第35話4-5 アルゼンテの魔石

4ー5 アルゼンテの魔石


ハヅキ兄さんが2人の側へと歩み寄ると声をかけた。

「失礼ですが、お話、聞いてしまいまして。もしよければ、我々と相部屋ですが、ホテルに宿泊されますか?」

「ほんまに?」

少女が泣き止んで顔をあげた。

しかし、彼氏らしい金髪の若者は、慌てて言った。

「しかし、見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには」

「私たちなら、大丈夫です。お気遣いなく」

ハヅキ兄さんの言葉に、少女がぱぁっと微笑んだ。

そういうわけで、僕らは、この奇妙なカップルと相部屋になることとなった。

「うちは、アルゼンテ・アノニマス。ま」

「ああっ!」

突然、連れの若者がアルゼンテの口をふさいで大声を出した。

「わ、わたしは、ルヒテル。ルヒテル・ノースダウンといいます!」

「ぷはぁっ!」

アルゼンテが、ようやくルヒテルの手から逃れて息をついた。

「何するんや!」

「だって」

ルヒテルが何やら耳打ちすると、アルゼンテは、溜め息をついた。

「わかった、わかったって。うちが悪かった。気をつけるさかいに堪忍な」

「わかればいいんです。わかれば」

ルヒテルがちらっと僕たちの方をうかがった。

うん。

この人たち、なんか、ありそうだな。

夕方まで楽しんでから僕らは、『カピパランド』を後にしてカンパニュラの街のホテルへと向かった。

ホテルの前まで来るとアルゼンテがはっとして言った。

「こりゃ、あかん」

「何が?」

オルガがきくと、青ざめたアルゼンテが弱々しく言った。

「こんなお高そうな宿屋、いくら相部屋やいうても、うちら、金が払えへんわ」

うん。

確かに、僕らが泊まるこのホテル『かわうそ』は、このカンパニュラの街でも最高級のホテルだった。

僕は、アルゼンテに言った。

「大丈夫。宿代は、僕らがもつから」

「ほんまに?」

アルゼンテは、少し迷っている様子だったが、ルヒテルは、キッパリと言った。

「やっぱり、我々は、遠慮させていただきます。さっ、帰りますよ、まお・・アルゼンテ」

アルゼンテが項垂れてルヒテルと共に去ろうとしているのを見て、僕は、言った。

「君の、そのネックレスの魔石と交換ではダメかな?」

「えっ?」

アルゼンテが僕の方を振り返った。

アルゼンテは、小さいけれど美しい輝きの魔石が嵌め込まれたネックレスを身につけていた。

「こ、これは」

「これが欲しいんか?」

アルゼンテは、ルヒテルを遮ってきいた。僕は、頷いた。

「うん。とってもきれいな魔石だね」

「ほんまに?」

アルゼンテは、ちょっと悩んでから答えた。

「ええよ」

「ま、まお・・アルゼンテ!」

ルヒテルが慌ててアルゼンテに向かって言った。

「なりません、アルゼンテ!」

「ええやないか、ルヒテル」

アルゼンテは、ルヒテルを制してネックレスを外すと僕に手渡した。

「ほな、これ、な。ちゃんと受け取ってや。えっと・・」

「ユヅキ、だよ」

僕は、答えた。

「ユヅキ」

「うん。ユヅキはん」

アルゼンテがペコリと頭を下げた。

「それじゃ、これからよろしゅう頼みます、ユヅキはん」

「こちらこそ」

僕は、にっこり笑って応じた。

「よろしくお願いします」

その瞬間。

僕の手の中の魔石が鈍く輝くと僕とアルゼンテの首もとに光るわっかが現れ、そこから光の糸が延びて僕らを繋いだ。


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