第14話2-4 嵐が吹く

2ー4 嵐が吹く


僕は、オルガにフランシスのことを頼むとラック爺のところへと向かった。

ラック爺は、村の中央にある大樹の根元でひざまづき精霊に祈りを捧げていた。

「ラック爺!」

僕は、駆け寄るとラック爺に呼び掛けた。

「新しい人がきた!」

「新しい人?」

ラック爺が僕の方を振り返ると悲しげな青い瞳で僕のことをじっと見つめていた。

「外から誰か来たのか。人間なのか?」

「ああ」

僕は、頷いた。

「人間の女の子、だ」

僕が答えるとラック爺がうむ、と唸った。

「そうか、それは、いい」

何がいいのか、よくわからないけど、ラック爺は、そう言うと僕の頭を撫でた。

「神のお恵みかもしれんな。ユヅキも、もう一人前だしな。そろそろ嫁をもらってもいいかもしれん」

よ、よ、嫁、ですと?

僕は、かぁっと顔が熱くなりラック爺から視線をそらせた。

「ぼ、僕、まだ15だよ」

「もう、立派な大人だ」

ラック爺が言った。

「きっと、神が与えたもうた贈り物に違いない」

はぁ・・

僕は、溜め息をついた。

ラック爺は、この村を存続させるために僕を結婚させようとしている。

いや。

存続したところで、ここから出られないっていうのに。

僕は、空を見上げた。

森の上には、澄んだ青空が広がっている。

「あの空の向こうには、たくさんの人が、たぶん、ユヅキ、お前が考えたこともないような数の人間がいるんだ」

ラック爺が僕に言った。

「それを、いつか、お前にも見せてやりたい」

僕は、ラック爺の言葉に思わず、ほろりとさせられた。

この人は、生まれたときからこの森の中で暮らしている僕を憐れんでくれているのだ。

僕は、ラック爺にきいた。

「ラック爺は、いつか、ここから出ていきたいの?」

僕の問いに、ラック爺は、寂しそうな微笑を口許に浮かべると、何も答えることなく、ただ、僕の頭を撫でた。

「その女の子は、どんな子だ?ユヅキ」

「うん」

僕は、ラック爺にフランシスのことを話した。

「なんか、カスケード王国?の王子様なんだって。でも、男装してたんだけど」

「カスケード王国?」

ラック爺が、僕を信じられないものを見るような目で見つめた。

「本当に?」

「ああ」

僕は、頷いた。

「あの子が、そう言っていた」

「そうか」

ラック爺が少し考え込んだ。

「これは、もしかしたら、ややこしい話になるかもしれんな」

「ラック爺も、そう思う?」

僕は、ラック爺を見て言った。

「王子かどうかはともかく、彼女が王族なら、きっと、誰かが探しに来る筈だよね?」

「うむ」

ラック爺が、呟くように言った。

「この村にも、嵐が吹くやもしれんな」



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