彼女のお月さま

 彼女の部屋には月がある。冬の初めに長いこと一緒に暮らした兎を亡くした彼女の元へ、窓の外からやって来た。ふんわり優しいその光を見ていたら堪えていたものが決壊して大泣きした。あの子を抱いた時の重さや温もり、それを知っているのは世界中で彼女だけ。小さな月に手を伸ばす。もう少し。ほら、あのクレーターに掘られた穴からふわふわの長い耳が見える。次々出てくる。皆いる。こっちを見てる。ほら。あと少しで、手が届く。

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