第50話5-9 逃走しました。

5ー9 逃走しました。


せめて木に触れることができれば、ハヅキ兄さんに連絡がとれるんだが。

「ユヅキ、何があっても、俺があなたを守るから」

アーシェが囁いた。

ガクン、と馬車が止まった。

外が、なにやら騒がしくなった。

何だ?

僕とアーシェは、顔を見合わせた。

そのとき、馬車の扉が開いてフードを被った男が現れた。

「ユヅキ」

それは、フランシスだった。

マジか?

フランシスに促されて、僕らは、馬車を降りて、外に出た。そこには、ハヅキ兄さんもいて、馬車の警備にあたっていた兵士たちを倒していた。

「ユヅキ!急げ!」

僕らは、ハヅキ兄さんたちが用意した馬車に乗り込んだ。馬車は、すぐに走りだした。

僕らは、王都のすぐ近くの街 マルナに入った。

そこには、僕が別名で買っていた屋敷があった。

街の小高い丘の上に建っているその屋敷の前に馬車が乗り付けた。

「おかえりなさいませ、ユゲツ様」

美しいがどこか影のある青い髪のエルフのメイドさんが迎えてくれた。僕は、彼女に声をかけてから屋敷の中へと入っていった。

「ただいま、フローラ」

この屋敷は、借金で奴隷落ちしそうになっていた領主から買い取った年代物の屋敷だった。

贅を凝らした造りのこの屋敷は、『クローランス屋敷』と呼ばれていた。

僕たちがリビングルームにあるソファに腰を下ろすと、フローラがお茶を出してくれた。

うん。

これは、最近、生産を始めた紅茶だ。

だけど、少し、違う感じがする。

「美味しいね、これ」

「はい。少し甘みのあるハーブ、ジャスミーの花をブレンドしてみました」

フローラがはにかむような笑顔を見せた。

フローラは、エルフの村から拐われて奴隷商人に売り飛ばされてここの前の主に買われた。

ずいぶんと酷い扱いをうけていたらしくて、僕がこの屋敷を手に入れたときには、地下室で虫の息になっていた。

発見して、慌ててエリクサーを飲ませた。

しばらくして元気になったので、もう、奴隷じゃないことを告げ、自由に好きなところへ行くようにというと、彼女は、ここで働かせてほしい、と望んだ。

「もう、エルフの里には戻れません。どうか、ここに置いてください」

僕は、彼女をメイドとして雇うことにした。

この屋敷は、オルガやアルゼンテたちも知らない。

僕は、しばらくここに姿を隠すつもりだった。

「ナツキとアリーは、どうしたものかな」

ハヅキ兄さんがお茶を飲みながら言ったので、僕は、応じた。

「たぶん、僕の予想通りなら、すぐに解放できる筈だよ」

「マジか?」

僕は、ストレージというものがみな、異空間で繋がりあうことが可能な空間なのではないかと思っている。

ならば。

僕は、ストレージを開くと言った。

「このストレージは、アウデミスのストレージと通じる」

グリュンっ、と空間がねじ曲げられる感じがした。僕は、さらに言った。

「ナツキ兄さんとアリー、来い!」

ポンっとナツキ兄さんとアリーが現れた。

すぐに、僕は、言った。

「アウデミスのストレージと僕のストレージは、切り離される。決して、繋がらない」


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