第29話 あたしのナイトくん

《side リーン・シャルダン》


 毎日毎日あのお堅い制服を着てると、どんどん気が滅入っちゃう。

 あんなに長いスカートじゃ、あたしの自慢の足が見せられないじゃない。


 だいぶ暑くなってきたから、今日はノースリーブの白いブラウスに紺のフレアミニスカート。

 週末にお洒落して、王都で人々の視線を浴びると気持ちいい!


 やっぱり、ストレスの発散にはこれが一番だわ。


「ん? あそこにいるのはアークくん?」


 胸の大きな女性をジッと見ちゃって。

 あたしだって容姿には自信がある。


 あんな女に負けはしない。


「やっほー! こんなところで何してるの? あたしのナイトくん」


 ブラブラしてただけなんて、慌てて取り繕っちゃって。

 ちょっと焦ってるところも可愛いね。


 彼のことをもっと知りたいと思ってたし、デートに誘ってみようかな?


 この間教室に押し掛けた時の雰囲気は、好印象を持ってくれてそうだったけど。

 どうかな? オッケーしてくれるかな?


「わかりました、付き合いますよ」


 ふーん、意外と冷静なんだ。

 もっと喜んでくれてもいいのにな。


 だけど、あたしが声を掛けた途端にデレデレしたり、彼氏にでもなったつもりになっちゃう人よりはずっといいかな。

 それに、目が泳いだり頬を赤らめてくれてるみたいだから、あたしに興味がないわけじゃなさそうだしね。


 うんうん、なかなか理想的な反応してくれるね、キミは。


 ちょうど今年の水着も買わなきゃって思ってたから、付き合ってもらおうかな。

 ふふっ、今日はキミのことをドキドキさせてあげるね……。



 やっぱり女性ものの水着売り場に連れてきたのは、ちょっと可哀そうだったかな?

 だけど、真っ赤な顔をしながらも、ちゃんと付き添ってくれるんだね。


 候補の水着は、これとこれと……。ちょっと大胆な水着も見せてみようかな?


 キミはどんな反応するんだろ。

 野獣になったりはしないって信じてはいるけど、人目があるからここなら大丈夫だよね?


 うーん、着てはみたものの……。


 こんなに心細くなるほど布が少ないとは思わなかった。

 大丈夫だよね? はみ出ちゃってないよね?

 アークくんに引かれたりしないよね?


 何度も何度も鏡で確認して、あたしは意を決してカーテンを開く。


「お待たせ。どう? 似合うかな?」


 あはっ、目を見開いて固まってくれてる。

 サプライズは大成功……かな?


 でも、そんなに胸ばっかり見られたら恥ずかしいよ……。


「いやいやいや、ダメだろっ、これは」


 えーっ、ダメなの? そんなにジックリ見てくれちゃってるのに。


 ちょっと悔しいから、もっと見せびらかしちゃえ!

 こんなポーズはどう?


「そ、そんな姿を、他の男に見せたくない」


 ああ、そういう意味の『ダメ』だったのね。

 くぅぅぅ……もう、可愛い!

 顔を真っ赤にして、ヤキモチ妬いてくれてる!


 本当にキミは期待通りの反応をしてくれるんだね。


 キミはやっぱりあたしのナイトくんとして、継続決定だよ!



 せっかく二人で楽しい時間を過ごしてたのに、ヘンターのやつが現れた。


 あんな奴に辱められるなんて悔しい!


 今日のヘンターは紫色の液体を飲むなり様子がおかしくなって、誰も太刀打ちできなそうな凶悪さだった。

 それでもキミは勇敢に撃退してくれたね、ありがとう。


 張り詰めていた緊張感が切れて、本当の涙がでてきちゃったよ。


 たまらずアークくんに抱きついたら優しく包み込んでくれて、この上ない安心感を与えてくれた。

 今までは気安く呼んでたけど、キミは本当にあたしのナイトだよ。


 前回は少し頼りないところもあったけど、今日のキミはとってもカッコ良かった。

 あのヤバかったヘンターもやっつけてくれたし、実力だって申し分ない。


 アークくんは、他の誰かに取られちゃダメな人だ!


「ねぇ、ねぇ、ナイトなんて言わずに……彼氏になってよ。あたし、キミのことが好きになっちゃったみたい……」


 うちは子爵家で家柄が釣り合わないけど、お婿さんに来てくれるなら関係ない。

 まずはお父様に頼んで、あたしのナイトとして召し抱えてもらおうかな?


「魅力的なお言葉ですが、辞退しますよ。準男爵家の長男なんて、平民と一緒ですからね。もしも身分が釣り合うぐらいに出世したら、考えさせてもらいます」


 えっ? フラれた? このあたしが?

 物凄くショックなんですけど……。


 侯爵様や伯爵様なら身分違いって言われても仕方ないけど、まさか準男爵家の男にお断りされるなんて。

 それも、あたしの方から告白したのなんて、初めてのことだったのに……。


 でもそう簡単に諦めないからね。

 あたしの魅力をもっと見せつけて、絶対になびかせてやるんだから!



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 大井 愁です。


 次話から第四章となります。

 投稿は6/6の7:15を予定しています。どうぞお楽しみに。


 ここまでお読みいただいて、面白いなと思っていただけましたら★や『いいね』でご評価いただけるとありがたいです。


 当作品は『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』の長編部門に応募していますので、ご声援のほどよろしくお願いいたします。

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