第73話 大会開催

 歴史図書館に行ってから二日が経った。

 いよいよ俺の依頼の本番。

 武闘大会に参加する日となった。

 俺は、都市の中心地にあるダルトン闘技場と呼ばれる馬鹿でかい施設の中にいる。

 ここは、ジャコウにもある闘技場に似ているが大きさの桁が違う。

 どうやら、あっちの闘技場は学生用であったみたいで小さめの設計だったんだろう。 

 こちらの闘技場はとにかく大きい上に、普段から使用しているのが分かる。

 至る所に傷が残っているのだ。


 「へ~。普段も使ってるんだな」

 

 俺はリングの所にある傷を見てそう思った。


 ◇


 大会直前。

 選手控室にいた俺の背後に誰かが立った。

 振り返ると金髪ロングの男性である。

 無駄に白い歯を見せてきた。


 「久しぶりだな!」

 「お、おお」


 え、誰?


 「今度は負けんぞ。あの時、俺は貴様にいいようにされたからな」

 「そ、そうか」


 だ、誰?


 「今度こそ、俺は貴様を倒す!!」

 「そうかそうか。そうなるといいな」


 で、あんた、誰よ?


 「二つ勝ち上がれば貴様とだ! それまで負けるなよ。さらばだ」

 「おお! じゃあな」


 おい! 結局誰なのよ。

 名前を言え。名前を!

 二つ勝ち上がるしか情報がないんだが・・・・。

 ま、いっか!


 と俺は金髪男が誰か分からないまま大会に臨むことになった。

 知り合いのような感じなので、今度あいつに会ったら、できるだけこちらも知り合いのふりをしなければ!

 俺が知らないって態度を取ったら、あんなに親しそうな話し方の相手だったんだ。

 悲しくなるに決まってる。 

 あの白い歯が黒くなっちまうよ。

 それはあまりにも可哀そうだ!! 

 ということで、俺は別に大会出場の緊張感はなかったのに、別の緊張感が生まれたのだった。


 ◇

 

 大会は二部制。

 一部は子供部門で午前中。

 二部は大人部門で午後からとなっている。

 

 俺は子供部門の控室に立ち寄った

 半分目が死にかけて、椅子に座って眠りそうなアマルを呼んだ。


 「おい! アマル」

 「・・・ああ、あ! お師匠!」


 アマルは俺の元に走ってくるときは子供らしく可愛かった。


 「アマル、いいか。泰然自若を使うなよ」

 「はい」

 「切り替え。出来るようになったよな?」

 「…はい。おそらくやり方は間違ってないと思います」


 一点集中している自分自身の心を乱して外す。

 それが泰然自若のスキルの外し方らしい。

 アマルが言うにはなので、俺には詳しくは分からないのである。 

 

 「よし!!! それならいい」


 俺はアマルの頭を撫でて、続きを話す。


 「いいか。お前が使用していいスキルは、見切りと間合いだけだぞ。他のスキルは使用禁止。それに桜花流も禁止だ」

 「・・・え?・・・それでは拙者、何も出来ないのでは?」

 「いやいや。俺的にはな。これでもまだハンデが軽すぎる。正直、今のお前なら、目隠ししてやっと子供らと互角だと思うぞ」

 「・・・またまたお師匠様はご冗談を。目を隠していたら、誰にも勝てませんよ。はははは」

 「いや、笑い事じゃねえ。お前はそれくらい強いのよ。いいな。相手をケガさせんなよ。軽く木刀を振れ」

 「・・・え? 軽く?」

 「ああ、本気で振るなよ。死んじまう」

 「またまた、お師匠様は~~。ご冗談ばかり」

 「本気だ。アホ!」

 「いで!!! な、何するんですか。お師匠!?」


 俺はアマルの頭を拳骨で叩いた。

 中々真剣に人の話を聞かない剣聖である。


 「お前な、自分の強さを理解しろ! 今のお前は、俺の通常モードでは絶対に勝てん!」

 「え? 嘘ですよね。お師匠様はお強いですよ」

 「ああ。英雄職があればな。でも、それが無かったらお前の方が強い! いいな。そんな奴が子供大会で技を使ってみろ。木刀で戦っているとしても、相手が生きてリングを降りられるか分からんぞ」

 「・・・わ、わかりました。お師匠様がそう言うならそうなんでしょう。技は使いません」

 「おう! 頼んだぞ。勝つことも大事だが、手加減することも大事だと思ってくれ」

 「はい」


 本当は手加減なんて武人としては相手に失礼である。

 礼儀に欠く行為だ。 

 でも、こいつの場合は違う。

 こいつは次元が違う。

 相手が英雄職でない限り、こいつには手加減をしてもらわないと・・・・。

 人の生き死にがかかってるのだ!!!

 力を制限してもらわねば困る!



 ◇

 

 本日は快晴。

 雲一つない空を見て、闘技場のリングを見る。

 凛とした立ち振る舞いのアマルは木刀を握りしめて決勝の舞台に立っていた。


 俺は鷹の目でアマルの顔を見る。

 そしてすぐに腹を抱えて笑う。


 「あ、あいつ。あの顔じゃなきゃいけないのかよ。はははは」


 アマルはアホ面をしていた。

 口が半開きになり、目も半眼くらいに瞑り、ボケ~ッとした顔をしていた。

 そう、あの顔にならないとアマルは泰然自若を自動発動させてしまうらしい。

 なんとも言いようがない・・・アホである。

 

 ◇


 「それでは午前の子供部門の決勝が始まります。皆さんお静かに」


 女性の声で会場に向けてアナウンスが流れた。


 「西から入場してきたのは、ジョー大陸に生まれた新たな剣聖アマル」


 実況解説席にいる司会者が紹介を始める。


 「東から入場してきたのは、我らのジョルバ大陸の名門貴族メーラ家の分家の次期当主。クリス・パーラー!」

 

 紫色の髪を靡かせて、少年はさらに中央に向かって悠々と歩く。

 それに対して、先に中央にいるアマルはぼさっとしたまま立っていた。


 「では、両者が揃ったので、試合開始の合図をします。銅鑼を!」


 『ガシャーン』


 大きな音が鳴り、戦闘は開始された。


 紫の少年は、木刀をアマルに向けた。


 「貴様! この私と戦う気はないのか!!!」

 「・・え・・・あり・・・ます」

 「なぜ、たどたどしいのだ。私を愚弄する気だな」

 「・・そ・・・そんな・・・気はありません」


 本当にアマルにはそんな気はない。

 戦う気はあっても普通にしてしまえば泰然自若が発動してしまうから、アホを演じている。

 いや元々あほだった。

 師匠であるルルロアのいいつけを守るために必死になって、アホ面でいるのだ。


 「ふ・・・ふざけるな。馬鹿にするな剣聖!」


 クリスは剣を振るう。

 子供ではあるが、鋭い一閃。

 それをアマルは見切った。

 ぼーっとした顔のまま、後ろに顔を五センチ引く。 

 相手の剣はアマルの鼻先を掠めていった。


 「なに!? 私の剣を・・・この魔法騎士の私の剣を・・・ならば」

 

 クリスは剣を持つ右手とは反対の左手に魔力を集めた。

 

 「くらえ! ファイア―ボール。乱れ撃ち」


 クリスは十個以上の火の玉をアマルに向けた。

 次々に飛んでくる火の玉。

 それをアマルは躱していき、残り三個の火の玉の時に、飛びはねていたアマルは、空中では躱す動作が出来ないからここで剣を使うと判断した。


 「仕方なし」


 アマルは木刀を抜き、火の玉三個を斬った。

 

 「なに!? 私の魔法を・・・斬っただと。木刀で・・・」


 目の前のありえない光景に、クリスは動きを止めて膝をついてしまった。

 自分の攻撃の全てが通用しない事実を受け止めきれなかった。

 

 「あなたの攻撃はこれで終わりでしょうか。では」


 アマルはいつの間にかクリスの前に立っていた。

 終わりにしてあげようと振り下ろす準備を進める。

 腰の位置にある木刀をゆっくりと動かして、頭の上に。


 「終わりますよ。はい」


 目にも止まらぬ速さの攻撃にクリスは反応しきれない。

 それでも必死に身を守ろうとして、木刀を自分の前に出せたクリス。

 しかし、根元の部分から木刀は壊れ、アマルの一撃はクリスの肩に入る。


 「がはっ! お、重い・・・これ・・が・・剣聖・・の力・・か」


 アマルが繰り出した軽めの一撃でクリスは気絶した。


 「勝者は、剣聖アマル!!! 皆様、拍手を。両者の健闘を称えましょう~」

 

 地鳴りのような拍手が会場に鳴り響き、午前の部は終了となった。


 


 ◇


 戦いを見ていた俺は頭を抱えた。


 「あちゃ~。あれでもやりすぎたな・・・見切りも間合いも禁止にすればよかったな・・・いや、いっそ本当に目隠しすればよかったか」


 ハンデが足りなかった。

 アマルの戦いを見てそう思ってしまった。

 あいつの驚異的な実力は、もっと隠すべきだったかもとちょっと後悔した。

 待てよ。

 目を隠した方がもっと目立ってしまったかもと、考えを途中で改めた。


 ◇

 

 時間が経過し、お昼が過ぎて大会は大人部門で再開。

 一回戦第一試合。


 「それでは入場です。一回戦の第一試合を始めます。西側から紹介します。ヴィジャル騎士団の武闘家ウォン選手! 東側からは先程の子供大会で優勝した剣聖。その師である男。剣聖の師ルルロア選手です!」


 紹介文を聞いた俺は歩きながら思う。

 あれ、俺の無職は!?

 あれ、さっきまで選手のジョブって紹介されていたよね。

 あれ、無職は?


 「マジかよ。剣聖の師って・・・なんか無職より恥ずかしいわ。俺のジョブ・・・大層な通り名になっちゃったね」


 と俺は悲しい顔でリングに上がったのである。

 これだったら紹介文、無職にして欲しかったな。



 ◇


 目の前の人は、騎士団の人だけど武闘家らしい。

 武器を何も持っていなかった。


 「・・・よろしく・・・」


 無骨な感じで話しかけてきて、右手を出してきた。


 「はい。よろしくです」


 俺も簡単に答えて、右手を出し握手を交わした。



 「両者の挨拶が済んだので、試合を開始します。銅鑼を!」


 『ガシャン』

 となって始まる。


 幾度か拳を交えてわかる。

 この人はあまり強くない。

 それになぜか武闘家の動き方じゃなかった。

 手と足がおぼつかない印象を受ける。

 滑らかさがないと言ってもいい。

 動きが別な職種に感じる。


 数度の殴り合いの後、至近距離になった瞬間、敵の声が変わった。


 「ルル。聞いてくれ」

 「うお! え。誰。ウォンさんじゃなくね?」

 「俺だ。俺。エラルだ。一回俺を飛ばせ、ここで長く会話したら怪しまれる」

 「お。おお」


 俺は目の前の人を突き飛ばした。

 その後、男性はすぐに立ちあがり、戦う振りをしながら近づいて、俺と会話をする。

 拳と拳を交換するかのように握り合う。


 「よし。聞け。ルル」

 「おっさん。あんた・・・変身か? それ?」


 姿ががらりと違う。

 一つもおっさんの要素が無かった。


 「ルル、時間がないから聞いてくれ。お前に会うためにスキルを使った。奇術師のスキル『奇想天外そっくりさん』だ!」

 「・・・ああ・・・あれか」


 俺は思い出す。

 奇想天外そっくりさんは、変身スキルである。

 人物やモンスターなど、見た目だけはそのものになれるスキルである。

 ただし、見た目だけと言っているように、見た目だけが似て、その人物が使えるスキルは使えないので注意。

 それと、人物の性格や口調を掴んでいないと、親しい人にはバレてしまうので要注意である。


 「いいか。ルル。会場の外にオリッサがいる」

 「え? 中じゃないのか」

 「ああ。何故か外にいるんだ。そんで、王の周りにはマールヴァ—。この建物の中にはヴィジャルがいる」

 「なるほど……しかし妙な配置だな。何故オリッサが外に? 王を襲うにしては外はおかしくないか」

 「ああ。その通りだ。だから俺も真剣に調べていたんだがな。これ以上調べるには資金面がなかなか厳しい・・・兵士共を賄賂で操れんのよ。でも俺はもっと詳しくオリッサを調べることにしたいんだ。それに他の事も気になることができたから、もう深く中に入りたい。このクーデターのような件には、何か裏がある気がする。だから俺はオリッサの中を見たいんだが。それには金がない。準備したいものがあるんだ。後でくれないか」

 「なるほど。わかった。後でお金やるよ。おっさん、上手くこっちに来てくれ。それにしても、あんた、よく変装してきたな」

 「ああ、俺に対する監視の目も結構あってよ。オリッサは人を信じる場所じゃねえや。だから俺はルルを信じることにしたから、ちょいと命懸けでこの人をお借りしたって訳よ」


 おっさんはウォンさんの体を指さした。


 「へえ。その人自身は今どうなってんの?」

 「眠ってもらった」

 「どこに」

 「自宅に」


 俺はおっさんにわざと殴られた。

 実際に戦っていないと怪しまれるのでなかなかの演技である。


 「あんた、結構器用だな」

 「おうよ。だからルル、情報はまかせとけ。がっちり手に入れたら、とんずらこくからよ」

 「とんずらはすんのかい」

 「当り前だ。こんな恐ろしい所にいられるか。そんじゃ、俺をぶっ飛ばしてくれ。負けるからよ」

 「おう」

 「あんまり本気出すなよ。いてえから」

 「はいよ。ほい!」

 

 俺は軽く正拳突きを出した。

 ぴょーんとおっさんが飛んでいくと。


 「本気出すなって言ったじゃ~~~~~ん」


 情けない声を出して場外に落ちたのである。


 「いや、軽くのつもりなんだけど・・・・」


 と俺は戸惑ったままリングを去ったのである。



 ◇


 「勝者は剣聖の師ルルロアです。皆さん拍手を」


 会場の大歓声の中で俺はリングを降りる。

 西側の選手控室に帰ろうと、リングと控室にいくまでの道の廊下を歩いていると、観客席の上から俺を呼ぶ声が聞こえた。


 「「 隊長!!! 」」


 その呼んでくれた人を見て、俺は珍しく破顔した。

 懐かしい男女の声に、俺は心から嬉しくなったのだ。


 

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