それが目標か」

 「ん? ああ、そうだな。帰りたい気持ちはあるな。でもせっかくこっちに来たんだ。もう少し観光していくさ」

 「ガハハハ。観光か・・・不本意にこちらに来ても観光と言い切れる胆力。ルルはやはり普通のヒュームとは違うな。面白いわ」

 

 俺の頭の上のレミさんが怒り出した。


 「何が観光じゃ。聖なる泉に連れていけじゃ!! 忘れているじゃろ」

 「あ! そうだったわ。聖なる泉ね」


 レミさんに言われて気付く。

 目的を思い出した。

 

 「ああ、そうだわ。ユーさん。聖なる泉って知ってる?」

 「聖なる泉????」

 「え? 知らないの?」

 「知らないな」


 レミさんは俺の肩に降りた。


 「なんでじゃ、聖なる泉じゃぞ。なぜ知らんのじゃ」

 「なんでだろな。別名があるんじゃないか」


 俺も一緒になって悩むがここの地理が分からない俺がいくら悩んでも仕方ない。

 だから結論。

 気にせず前を向いて歩いていくしかないのである。


 「まあ、ユーさんでも知らないなら、自分で調べるしかないな。頑張るか」

 

 ここからは暫し宴会を楽しんだ。


 ◇


 ニ、三時間後。

 

 「ユーさんは、ここから出たらどうすんの?」

 「ここから出る? 考えたことがないな。あの扉を破る方法がないからな。あれも魔力を吸うんだ」


 ユーさんは特別牢の入り口を指さした。

 

 「へ~。じゃあさ。もしよ。もし。ユーさんは外に出られたら何したいのよ」

 「そうだな。仲間がどうなっているのかを知りたいな。儂が囚われてからは、皆は散り散りになったと思うのだ。だから、『探すために旅に出る!』がしたい事になるな」

 「旅か・・・じゃあ、俺と一緒だな。それなら、一緒にここを出られたら、一緒に旅に行けるかな。途中まででもいいんだけどさ」

 「……お主とか・・・」

 「嫌か?」

 「嫌ではない。ルルはもう儂の友人だからな。旅を一緒にしてもいいのだがな……儂がお主を友人と思っても、あちらがそうは思わないだろう。お主は儂の奴隷や使用人のように思われるかもしれんぞ」

 「ああ。そういうことか。んなことはどうでもいいよ。俺は誰に何と思われようとも気にしない人生を歩んできたんで、平気平気。ユーさんがいいなら、俺はどんな思いをしても構わないのよ」

 「ガハハハ。その若さでどんな人生を歩んだんだ。お主は! 本当に面白い奴だ。良いだろう、もしここから出られたら一緒に旅でもするか!」

 「マジで。よっしゃ。その言質取りましたよ。じゃあ、ここからのユーさんは俺の仲間ね」

 「いいぞいいぞ。出られるわけがないがな。あの扉は特殊な魔法が施されているからな」


 俺は徐に立ち上がり、ユースウッドが指さした入口を入念に調べる。


 「こいつは・・・鎖と同じ効力か」


 緑のコーティングがなされた扉はおそらく魔力を吸う仕組みである。

 ジークラッドの人間は魔力が基本の戦闘スタイルらしいから、効果抜群と言ったところだろう。


 「俺がスキルでぶっ壊してもいいんだけど・・・・それだとここの連中に脱走がバレるのが早くなるよな・・・つうことで、別の方法で抜け出るか」


 俺はユーさんの傍に戻り、マジックボックスからスコップを取り出した。


 「ん? ルルよ、何する気だ?」

 「ああ。こっから穴掘るわ。ここの下って何もないよな」

 「ないな。土だけだろうな」

 「この横の壁も何もないよな」

 「ないな。この上だけが石だろうな」

 「だよな。つうことは一旦下に掘ってから、横斜め上に掘り続ければ、都市の外まで出られるだろう。たぶん」

 「そんな事、何年かかると思っておるのだ。そんなスコップ一つで」

 「ああ。大丈夫大丈夫。俺のスキルがあるからさ。ユーさんは、見張りを頼む。もし、人が来たら俺を呼んでくれ」

 「え?」

 「んじゃ、いっくぜ~~~! おりゃあああああああああああ」


 スキル『穴掘り』を発動。

 ジョブ『土木屋』の初期スキル。

 穴を掘る速度と、穴の安全性を確保できる。

 人々の生活のために働くジョブである。

 本当ならば、トンネルなどの際に使用するスキルだが。

 今回は脱走経路の確保のために使わせてもらうのであります。

 マーブル頭領、教えてくれてありがとう!

 

 「おおおおおおおお。真っ暗でムズイな」


 一度下に掘ってから、俺は真横に掘り続けるが、暗くて真っ直ぐ掘れているか難しい。

 蝋燭一本を一定距離に置き。自分の周りはというと。


 「レミさん。光魔法使えるか?」

 「ん?」

 「ここら辺だけ照らすくらいの小さな光でいいんだ。出来るかい?」

 「それくらいなら、簡単に出来るじゃ」

 「んじゃ、頼むわ」


 自分の周りがぱぁと光始めた。


 「おお! サンキュ! 穴掘り再開だ」


 レミさんの淡い光を手元にもらい、俺は前へと突き進む。

 

 「おお。ここにも緑の奴があるのか。なるほど。ここの地面にも埋めて、魔力だけは吸収しようとする算段か。絶対に脱出させんという気概を感じる作りだ」


 逃げ出せないようにする仕組みは至る所にあった。

 脱獄不可にしようとする努力が見られた。


 「たしか・・・この場所は都市の中心地じゃない。外れの方だから・・・外に出るまでの距離は短いはず。そうだな。横幅は・・・これくらいか」


 俺は掘りながら都市の全体図を考えていた。

 この地下牢は遺跡のような場所であり、都市の外れの部分だった。

 だから、この位置からの半径から考えてみても、外に出るまでの距離はそれほど長くはないはずだ。

 1K・・・・いや800mくらいでいいのかも。


 掘るべき距離の把握をして、俺は懸命に掘り続けたのだった。


 ◇


 「ここらで上に掘ってもいいな」


 距離にして700mくらい。

 これならば、ここから斜め上に掘って坂を作れば、確実に外である。


 「出られるはず! 500mくらいは斜め上に掘って安全圏まで運ぶか。よっしゃ!」


 レミさんと協力して掘り進めること、一日。

 外への連絡路は完成しつつあった。

 土から木々の匂いがし始めた。


 「おお。外かもしれん・・・ユーさんの所まで引き返すか」

 「そうじゃな。完成と同時に脱出した方がよいじゃろ」

 「だよな。レミさんも話が分かる人だぜ」

 「そうじゃろ。そうじゃろ」

 

 嬉しそうにしているレミさんをほっておいて、俺は特別牢まで戻った。


 ◇


 「ユーさん!」


 俺が穴から顔をひょっこり出すと、ユーさんはギョッとした顔をした。


 「うお!? 急に顔を出すとは。心臓に悪いわ」

 「わりい。わりい。もう穴が完成したからさ。ユーさん、ここから出ようぜ」

 「・・・え・・・」 

 「…疑ってんの?」

 「いや。そうじゃなくてだな。あまりにも完成が早すぎてな。驚いてしまったのだよ」

 「そうか。でも完成したからさ。とっととここから出ようぜ。陰気臭い場所からは早々におさらばよ」

 「それもそうだな。ゆくか」


 松明で道を照らしながら、穴を進む。

 行き止まりに到達すると、俺は松明をユースウッドに預ける。


 「ユーさん。ちょいと持ってて。最後の穴を開けるからさ」


 スコップで慎重に掘っていき、地上への道を完成させた。

 穴から顔だけ出して辺りを確認する。


 「おお。外はやっぱり森の中だったな! なら都市は・・・・後ろか!」


 俺はちゃんと北方面に穴を掘れたらしく、見事な脱出路を作成したようだ。


 「ユーさん。ここからなら、無事に出られるぜ」

 「ほんとか。お主は本当に凄いな。色んなことが出来るな」

 「まあね。ほい!」


 先に地上に出た俺は、ユーさんに手を差し伸べた。


 「うむ。ありがとう」

 

 俺の手を握り返してくれてユースウッドは百年ぶりの地上に出たのである。

 背伸びする彼の体のサイズが縮んでいった。


 「ええええ!?」

 「これが儂のドヴォーク形態だ。これにも慣れておいて欲しいぞ。儂の友人!」

 「そ。そうだよな。俺の友人なんだもんな! これくらいでびっくりしていたらダメだよな。慣れよう!」

 「「ガハハハ」」


 と二人で笑いあうくらいに余裕があったのだった。


 ◇


 「そんで。ユーさん。ここから、どこへ行けばいいんだ? 出来たら買い物したいな。あ、でも金ねえや。んんん。でも人里にいかんと、金も食料もな。補充はしたいよな」

 「それもそうだな……どこがいいだろうかな・・・う~ん。ここはパスティーノだからな」


 ユーさんは頭の中に地図を広げて一番良い場所を探してくれている。


 「人の出入りが激しい所がいいだろう。人口が少数の村や町だと、ルルは目立つ。ヒュームは数が少ないからな。大都市でも目立つほどだ」

 「そうなんだ。ならテキトーな場所じゃなく、ユーさんのオススメの所に行こう」

 「オススメとは・・・まったく本当に観光気分なのだな。ガハハハ」

 「まあね。楽しんでいこうぜ。逃亡者みたいな悲壮な感じは嫌だしさ」

 「それもそうだな……では、ここらで一番大きな都市に行こう」 

 「どこ?」

 「パスティーノを西に・・・・この森を抜ける。解放軍の都市だろうが仕方ない。大都市ジュズランに行こうか」

 「ジュズラン……いいぜ。そこに行こう。ほんじゃ! 先導頼むね」

 「うむ。任された!」


 こうして俺はユースウッドと旅に出ることになった。


 無職のジーバードのヒュームと、ドワーフの王であるドアルドワーフ。

 不思議な組み合わせから始まる大冒険の旅の始まりであった。



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