第29話 あたしのナイトくん
《side リーン・シャルダン》
毎日毎日あのお堅い制服を着てると、どんどん気が滅入っちゃう。
あんなに長いスカートじゃ、あたしの自慢の足が見せられないじゃない。
だいぶ暑くなってきたから、今日はノースリーブの白いブラウスに紺のフレアミニスカート。
週末にお洒落して、王都で人々の視線を浴びると気持ちいい!
やっぱり、ストレスの発散にはこれが一番だわ。
「ん? あそこにいるのはアークくん?」
胸の大きな女性をジッと見ちゃって。
あたしだって容姿には自信がある。
あんな女に負けはしない。
「やっほー! こんなところで何してるの? あたしのナイトくん」
ブラブラしてただけなんて、慌てて取り繕っちゃって。
ちょっと焦ってるところも可愛いね。
彼のことをもっと知りたいと思ってたし、デートに誘ってみようかな?
この間教室に押し掛けた時の雰囲気は、好印象を持ってくれてそうだったけど。
どうかな? オッケーしてくれるかな?
「わかりました、付き合いますよ」
ふーん、意外と冷静なんだ。
もっと喜んでくれてもいいのにな。
だけど、あたしが声を掛けた途端にデレデレしたり、彼氏にでもなったつもりになっちゃう人よりはずっといいかな。
それに、目が泳いだり頬を赤らめてくれてるみたいだから、あたしに興味がないわけじゃなさそうだしね。
うんうん、なかなか理想的な反応してくれるね、キミは。
ちょうど今年の水着も買わなきゃって思ってたから、付き合ってもらおうかな。
ふふっ、今日はキミのことをドキドキさせてあげるね……。
◇
やっぱり女性ものの水着売り場に連れてきたのは、ちょっと可哀そうだったかな?
だけど、真っ赤な顔をしながらも、ちゃんと付き添ってくれるんだね。
候補の水着は、これとこれと……。ちょっと大胆な水着も見せてみようかな?
キミはどんな反応するんだろ。
野獣になったりはしないって信じてはいるけど、人目があるからここなら大丈夫だよね?
うーん、着てはみたものの……。
こんなに心細くなるほど布が少ないとは思わなかった。
大丈夫だよね? はみ出ちゃってないよね?
アークくんに引かれたりしないよね?
何度も何度も鏡で確認して、あたしは意を決してカーテンを開く。
「お待たせ。どう? 似合うかな?」
あはっ、目を見開いて固まってくれてる。
サプライズは大成功……かな?
でも、そんなに胸ばっかり見られたら恥ずかしいよ……。
「いやいやいや、ダメだろっ、これは」
えーっ、ダメなの? そんなにジックリ見てくれちゃってるのに。
ちょっと悔しいから、もっと見せびらかしちゃえ!
こんなポーズはどう?
「そ、そんな姿を、他の男に見せたくない」
ああ、そういう意味の『ダメ』だったのね。
くぅぅぅ……もう、可愛い!
顔を真っ赤にして、ヤキモチ妬いてくれてる!
本当にキミは期待通りの反応をしてくれるんだね。
キミはやっぱりあたしのナイトくんとして、継続決定だよ!
◇
せっかく二人で楽しい時間を過ごしてたのに、ヘンターのやつが現れた。
あんな奴に辱められるなんて悔しい!
今日のヘンターは紫色の液体を飲むなり様子がおかしくなって、誰も太刀打ちできなそうな凶悪さだった。
それでもキミは勇敢に撃退してくれたね、ありがとう。
張り詰めていた緊張感が切れて、本当の涙がでてきちゃったよ。
たまらずアークくんに抱きついたら優しく包み込んでくれて、この上ない安心感を与えてくれた。
今までは気安く呼んでたけど、キミは本当にあたしのナイトだよ。
前回は少し頼りないところもあったけど、今日のキミはとってもカッコ良かった。
あのヤバかったヘンターもやっつけてくれたし、実力だって申し分ない。
アークくんは、他の誰かに取られちゃダメな人だ!
「ねぇ、ねぇ、ナイトなんて言わずに……彼氏になってよ。あたし、キミのことが好きになっちゃったみたい……」
うちは子爵家で家柄が釣り合わないけど、お婿さんに来てくれるなら関係ない。
まずはお父様に頼んで、あたしのナイトとして召し抱えてもらおうかな?
「魅力的なお言葉ですが、辞退しますよ。準男爵家の長男なんて、平民と一緒ですからね。もしも身分が釣り合うぐらいに出世したら、考えさせてもらいます」
えっ? フラれた? このあたしが?
物凄くショックなんですけど……。
侯爵様や伯爵様なら身分違いって言われても仕方ないけど、まさか準男爵家の男にお断りされるなんて。
それも、あたしの方から告白したのなんて、初めてのことだったのに……。
でもそう簡単に諦めないからね。
あたしの魅力をもっと見せつけて、絶対になびかせてやるんだから!
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大井 愁です。
次話から第四章となります。
投稿は6/6の7:15を予定しています。どうぞお楽しみに。
ここまでお読みいただいて、面白いなと思っていただけましたら★や『いいね』でご評価いただけるとありがたいです。
当作品は『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』の長編部門に応募していますので、ご声援のほどよろしくお願いいたします。
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