第6話1-5 癒しの光
1ー5 癒しの光
僕は、成人の儀の後、前世に持っていた力が使えるのかどうか、確かめてみた。
僕は、兄さんたちに内緒で、一人、森の奥へと向かうと魔物を探した。
飛びウサギがいたので、僕は、それにそっと近寄ると力を使ってみた。
「爆ぜろ!」
飛びウサギは、爆発し肉片が辺りに飛び散った。
うん。
力は、残っているんだな。
僕は、飛びウサギの中から出てきた魔石を拾い上げた。
この世界では、魔石は、貴重なものだ。
ちょっとした魔法を使うために必要になる。
僕は、村へと帰る道で考えていた。
こんな力が村で役立つのだろうか。
僕は、これまでこの力を悪神との戦い以外では使うことがなかった。だから、この力が村で暮らす上で役立てられるのか、よくわからなかった。
でも。
理論的には、可能な筈だ。
言霊は、全ての名を持つものに有効な力だ。
これを使えば、僕だって、何かの役にはたてるに違いない。
それを試す機会は、突然にやってきた。
巨木から降りてきた僕は、村が騒がしいことに気づいた。
「どうしたの?」
オルガに聞くと、彼女は、僕に言った。
「ホブゴブが猟に出ていて崖から落ちて怪我をした」
「ホブゴブが?」
僕は、ホブゴブの家へと急いだ。
家というより掘っ立て小屋という方が近いようなものの入り口にかけられた御簾のようなものを持ち上げて中へと入っていくと、土間に寝かされたホブゴブの脇に座り込んだラック爺がヒールで傷を癒そうとしていた。
青ざめた表情のホブゴブは、脇腹から血を流して横たえていた。
この村には、医者はいない。
ラック爺のヒールが効かなければ諦める他なかった。
「すまんな、ホブゴブ」
ラック爺がホブゴブに言うと、ホブゴブは、弱々しい笑みを浮かべた。
「ああ。気にするな、ラック爺。俺は、いい一生を送った」
妙な諦観をこの村の人々は、持っている。
それは、この森に迷い込んでしまったことによるものかもしれない。
ラック爺は、ホブゴブの横に座り込んで、このまま、ホブゴブが死んでいくのを見守るつもりなのだろう。
だが。
僕は、ホブゴブへと歩み寄った。
「ユヅキ?」
ラック爺が僕を見上げると、咎めるように呼び掛けた。僕は、かまわずホブゴブに向かって言った。
「傷は塞がる。血は止まる。ホブゴブは、癒される」
「何を言って・・」
「なんだ?これは」
ホブゴブの体が光に包まれた。ホブゴブの脇腹の傷から流れていた血は消え、傷も塞がりなくなっていた。
「傷が癒された?」
「そんな、まさか」
ラック爺が驚きの声をあげた。
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