2ー5

PM 11:00 すすきの


 屋敷を出て、荒廃したラフィラを見上げる。ただの解体工事の現場だが、魔術師である私からしたら、亡霊が眠る迷宮でしかない。

 煙草を吸いながら、見上げる私を見て、客引きが黙っているわけにはいかなく、これまでに何回かナンパになってる。

 しかし、それを丁寧に断ってたために、今じゃ誰も声すらかけてこない。

 私は、ただ深夜の0時を待っていた。


 ――――――――――――――――――――――


数時間前 如月邸


 食事を終え、私は事務所に戻る。円を描くように、すすきのの地図に書き出す。

 3重の円を書き、投身自殺の現場があった箇所を丸で塗り出す。そして、遺体の発見時間をさらに書き映す。

 誤差はあるが、全ての時間帯が、大体深夜2時と夕方6時となっている。そこがまた不自然でしかないのだ。


「――――――――」


 自殺者のリストを見る。改めて見ると、10代の女性がほとんどだ。

 おそらく、彼女達はあの亡霊によって自殺させらころされたのだ。彼女の怨念によって、無意識のうちに。

 それが、すすきのの上空に浮かぶ霊達の正体だ。

 彼女達は、亡霊の周りを浮き回っている。まるで、亡霊の従者のように。

 彼女の達の霊を解放するには、あの亡霊を祓うしかない。そうしないと、霊のままこの世に留まり続けるのだから。


「またここにいた。そろそろ寝ないの?」


「明日香? 今日は出てないの?」


 明日香が、事務所の扉で立っていた。どうやら、私に何か用があるらしい。


「ここにいるってことは、またあれになんか言われたんでしょ? どうせ、ロコでもないのは言ってるんだから」


「相変わらず、彼女のことが嫌いだね。まぁ、別に仲良くしろなんて言わんが」


「嫌いというか、気に入らないだけさ。胡散臭いし」


「はいはい。それで? 何のよう?」


 明日香は、扉からソファーに座る。


「今回ばかりは、あれの助言に従った方がいいよ」


「珍しいな。君が彼女のことを信じるなんてね」


「癪だけど、そうした方がいいって、直感で感じてる。でも、それでも行くんでしょ?」


 明日香の言葉に、私は反応する。頭では分かっていたが、それでも、私は向かおうとしている。


「はぁ……。君には分かっていたか。どうも、あの現場を見ちゃ、そうしなきゃ気が済まないみたいだ」


「全く、度を越したお人好しだよ、君は。それで? 本気で行く気?」


「あぁ、全貌さえつかめれば、さっさと退散する気だ。ただそれだけさ」


「どうだかねぇ。そう言って、無茶をするのが君だ。この間の魔術師の件だってそうだろ?」


 明日香の声に、私はため息をする。


「そうだった。なんだかんだ、無茶したっけな。あれも」


「そう言おうとこだよ。君が無茶も承知でそうするのも」


「そうかもね。でも、あれはただ内心腹を立てただけさ。力ある奴が、力の無い者を道具にしか思っていないことに。

 そうしなきゃ、何も罪もない被害者が、報われないのだから」


「でも、今回は自殺した人間の霊。それを報いる為に、君は無茶をするの?」


「分かっているさ。でも、それが許されないんだ。あれが、何を考えようとも、結局は自殺さ死なせせたんだ。

 私が、今やろうとしてる事が、正当化エゴだとしてもさ」


「やれやれ、君は人間臭いよ。あれも言ってるでしょう? 自分が『魔女なにもの』かってくらい、そう言ってるでしょうに」


「そうだな。自分がただの人間じゃない。26だってのに、19のままだ。今まで何度も死んできたが、何だかんだ生きている。それが嫌なのかもね」


 私の話に、明日香はため息をする。彼女も私も、他者とは違い老いも死も身体なのだ。でも、私はそれが嫌いだ。死にたい時に死ねず、生きてて良かったと感謝して、死ぬことすら出来ないのだから。

 だから、私は他人の死には敏感になる。偽善だって承知の上だ。そういうのを見ると、本元を突き止めて、それ相応のばつを与えないと、落ち着かない。

 だからここで、探偵業を営んでいる。そのような輩を、殺す為が一番の理由だからだ


「まぁ、君がそうしたいのなら、そうすればいい。その代わり、自殺者が出たなら、迎えに行くからね」


「意外だね。明日香がそういうなんて。まぁ、その時は頼むよ」


 私は、明日香に見送られる感じで、邸を後にする。煙草を口に咥え、火につける。そして、歩きながら煙草を吸い、私はラフィラに向かった。




 ――――――――――――――――



 そして、今に至る。スマホの時計を確認し、時刻が深夜0時を指すのを確認する。

 私は、ラフィラの出入り口の方に歩き出す。すると、後ろから誰かの声が聞こえ、振り向く。


『うふふふふふふふ……』


 奴の声だ。どうやら、出迎えてくれているようだ。だが、私はその誘いに乗らず、小杖タクトを携えてラフィラの出入り口に差し出す。

 やはりというべきか、強力な呪いを感じる。どうやら、魔力と共に日に日に強さを増していってるようだ。

 そして、ラフィラにかけられていた障壁を解除した。

 中にはいると、解体させられている為か、内装が壊されている。もちろん、電気を通っておらず、火の玉を展開してランタンの代わりにする。

 かくして、私はラフィラの亡霊を祓うため、解体途中のラフィラの中に入っていったのだった。

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