第468話 タコ料理とモフモフ

 海精霊シーフェアリーの王様──ダロンは宿借蛸パクルオクトの触腕を指しながらニコニコニコニコと笑う。圧を感じる笑みだ。


『それは宿借蛸パクルオクトではないか?』

「これは宿借蛸パクルオクトです」


 まるで日本語の教科書に載っているような会話だ。

 宿借蛸パクルオクトって単語は絶対教科書に出てこないけど、言葉の硬さがそれっぽかったんだよ。


『だよな!!!』

「ふぎゃっ!?」


 急に大声を出されて、反射的に耳を手で塞いだ。

 最近、叫ぶ攻撃されることが多くない? 耳栓を常備しろってこと?


『悪魔が……変わり果てた姿に……!』

『悪魔が……悪魔じゃない……うん……?』

『タコ野郎が成敗されたー!』


 海精霊シーフェアリーたちもだいぶ騒がしいね。

 ダロンが僕に話しかけてきた時に、会話に耳をそばだててちょっと静まっただけで、興奮は冷めてなかったらしい。


 まあ、今は嫌な感じの騒ぎじゃなくて、歓喜っていう雰囲気だからいいけどさ。

 最初はまた怖い顔で追われることになるかと思って、ちょっとビビッたよ。


「あー、すまん。ここでこれを出すのは問題があったか?」


 オジさんが気まずそうに口を挟んだ。

 ダロンがオジさんを見て、目をパチパチと瞬かせる。


『いや? ただ、これは我々にとって長きに渡る宿敵なのでな……。昔、我らの領地を荒らし回った厄介者なのだ。総力を挙げて退治に乗り出した途端、どこぞへ逃げて隠れてしまったのだが……いつか恨みを晴らさねば、とずっと思っていた。退治してくれたこと、礼を言うぞ』


 なるほど?

 僕はオジさんと目を合わせて頷き合う。


 宿借蛸パクルオクトが海中窟ダンジョンの入口を占拠したのって、海精霊シーフェアリーに追われた結果だったってことだね、きっと。


 そのせいで、リュウグウのために必要な水霊魂アクアルーフが取れなくなっちゃったわけだけど……うん、すべては宿借蛸パクルオクト悪い!


 僕は「そっかぁ」と頷いた後、オジさんに視線を向けた。


「ねぇ、これ、海精霊シーフェアリーさんたちにも分けていい?」

「いいぞー。たくさんあるからな!」


 オジさんはすぐに僕の提案を受け入れてくれた。僕がこう言い出すって予想していたみたいだ。


 でも、オジさんが「実はまだあってな──」とさらに取り出そうとするから、みんなで止めることになった。

 ダロンの顔が引き攣ってるのが、オジさんは見えてないのかな!?


宿借蛸パクルオクトの触腕がたくさんあったら、海精霊シーフェアリーたちの心臓に悪いよ! 自重大事!」


 オジさんは僕が叱りつけても「いやー、そうか? 悪い悪い」とのほほんと笑ってる。心臓強すぎじゃない?


「それ、モモには言われたくない言葉だよな」


 ルトがポツリと呟いた声が、なぜか大きく聞こえた。しかも、たくさんの人がその言葉に頷いてる。


 なんで?

 僕、自重が必要なことなんてしたことな──くもないかもしれないけど、ほとんどしてないよ!


 ……ちょっぴり否定しきれなかったから、目を逸らしちゃった。えへへ。



◇◆◇



 海精霊シーフェアリーの里に賑やかな声が溢れる。

 人もエルフも獣人も海精霊シーフェアリーも、種族なんて関係なく楽しそうに笑い合い、宿借蛸パクルオクト料理に舌鼓を打っていた。


 その料理を作ったのはもちろん僕です!

 今日はナディアがいなくて、料理が得意な人もいなかったみたいだから、僕一人の作業だった……がんばったよ! ラッタンに手伝ってもらえばよかったな。


「うまい!」


 宿借蛸パクルオクトの煮物を食べたオジさんが、嬉しそうにビールを喉に流し込む。


 喜んでもらえてよかったよー。

 みんなのために惜しげもなく宿借蛸パクルオクトを提供してくれたお礼の意味を込めて、オジさんの好物を優先的に作ったからね。たくさん食べてくださーい。


『ほう……これは美味だな』

『そうね。あなたはこっちも好きじゃないかしら?』

『どれ……うむ、旨い。メーアはこちらが口に合いそうだな』

『あら、ほんと。美味しいわ』


 ダロンとメーアが仲良く料理を食べてる。

 周りにいるお付きの海精霊シーフェアリーたちが、歓喜のあまり涙を流しそうな表情になってるよ。

 二人の仲を僕の料理が取り持てたなら嬉しいなぁ。


 陣地争い決着のお祝いパーティーだったはずが、完全に宿借蛸パクルオクト成敗記念パーティーに変わってる気がするけど……まあ、いっか。


 僕はもふもふに囲まれて幸せな気分! オジさんがテイムモンスターを召喚してくれたんだ。

 僕もラッタンとヒスイ、ペタ、オギン、ショコラを召喚したよ。


「君はトラの子どもっぽいね〜」

「ぎゃう」

「あ、シロクマくん、僕のタコ飯取らないで〜」

「がう?」


 僕の右にいるのは、トラの子っぽい姿のモンスター。大きさは大型犬くらいあるけど。顔が幼気で可愛いんだー。

 左にいるのはシロクマくん。こちらもぬいぐるみチックで、可愛い。ショコラと並ぶと、テディベアが二体いるみたいに見える。


「わうっ」

「秋田犬くん、シロクマくんを怒らなくていいよー。って、猫ちゃん、それ食べられるの? チョコレート入ってるよ?」

「ふにゃ」

「美味しいならいいや。たくさんお食べ」


 僕のタコ飯を盗んだシロクマくんを、秋田犬っぽい子が叱ってくれてる。ありがとー。お礼にジャーキーをあげるね。


 反対の手で、メインクーンに似た猫ちゃんに追加のチョコレート入りマシュマロを渡した。ショコラ用に用意してたんだけど、猫ちゃんも気に入ってくれたみたいだね。


「だぅ」

「君はどでかいウサギ……? 某国民的アニメ映画に出てくる、森にいる不思議生物にちょっと似てるね」


 僕を抱っこしてきた子に目を向ける。めちゃくちゃ大きい。

 この子は眠精兎スリピーラビっていう種族なんだって。名前はトウロ。


 トウロは寝そべりながら僕をお腹に乗せてくれたんだけど、この体勢だと「トウロ! きみ、トウロっていうんだね!」と呼びかけたくなっちゃう。……自重します。


 とりあえず、もふもふまみれで僕は幸せですー♪


海精霊シーフェアリー宿借蛸パクルオクト料理を上げて友好度がマックスになりました。称号【海精霊シーフェアリーの友】が贈られます〉


 突然のアナウンスに固まった。


「……わっつ?」


 称号を獲得して驚いてる僕の近くでは、オジさんも「えっ!?」と叫んでいる。


「オジさん! もしかして、称号もらった?」

「……もらった。【海精霊シーフェアリーの仲間】だって」

「あれ? 僕がもらったのと違う……」


 宿借蛸パクルオクトの提供者はオジさんだし、同じタイミングで称号をゲットできたんだろうと思ったのに、称号名が違った。

 僕がもらった称号の効果を確認しながら、オジさんの称号についても詳しく聞いてみる。


——————

称号【海精霊シーフェアリーの友】

 海精霊シーフェアリーとの友好度がマックスになった者に贈られる称号

 海中でピンチになると、ヘルプコールを出した時に、海精霊シーフェアリーが助けに来てくれる可能性がある


称号【海精霊シーフェアリーの仲間】

 海精霊シーフェアリーの宿敵宿借蛸パクルオクトを三十回以上倒して、その触腕を海精霊シーフェアリーに渡した者に贈られる称号

 宿借蛸パクルオクトを倒して入手できる経験値が1.5倍になる

——————


 ……おお、オジさん、宿借蛸パクルオクトを三十回以上倒してるんだ? すごーい。

 似てる称号名だけど、効果が全然違うんだねぇ。


「結構みんなが入手できそうな称号だな。友の方が難度が高そうだけど」


 オジさんが分析しながら頷く。


「なんで?」

「友好度って、そう簡単に上がらないんだぞ……?」


 きょとんとしながら問いかけたら、オジさんにちょっと引き攣った顔で言われた。

 僕にとって、友好度ってレベルより上がりやすいイメージだったんだけど、違ったらしい。


「モモはたぶん相手の好みを無意識の内にピンポイントでついて、友好度上げまくってるよね」

「幸運値が効果を発揮してる気がするよな」


 リリとルトの言葉に、僕は「なるほど」と頷いた。

 言われてみれば、そうかもしれないねぇ。


 友だちがたくさんできるから、ありがたい特技です! これからも友だち増やすぞ〜!


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