我らダンジョン部!

天才戻気

プロローグ


「さあ!第89回全国高等学校ダンジョン選手権大会決勝がいよいよ始まります」

「今年参加数は過去最大の11842パーティー。その内決勝に進むことができたのはたったの4パーティーのみです」

「ここ横浜特設会場も決勝の開始を前にして大きく盛り上がっております」


 画面の向こうで解説が叫ぶ。会場の歓声がすさまじく、そうでもしないと聞き取れないからだ。

 神奈川で行われる決勝に地元のパーティーが進出しているとあって、巨大スクリーンに映されたパーティーに向けて白熱した声援が送られていた。


「今開始のブザーが鳴りました!各チーム一斉に走り出します!」

「箱根ダンジョンは非常に広大なフィールドが広がっていますが、下の階層に潜るほどフィールドが狭くなっていきます。つまり前半の有利が大きく試合結果に影響するわけです」

「12時間という長い勝負ではありますが、どのパーティーも序盤から全力ですね」


 まだ若い探索者たちが、時々現れるモンスターたちをなで切りにしながら突き進んでいく。広い草原系のダンジョンを切り裂いていくパーティーは、まるでサバンナの王者であるかのようであった。




「開始1時間、最初に階層ボスへたどり着いたのは神奈川代表の開成松田高校!会場のボルテージが下がりません!!」

「ダンジョンの配置は毎日ランダム生成で変化しますが、箱根ダンジョンに慣れている分早く発見できたというところでしょうか」


 パーティーが階層ボスへとつながる扉を潜り抜けると、ジャッカルを大きくしたような大型の獣が待ち構えていた。野生のそれとは異なり、オレンジの毛皮に赤の斑模様が浮かび、口からは炎がちろちろと覗いている。しかし、


「早いぞ!みるみる内に傷が増えていく!」

「炎の息吹に対して真正面から水の魔法を返したことで視界が悪くなり、そのうちに接近したというところでしょう。あーもう終わりますね、素晴らしい作戦です」


 探索者の知恵によって地に伏せる。ポリゴンとなったボスに見向きもせずパーティーは開いた扉へと進んでいった。





「さあ試合も中盤に差し掛かりますがここで順位に動きがありそうです!」

「3階層ボスにわずかに遅れて入った東ダン付属でしたが、エース野間の活躍で逆転!4階層へ一番乗りしました!2年生の頃から『東京の剛腕』と知られる彼が今大会も躍動します!」

「決勝唯一の西日本勢、中央百舌鳥も今ボス戦に入りました。4番手金剛工業は少し遅れ気味か?」



「白熱してきました!5階層過ぎて3チームがほぼ横並び!」

「ここからフィールドが草原から山岳に変わります。箱根ダンジョンの代名詞ともいえる環境変化です。慣れている開成松田がリードするかと思いましたが、他の2校が喰らいついています」

「野間もいいですが、中央百舌鳥のメイジ繰峰くるみね京子も素晴らしい活躍です。通常飛行系モンスターに手を焼くことが多いのですが、彼女は百発百中です!」

「ここからはモンスターも手強くなります!残り5時間、優勝の栄冠はどのパーティーに輝くのか!」



「なんと6階層過ぎて金剛工業怒涛の追い上げ!!追いつくどころかリードを作る勢いです!」

「金剛科学工業のプロチームが先日の試合で使用していた、山岳での移動に特化した魔法の組み合わせです!高校生たちにも伝授したのでしょう、企業の私設校である強みが出ています!」

「この魔法のために前半はMPを温存していたということも考えられますね」



「さあ金剛工業が8階層ボスを突破!残り時間は1時間半!」

「これはビートの構え。次の階層へ進むことよりもモンスターを狩ってポイントを稼ぐことを選択しました!ルールでは進んだ階層が同じ場合、それまでに狩ったモンスターのポイントで勝敗が決まります!」

「他のパーティーが9階層を突破することはないと判断しての選択ですね。8階層までに全てのパーティーがどこまで進んでいるのか判明しているからできる判断です」



「さあ9階層に追いついた開成松田!リーダー志村どうす、、いや止まらない!ノンストップで9階層突破を狙いに行く!」

「強気の選択ですね。ポイントを稼ぎに行っても勝てる可能性は十分にあったと思いますが」

「勝負は開成松田が残り1時間で9階層ボスを突破できるかで決まりそうです!」



「残り5分!ついに開成松田が階層ボスへとたどり着きました!」

「倒せるかどうかは5分といったところでしょうか!応援にも一層熱が入ります!もうこちらの会場では何を言っているのか聞き取れません!!」



「やった!やった!開成松田、残り時間ぎりぎりで9階層ボスを倒しました!優勝は開成松田!地元に栄光と優勝旗をもたらしました!!」




 少年少女はその栄光を見て何を思ったのだろうか。

 モンスターとの激闘に興奮したか。

 潜る探索者に惚れたのか。

 抱き合う仲間に憧れたか。

 空飛ぶ魔法に夢を見たか。


 人によって違うだろう。それだけダンジョンは広く、深い。

 しかし間違いなく、その日画面の向こうに映った光景は、彼らをダンジョンへと駆り立てた。

 




######



 20XX年。突如として人類にもたらされた広大な異空間、通称”ダンジョン”。

 ダンジョン内には物理法則を無視した広大な空間が広がっており、その環境は多種多様。スキルを始めとしたダンジョンでしか成り立たない独自の法則と、架空の存在であったモンスターの存在はまさしくファンタジーであった。


 ダンジョン外から武器を持ち込むことができないという制約はあるが、中で負った傷は「死」を含めて現実には反映されないという法則は正しくノーリスクハイリターンであり、人類をダンジョン探索へと駆り立てた。

 ダンジョンは神が人類にもたらしてくれた都合のいいフロンティアだったのである。


 しかしその熱狂も今は昔。多くのダンジョンを踏破した人類は開拓から継続生産へと切り替え、ダンジョンは未知の新天地から高級な畑や鉱山といった存在に落ち着き、もはや踏破されていないダンジョンは永遠に下へ潜れるとされる幾つかの無限迷宮だけであった。


 さて、ダンジョンに潜る人々は探索者と呼ばれるが、継続生産を狙う人類は当然探索者の養成機関、あるいはそうした仕組みを作ることになる。初めは職業訓練施設と並列したものであったがしかし、”ノーリスク”であることにスポーツ性を見出した人物がいた。その人物が”部活動”として探索を始めたことがダンジョン部制度の始まりである。


 その概念が世界中に広がるのは一瞬のことであった。職業訓練であると同時に競技。特に日本では生徒数の多い高校ではダンジョン部が次々と設立され、ダンジョン探索の速さや深さ、倒したモンスターの数を競うダンジョンレースが全国規模で開催されるようになった。全国高等学校ダンジョン選手権大会は日本中のクランがこぞってスカウトを派遣し、次世代のスターは誰かと国民の関心を引き寄せる一大イベントである。

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