第13層 キティの覚悟
ダンジョン制作5日目。
現在、所員は全員
「さて諸君。今日は5日目。本来ならば、ダンジョンを
そう。理由はダンジョンにおいて最も重要であるボス役を用意できていないためだ。
本来予定していたのは、Lv.20、Lv.50、Lv.80のボスだが、いまいる確定しているのはLv.50とLv.51のボスのみ。
「俺が制作初日に手配しておけと言った、
アスタトロがジロリとサキュラを見ると、
「申し訳ございません。粘ったのですが、先方が納得する契約金を用意できず、全て断られました」
と、消え入りそうな声で答えた。
「断られた? で? 用意できなかったので、なんとかしてくれとでも言うつもりか? それとも俺の要求が厳しすぎると言い訳でもするか? ふざけるな!」
アスタロトは一喝すると、所員全員を睥睨した。
「今回の件が失敗して困るのは誰だ? 貴様らだろうが。押してダメなら引く、引いてダメなら誘惑でもなんでもしてもぎ取って来い。プロなら自分の仕事にもっと責任を持たんか!」
全員が叱られてしょげる中、特に営業課のキュバスと事務課のサキュラは堪えたように俯いている。
2人は夢魔族。相手を誘惑して意のままに操ることを得意としているので、契約を取れなかった不甲斐なさを噛みしめているのだろう。
アスタロトは椅子にドカッと座ると、深いため息をついた。
「それで、どうするつもりだ? ここでただ座ってランキングが終わるのを待つか?」
みな誰も何も言わない。室内に痛いほどの沈黙が訪れる。
アスタロトとしては所員の中から解決策が出てくることを望んだのだろう。
だが意見が出てくる気配がないのを見て取り、再びため息をついて何か言おうとした時。
「キティがやる。にゃ」
沈黙を割いたのは、なんとキティだった。
まさかキティが名乗りを上げるとは思ってもみなかったのだろう。わずかに驚いた表情でアスタトロはキティを見る。
「お前がボス役を引き受けると?」
「はい、にゃ。キティが第3層のボスをひきうける。にゃ」
第3層の?
室内がざわめく。
「第1層ではなく、第3層のボスを買って出るというのか? お前、Lv.は?」
「……Lv.67、にゃ。Lv.80にはとどかないけど……でも『パパ』といっしょなら、だいじょうぶ。にゃ」
キティは後ろに控えるカイザーウルフの「パパ」の胸に顔をうずめると、再びアスタロトに向き直った。
「キティと『パパ』のれんけいなら、Lv.80のぼうけんしゃだってイチコロにゃ」
キティは気丈に振舞っているが、その体は小刻みに震えている。本当は恐ろしいのだろう。
「キティ、お前はまだ子供なんだ。命を張る必要なんかねぇんだぞ」
見かねてケンゾウが口をはさむが、キティはブンブンと首を振った。
「ううん、キティがやる、にゃ。だって、だって……キティ、こうむてんがなくなったらヤだもん!」
キティの声が涙で上ずり始める。
「キティね、むくろだこうむてんが、すきなの。パパとママのあこがれだったから。いつかみんなでいっしょにはたらけたらいいね、っていってたから!」
「むくろだこうむてんがなくなったら、キティはもうパパとママとあえなくなっちゃう……だって、ここしかないの。パパとママがすきなところ、ここしかおぼえてないのにゃ!」
キティはついに嗚咽を上げ始めた。
「だから、キティがやるの。ボスになってぼうけんしゃをいっぱいやっつけて」
「パパとママに……ほめてもらうの……あいたいよ……パパ、ママァ……!」
ヒックヒックと泣き始めたキティを見て、アスタロトは静かに問うた。
「
キティは涙で濡れた顔を上げると、アスタロトをまっすぐ見る。
そして、
「キティが、やる。そうすることに、いみがあるとおもうから。にゃ」
とキッパリと答えた。
その声は幼い少女とは思えないほど、強い意志と決意が宿っていた。
「承った。お前の意思を尊重しよう、キティ」
アスタロトは所員全員を見渡すと、
「安心しろ、工務店のみながお前の味方だ。絶対にお前のことを守るとと誓おう」
とほほ笑んだ。
所員はみな口々に「もちろん!」「まかせておけ」と力強く同意する。
キティはそんなみんなを見て、「ありがとう」とはにかみながら笑った。もうその瞳に涙はなかった。
「さて、残るは第1層のボスだが……」
「はい! その役目、俺が引き受けます!」
アスタロトのセリフを食い気味に、キュバスがシュビッと手を挙げた。
「元は俺の不手際で招いた事態です。かくなる上は第1層のボスとして、命を賭して償う所存……」
「あっそう。じゃあ、よろしく。ではこれでめでたくボス役が決まったので、最終チェック後、いよいよダンジョン解放に向けて準備を始める!」
「いや、雑ッ!? 俺の覚悟のほどを聞いてくださいよ!」
とキュバスがなにか抗議したが、誰も聞いていない。
「みな、キティの覚悟を無駄にするなよ、気張っていくぞ!」
「おー!!」
かつてなくみんなの心が一つになったのを感じる。
これならどんな冒険者にだって勝てそうだ!
私もボス部屋の最終チェックをするために場を離れようとしたのだが、アスタロトに呼び止められた。
「
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