第27話 ブレイズ・アルコン
ブライト「よう!遅かったな!」
ワルツ町の“冒険者の店“で集合すると、既にブライトが鍵を二つ持って待っていた。
アマギ「まぁ、同じ部屋だよなぁ・・・」
アマギはブライトの寝相が死ぬほど悪い事を思い出す。
まさか男女で組むわけにもいかないので、
二つしか鍵がない事を確認し、彼の被害に遭う心の準備をするのだった。
アイリス「予定時間、10分オーバーよ。どこで油売ってたの?」
既にアイリスもいるようだった。
彼女は隣のテーブルに薬品を広げ、整理してポーチに仕舞っているようだった。
アマギ「・・・そういえば、アイリスのポーチは無限に入る奴なのか?」
アイリス「まぁね。私のは薬品やフラスコしか入らないけど」
そう聞いてアマギは、彼女に一つの提案をする。
アマギ「そのポーチと俺の“超空間ポーチ“・・・交換しないか?」
アイリス「え・・・?」
意外そうな顔をするアイリス。気にせずアマギが続ける。
アマギ「いや、アイリスの武器は弓だろう?矢がなくなったら戦えない。今までなんでポーチに矢を詰め込まないのか疑問だったんだけど・・・薬品しか入らないんだったら、俺のと交換した方がいいんじゃない?」
彼女は目を見開く。
アイリス「_いいの!?ホントに!?」
そして目を輝かせ、両手でアマギの手を握って来た。
アマギ「え、ああ。俺のなら、入り口に入る物はいくらでも入るし」
アイリス「ありがとー!!」
子供のようにはしゃぐアイリス。
どうやら常々考えていた事だったようだ。
以前山賊の砦を襲撃した際も、矢筒が空になって殆ど戦えなくなっていた。
それを踏まえれば当然といえば当然なのだろう。
ブライト「・・・おい、いいのか?そのポーチには例の・・・」
ブライトは、アンヴィルタウンでジンから預かった鍵を気にかけていた。
アマギ「ああ、これの事な・・・」
ブライト「・・・え」
アマギの取り出した鍵を見て、ブライトは言葉を失う。
なんと魔剣の箱を開けるための鍵は、まるで溶鉱炉に落とされたように溶けていた。
ブライト「て、てめっ!?融けてるじゃねーか何やってんだ!?」
驚いて問い詰めるブライト。ジンから託された大切な物故、当然の反応である。
アマギ「いや、気付いたらこうなってたんだ!他の持ち物は無事なのに、コレだけ」
そう言っていると、ライラが鍵を見て話に入って来た。
ライラ「あ、これ・・・“刻限の鍵”ですね?」
アイリス「え?そんなもの持ってたの?」
アマギ「・・・刻限の鍵・・・?なんだそれ?」
ブライト「あーなんか聞いたことあるような・・・」
アマギとブライトは、なんのことだかわからない。
首を傾げていると、ライラが再び口を開く。
ライラ「確か、エルフ達が何かを封印するために作った魔術です。箱とセットで使われて、閉めてから一定期間はその鍵であけられるんですけど・・・」
アイリス「しばらく経つと、鍵が勝手に変形して開かなくなるのよ。封印したはいいけど、やっぱりやーめた!ってなった時のために、一定時間は取り出せるようにする代物よ」
アマギ&ブライト「「(絶句)」」
ジンさんは知っていたのだろうか?
いや、間違いなく彼はこの鍵の性質を知らなかっただろう。
でなければわざわざ二人に託すことはしないし、
この鍵と箱を使って封印しようとは思わなかった筈である。
アマギ「・・・爺さん・・・あんたの剣は、もう誰も取り出すことは無いよ・・・」
ブライト「ああ・・・託されたってのに・・・すまない、ジン爺・・・」
ライラ「あれ?ええと、何かマズイ事言いました・・・?」
おどおどと、俯いた二人に背後から聞くライラだったが。
アイリス「ほっときなさい。どうせ誰かから一方的に押し付けられたんでしょうし」
どうしようもないものはどうしようもないので、
変形してしまった鍵の事は気にしないことにして、二人もすぐに立ち直った。
そもそもアマギは、あの魔剣の驚異的な破壊力を目の当たりにしているため、
いずれこの鍵を破壊するつもりだった。
アマギ「・・・そういえば・・・ランクの確認をしろって言われたな・・・」
彼はふと、謎の女性に言われたことを思い出す。
アイリス「ランクの確認?」
アマギ「ああ。ここなら情報もあるんじゃないか」
アイリス「そりゃあるけど・・・誰に言われたのよ」
彼らがいたのは冒険者の店。
ギルドの窓口とも言えるここで分からない道理はない。
アマギ「_
ブライト「は?」
つい先日まで低級だったアマギが、いつの間にか上級のランクに分類されていた。
ドラゴンの討伐が大きいのか、山賊達を蹴散らしたのが大きいのか・・・
アイリス「あり得るわね。少なくとも、低級のクエストにそのレベルの任務はない」
ブライト「だからって中級すっ飛ばして上級かよ!?俺なんてもう四年は中級のままだぞ!?」
騒ぎ立つ四人。アマギの昇進はスピード出世などというレベルでは無い。
もはや何かの不正を疑われて然るべき速さであった。
彼の昇進に関わっている一人の弓手は、口をつぐんでそっぽを向いた。
アイリス「(確かに評議会の方に推薦状は出したけど・・・まさか上級まで上がって来るなんてね・・・)」
アイリスは数日前、アンヴィルタウンの“冒険者の店“にて密かに。
彼に関する紹介文を、ギルドの運営を行っている“評議会”に提出していた。
彼女に限らず上級以上の冒険者は、他の冒険者の昇級を推薦する事ができる。
評議会はそれら推薦に加え、その冒険者の働きや魔力、
保有スキル等から冒険者達の分類ランクを上下させるのだ。
アイリス「(でも変ね、ブライトの紹介文も出したんだけど・・・)」
どうやらブライトの場合、
最初にアマギと出会った時のような“勘違い襲撃”を繰り返していたらしく、
それが原因で昇級見送りとなったようだが・・・
その細かい事情を彼らが知ることは無いだろう。
ブライト「そういや、あの話はどうするよ」
アイリス「あの話?」
持って来た名簿を戻そうとすると、ブライトがまた話しかけて来た。
アマギ「あの話って・・・パーティーの件か?」
ブライト「そう!アマギが上級になったのなら!」
ライラ「あ!パーティーに入っても良いって言ってましたね!アイリスさん!」
アイリス「え?あ・・・そうね、そうだわ。急なものだから忘れていたわ・・・本当にパーティー組むの?」
ブライト「俺はそのつもりだぜ?ほら」
彼はいつの間に持って来たのか、申請書をテーブルに置いた。
アイリス「本気過ぎない?まぁ、そのくらいでいいか」
ブライト「こっちが新しいパーティーを作る時の申請書で、こっちが加入申請書だな。なんか別のパーティーに入ってたりしたら、脱退申請書が必要らしいが」
アイリス「私はフリーだし、アマギはなりたて。何も問題無いわよね?」
アマギ「ああ。こんな仲間ができるなんて・・・心強いよ」
口をついて出た言葉。それを聞いた二人は照れたのか、数秒ほど固まっていた。
ブライト「馬鹿お前・・・いきなり何言うんだ」
アイリス「そうよ・・・貴方ちょっと素直過ぎないかしら」
アマギ「そ、そうか?感想と感謝は口にした方が良いと、俺なりの教訓なんだが・・・」
アイリス「・・・まぁ、それはそうね。で、パーティー名はどうするの?リーダーはアマギなんだし、貴方が決めて良いわよ?」
ブライト「え?マジか。良い名前考えたんだけどなぁ・・・」
アイリス「・・・なんて名前よ?」
ブライト「それはな_」
・・・
コンサートホールのような広さの空間に、十名の男女が座っている。
彼らこそは“評議会”、ギルドの運営を行っている組織、
つまり冒険者を上から管理している者たちだ。
大柄の男性「では、此度の事件について、それぞれの見解を述べてもらう」
議長と思しき男性が、一段大きな椅子から言葉を発する。
すると、おそらく狐のものであろう耳と尾を生やした女性が口を開く。
獣人の美女「では
すると彼女に次いで、小柄な、子供よりも小さい女性が口を開く。
小さな少女「しかしエルフェンは陥落する事なく、居合わせた戦力だけでこれに対処。結果陽動は失敗に終わり、現在のヴァンガードはなんとか持ち堪えていると。私も同じ考えよ」
次いでサングラスを掛けた、知的な印象を与えるスーツ姿の男が話す。
知的な男性「しかし例のドラゴンが送り込まれた物とは考えにくい。何故ヴァンガードもアンヴィルタウンもスルーしてエルフェンに?」
獣人の美女「戦力的に手薄でありながら、王都や数々の要塞と道が繋がっていますもの。戦力を他の場所から集めるには、うってつけではありません事?」
知的な男性「それもそうです。しかし、ドラゴンを運び込んだルートが気になる。野生の竜はレジスタンスを以てしてもコントロールできない凶暴な魔獣だ。連れて来たとしたら、無理矢理引っ張って来たか誘き寄せたか、という事になる」
すると更に、背丈ほどの長さの太刀を持った、背筋のいい老人が話し出す。
老齢の武芸者「いずれにせよ、ヴァンガードは要塞都市、すぐには陥落しないだろう。今のうちに軍は反撃のための戦力を集め、近い内にヴァンガードへ向かわせる。我々はそれに合わせて加勢するか、逆に奴らの支配領域に奇襲を仕掛けるのもいいだろう」
知的な男性「その場合、大陸の東側・・・マリアナ山脈周辺で激闘が起きるでしょう。奇襲を仕掛けるなら、同じ山脈帝国が支配する東側、ガーデンシティ南方が望ましいのでは」
大柄の男性「_軍は既に、我々ギルドに対して支援要請を出している。組織だって行動する軍を動かすより、フットワークの軽い冒険家達に向かってもらいたい、とな」
すると今度は明るめの女性の声が響く。
彼女は炎のように赤いコートを纏っていた。
赤い女「はぁ?ヴァンガードの防御は万全とか言ってた癖に、私たちに泣きついてきたの?冒険者だって暇じゃ無い。うちの戦力を傭兵みたいに使わないで欲しいわ・・・」
更に水着と半透明な上着を着た女性が続く。
水着の女性「まったくよ。第一、前線に戦力を向かわせているような余裕も無いでしょ。私たちの戦力のうち、魔獣やレジスタンスにぶつけられるのは中級以上がいいところ。偶然居合わせたのは仕方ないにしても、無駄に命を危険に晒すのは控えて欲しいものね」
彼女は、二つの写真を円環状のテーブルに投げつける。
そこにはアマギとアイリスの顔が映っていた。
老齢の武芸者「・・・協力して竜種を撃破、早期討伐により街への被害は最小限に抑えられた。かの竜が人為的に連れてこられたか、偶然そこに現れたかは不明だが、前者である場合・・・厄介な事態になっているのかもしれんな」
老いた男がそう言うと、残りの十人は続きを待つ。
知的な男性「・・・と、いいますと?」
一瞬の沈黙の後、老いた男が続きを話す。
老齢の武芸者「・・・再び、始まったのかもしれん。レジスタンスの大攻勢が」
・・・
アマギ「・・・登録手続きはこれでいいんだよな?」
冒険者の店の受付で、書いた書類を提出する。
末端の支部なので時間は掛かるが、あとは待っていればパーティー成立である。
アイリス「ええ。後は評議会での承認を待つだけね。既存の名前だとか、別のパーティーにいる人が入ってるとか、そう言う事が無ければ問題無いはずよ」
四人で集まり話を組んだ。
ライラはまだ冒険者になれる歳では無いが、
見習いと言う立ち位置であればアマギ達にも同行できる。
ブライト「この名前はよ、俺の故郷での民話が由来なんだ。世界に悪魔が満ち、空の星が消える時。虚空より現れ光を齎らす!」
アイリス「自分で名乗るのって恥ずかしく無いの?」
ブライト「俺達の名前だ、俺は二人ともこの名前に相応しいと思ってるぜ?」
ライラ「私はー?」
ブライト「もち!」
中心で手を重ねる。アマギはリーダーとして檄を飛ばす。
アマギ「俺はまだ冒険者になって日は浅いし、皆とも知り合って間もないけど・・・同じ焚き火を囲い、空腹を満たし、何度も窮地を乗り越えて来た仲間として、これからも力を合わせて行こう。“ブレイズ・アルコン”_結成!」
上級二名、中級一名、見習い一名。
パーティー名を“ブレイズ・アルコン”。
その冒険と戦いが幕を開ける。
夜のワルツに、信頼と喜びの声が響いた。
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