第10話1-9 幸せな夜に

1ー9 幸せな夜に


そんなある夜のことだった。

僕は、木の匂いのする新しい我が家でくつろいでいた。

この辺りは、比較的住みやすい気候だとは思うが、それでも、夜になればずいぶんと冷え込んでくる。

暖かい暖炉の前でフェンリルのハヅキ兄さんの毛皮に包まれて、僕は、うとうとしていた。

ドラゴンのナツキ兄さんも、僕の隣で丸くなっている。

カピパラもどきのカヅキ兄さんに至っては、僕の腹の上で横たわって眠っていた。

「お前は、この森から出たくはないのか?ユヅキ」

不意に、ハヅキ兄さんが僕にきいた。

「お前の力があれば、外の世界に行っても不自由なく暮らせるだろう」

僕は、夢うつつでハヅキ兄さんの言葉をきいていた。

この森の外へ?

僕は、頭を振った。

「いや。僕は、ここがいい。僕は、このまま、みんなとここで暮らしたい」

「でも」

ハヅキ兄さんが言った。

「ここには、人は、お前の他には、ラック爺さんと、後、数人しかいない。お前は、その、寂しくないのか?」

「うん」

僕は、ふぁっと欠伸をすると、ふかふかの兄さんの毛の中へと潜り込んだ。

「兄さんたちがいるし、僕は、ここがいいよ」

「そうか・・」

ハヅキ兄さんは、柔らかい声で言うと僕の頬を舌でペロリと舐めた。

「それなら、いいんだが。私は、お前が心配なんだ。こんな、辺鄙な場所で魔物たちに囲まれて生きているお前が不憫で、な」

僕は、眠りに落ちながら考えていた。

兄さんは、優しい。

僕は、こんなに幸せなのに、さらに、僕のことを心配してくれている。

僕は、夢の中でハヅキ兄さんに笑いかけた。

「大丈夫、だよ。兄さん」

そう。

僕は、このままでいたい。

このままが、いい。

悪神の呪いが永遠に、僕のもとへたどり着かないように。

僕が、呪いから逃れられるように。

だけど。

僕は、夢の中で、背後から迫ってくる呪いの足音をきいていた。

ひたひたと迫り来るそれは、いつしか、きっと、僕を捕らえる日が来ることだろう。

それまで。

どうか、このまま、そっと眠らせて。

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