魔剣士学園のサムライソード ~史上最強の剣聖、転生して魔剣士たちの学園で無双する~【第6回ドラゴンノベルズコンテスト最終選考選抜作品】

佐々木鏡石@角川スニーカー文庫より発売中

第1話転生

 ここに、一組の男と女がいる。




 そのうち一人は老いており――畳の上に敷かれた布団の上で、今まさに今際の際にあった。


 間もなく老人の寿命は尽き果て、命の灯が消えるというのに、見送ろうというものはその場で正座し、泣きそうな顔で老人の顔を見つめている一人の少女だけ。




 その老いさらばえた姿、節くれだった指先、骨の秀でた身体――。


 そこにかつて「剣聖」と讃えられ、本朝無双の武士もののふと恐れられた男の面影はなかった。


 老爺は持てる命の全てをかき集め、目を開け、傍らに控える少女に言った。




「国を出よ」




 その命令にも、少女は僅かに洟を啜っただけだった。




「間もなく――この国はとざされる。そなたが祖国に帰るための手筈は、弟子たちに整えさせた。この国を出よ。そして儂の見出した一切をこの国から除け。儂の名前すら伝え残すな」




 それを聞く少女は――美しい少女であった。


 明らかにこの国のそれとは違う美しい金髪、整った顔立ち、青い瞳、そして黄色くくすんだ老人の肌とは違う、輝くばかりに白い肌。


 少女は異人だった。争いの絶えない国から逃げ出し、この国にやってきて、時代の変化と共に迫害されるようになり、老人の庇護の下で暮らしてきた少女。


 そしてこの少女こそが、この老人が「剣聖」として見出した技や極意、その一切を唯一、完全に受け継いだ存在だった。




「儂のような男は、儂の見出だせし全ては――平らかなる世には必要のないこと。この国に儂はもう必要ない。平和に浄められし、泰平の世の中には――」




 ゴホッ、と、老人は苦しそうに咳き込んだ。


 その言葉を伝えるだけで、残り少ない命を削っているのが、自分でもわかる。




「国を出よ。そしてこの技を以て、そなたの祖国を争いから救え。そなたならそれが出来る」




 老人は骨と皮だけとなった腕を上げ、掌を少女に向ける。


 少女は無言でその掌を両手で包み込み、全ての親愛の情を伝えようとするように、頬へと擦り付けた。




「心配するな――また、また会える。未熟な儂はまだ輪廻転生の輪から外れることは出来そうにない。そなたが――今やそなたの存在が、心残りになってしまっておる。未熟――なんと至らぬものよ、もはや如何なる執着しゅうじゃくをも――断ち切ってきたつもりであったのに……」




 そんなことはない。少女は無言で老人の言葉を否定した。


 究極の悟りとは、もう二度と生まれ変わらぬこと。


 師がいうことが理想であるとは、少女にはどうしても思えない。


 人は死んだら終わり……そんな悲しい師の教えだけは、少女は徹底して拒否し続けた。




 だって、たとえ何度、何十回生まれ変わろうとも、私はまたこの人に会いたいと願うから。


 またこの人の教えを聞きたい、またこの人に頭を撫でられたい、またこの人と剣を交えたいと――心の底から思うから。




 少女が再び洟を啜ると、老人が皺だらけの頬を緩め、少女を見つめた。




「また会おう、マリヤ。次に会うときは、平らかなる世で、そしてきっと、再び家族として――」




 老人はもう何も言うことなく、沈黙した。




 ぐいっ、と服の袖で涙を拭い、マリヤと呼ばれた少女は立ち上がる。


 師匠が形見として授けてくれた、この刀を以て、争いと流血に魅入られし祖国を救う。


 そして憎しみの因果、争いの因縁、暴力の連鎖、その全てを断ち切るのだと。


 


 つたえ神州じんしゅう景衡かげひら作刀、号を【なまくら】――。



 少女はその刀を腰に帯び、最愛の師の亡骸に一礼すると――もはや振り返ることもなく、一直線に庵を出てゆく。




 視界から消えていった小さな背中を見送った「自分」は、そこでゆっくりと目を閉じ――。







次話は一時間後に更新します。


「面白かった」

「続きが気になる」

「いや面白いと思うよコレ」


そう思っていただけましたら、

何卒下の方の『★』でご供養ください。

もしかしたら面白いかもしれませんので。


よろしくお願いいたします。

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