第450話 神が裁きましょう

 躊躇いがちなぷる君に、僕は優しく話を促すことにした。


「その理由っていうのを話してみてよ。僕はたいていのことじゃ怒らないよ?」


 ぷる君に『尻に敷かれたい!』って頼まれた時に、ちょっと精神を削られただけで、大して被害はないしね。


 僕がにこやかにそう告げたら、ぷる君は話す決心がついたようで、おずおずと僕を見上げながら喋り始める。


「……実は、スライムとしてゲームを始めた時、ある特殊ミッションを受けたんです」

「へぇ、どういうミッション?」

「『スライムに関係する特別な称号を持つ者を、自分の体の上に乗せてみよう!』っていう」

「……なるほどぉ」


 特別な称号って、心当たりしかないな!

 どう考えても、それ『スライムキングを尻に敷く』の称号でしょ。


 この場で僕だけがその事実を理解して、なんとも言えない思いになった。

 運営さんはなんでそんなミッションを用意したの?


「そのミッションをクリアしたら、スライムキングに進化するルートが開かれるらしいんです」

「そうなんだ!?」


 初耳の情報に、僕はぎょっと目を見開く。

 となると、もしかして、スラリンたちをスライムキングに進化させようと思ったら、スラリンたちの上に僕が乗ればいいってこと?


 尻に敷くって言葉は嫌だったけど、スライムに乗るっていう表現なら問題ない気がする。


 というか、コンサートの演出でスラリンたちの上に乗ったことがあったはずだし、スライムキングになる条件を達成してることになってるのかな。

 それとも、これはプレイヤーのスライムにしか関係ない条件?


 僕がちょっと考えて悩んでることに気づかず、ぷる君が話を続けた。

 

「特別な称号を持つ者が誰かはわからないんですけど、どうせ誰かを乗せるなら、もふもふ神さまがいいなぁって思ったんですよ」

「……そっか」


 なんとも言えない思いを抱えて、とりあえず頷く。

 まあ、僕は見るからに小さくて軽いしね。人を乗せるより楽だと思うよ……そういう理解でいいんだよね?


 自分自身をそう納得させようとしたけど、ぷる君の話はちょっとずつ怪しくなり始めた。


「そしたら、『もふもふ神さまってお尻もモフモフなんだろうなぁ』とか『きっと誰もそこには触ったことないだろうなぁ』とか考えちゃって。『もふもふ神さまを乗せたら、僕がこの世界で初めてそのモフモフ感を体験できることになる!?』ってテンション上がって──」

「ぉぅふ……」


 思わず呻く。

 え、ぷる君ってやっぱり変態!?


 タマモが片眉を跳ね上げるのが見えた。明らかに不機嫌そう。

 うーん……気持ちはわからなくもないけど、ぷる君が可哀想だから、怒るのはやめてあげてね。


「でも、もふもふ神さまを乗せたい、なんて言うのは失礼だなって思ったので、こう、自分を下げる意味を込めて、尻に敷かれたいって言い換えて掲示板に書いて」

「ちょっとぷる君のこと理解できなくなってきたよ……」


 自分を下げたいからってどうしてそうなるの!?

 引いてる僕に、ぷる君が照れくさそうに「ウケ狙いだったところもちょっとあります」と言った。

 それなら、わからなくもないかな。


「でも、レベリングがしんどすぎて、しばらくミッションのことは頭の隅に追いやって、すっかり忘れてたんです」

「あー、そうだよね。意味わかんないミッションだもんね。レベリングの方が大事だし」


 ぷる君がさっき確認するまでミッションのことを忘れてたのは、その様子を見てたからわかってる。

 僕が頷くと、ぷる君はそっと僕の下の方を指して言葉を続けた。


「けど、もふもふ神さまに会った時、お尻の方を指す矢印が見えたんです」

「……ほわっつ!?」


 ちょっと耳が悪くなってたかも。最近、こんなことが多いなぁ。

 ──これが現実逃避だって、僕もわかってるよ。でも、そうしたくなるくらい意味がわからなかったんだもん。ちょっとくらい逃げさせて!


「その矢印を見た途端、僕は『そうだ! もふもふ神さまのお尻に敷かれたかったんだった!』って思い出して」

「そこは思い出さなくてよかったと思う……」


 まずはミッションの方を思い出そう?

 ぷる君の中で、ミッションに対する印象の比重が、変な方に偏っちゃってたのかなー。尻に敷かれたい、のインパクトは強いもんね……。


「その後はもふもふ神さまがご存知の通りです」


 断罪を待つように、粛々と平べったくなりながらぷる君が僕を見上げる。

 うーん……これ、どうしたらいいのかな?


 ぷる君が原因の一端ではあるけど、そもそも運営さんが変なミッションを用意していたせいだしなぁ。

 さらに言うなら、僕のお尻に矢印を向けたことは、運営さんにクレームを入れてもいいと思う! 僕のプリティなもふもふお尻に変なものを向けないで!


「もふもふ教の方で対処しましょうか?」


 タマモがにこりと笑って言った。その笑顔がちょっぴり怖い感じに見えるのは、きっと僕の気のせいじゃない。


 これ、タマモに任せちゃったら、『そして、その後のぷる君の姿を見た者はいない──』ってことにならない? ホラーかサスペンスな展開だよね?


 そんなのはダメ! 僕がぷる君を守らなきゃ。

 とはいえ、ただ「もういいよー」って許したんじゃ、ぷる君もタマモも納得しなさそうだしなぁ。


「のーせんきゅー! えっとね、ぷる君には──」


 考えつつ話す。

 スライムキングへの進化ルート発現の方法を教えてもらったし、多少は甘めに判断してもいいよね?


「僕には……?」


 ゴクッと唾を飲んだ感じで緊張してるぷる君を、僕はじっと見下ろした。

 そして、間をおいてからビシッと指差す。僕の今の気分は人情味あふれる裁判官だよ。


「しばらく、漁の成果を僕にプレゼントすることで許しましょう!」

「えっ、それでいいんですか!?」


 驚いてボールのように跳ねたぷる君に、僕はにこやかに微笑みながら「うん」と頷く。

 ぷる君の突然のお願いには驚いたけど、大して被害があったわけでもないし、これくらいでいいでしょ。


 僕の態度を見て、タマモが不承不承な雰囲気を漂わせつつも頷いた。


「……モモさんがそうおっしゃるなら、もふもふ教は神のご判断に従います」

「なんか微妙な感じに見えるけど、わかってくれたならいいや。みんなにも伝えておいてねー」


 僕とタマモの話が済むと、ぷる君が「たっくさん魚介類を獲ってきて献上しますね!」とぴょんぴょん跳ねながら主張した。

 それは嬉しいなー。毎日海鮮パーティーできるし、お店に料理を並べられそうだね。


 ──ということで、大岡裁きならぬ、もふもふ神裁き、これにて閉幕〜♪

 あとは、運営さんによる修正を待つだけだね。絶対、矢印は消してもらわなきゃ!


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