2ー3
PM 5:50 すすきの
あれから特に進展がなく、気がつけば翌日になっていた。その原因が、不可解までに確証が薄いのだ。
魔術師が絡む事件なら、その痕跡さえ掴めばあとは一瞬で終わるが、今回に関しては、人外。それも、亡霊が相手なら難航するのも当然だ。
探偵もとい魔術師として、ここまでこれといった物がないのは初めてかもしれない。
それほどまでに、魔術的な痕跡すらないのだから。
「イヤホンしながらなんて、癪だが仕方ないか」
私は、渡されていたイヤホンを耳につけ、電話はつなげる。すると、聞き覚えのある人物が、応答してきた。
『やっと出た。もう、出ないから心配したよ』
「明日香か。何でこれを?」
『情報共有。これをするだけでもダンチでしょ?』
「魔術師なんだから、
『あいにく、他者と繋げるほどのものはないよ。それより、そっちはどう?』
明日香が、チャットで自身の位置を共有する。どうやら、ボウリング場の近辺にいるようだ。
「こっちは特に何も。それより、そっちこそどうなの?」
『こっちも特に何も。今日が6人目が出るとは思ったけどね』
「まだ18時前だ。そう易々と出るものか」
時計の時刻を見る。時刻はもうすぐで6の方に指針をつけようとしている。マスクが邪魔に思いつつ、私はすすきのの街を眺める。
9月とも言うのに、日が暮れるのが早い。街灯も、少しずつ灯りを灯していく。
交差点の針が、6を指していった。ただの気のせいと思い始めた。
――――――その時だった。6時になった途端、街に違和感を感じた。何だこの感じは。まるで、
まるで、すすきのを包み込むような、悪き怨念が街を満たしてるようだ。
この感じは、【66級】以上の咎人に出くわした時と同様の感覚だ。それも、
明日香との電話を確認する。だが、彼女からの応答がなく、耳越しにノイズが走る。
どうやら、電波に干渉されてしまったようだ。
「電波に干渉されたのか? 明日香との連絡が取れないみたいだ」
人が溢れかえってる街なのに、私だけ圏外になる。もちろん、これはあの霊の仕業に過ぎない。どうやら、完全に遮断されてしまったようだ。
「まずいな。急がねば」
私は、駆け足で明日香と合流を図る。だが、微妙に体が重く感じる。どうやら、私の影があの霊に固定されてしまったらしい。
強い怨霊によって、影が拘束される。私は、
すると、炎が燃え出し、霊の影はそれを視認し、私から離れていく。その隙に、私は走り出す。
そして、偶然にもそこで待っていた明日香と合流した。
「良かった。無事だったみたいだね」
「あぁ。だが、油断した。思っていたほど強い怨念を感じたよ」
「君がしてやられるなんてね。あのデパートはよっぽど曰く付きだったみたいだ」
明日香は、淡々と話し出す。
「あのデパートには、強い怨霊が棲みついていたんだ。そのせいで、4基あるエスカレーターの内、1基だけが塞がれたんだ。
その原因が、昔、そのデパートで起きた心霊現象になるんだ」
「それが、『ラフィラの第4エスカレーター』……」
「そう、ネットでは、昔、火事が起きて、その時の客の女性が亡くなったんだそうだ。その時に死んだ女性の強い怨霊がラフィラに棲みつき、それによって、心霊現象絡みの騒動が多く発生したんだって。
それもあって、閉店するまで『ラフィラの第4エスカレーター』は閉鎖されたまま今に至るんだ」
「それが、君が調べたことか?」
「そうだね。あとは君の知っての通りさ。でも、これだけは確信があるんだ」
明日香は、私に向けてあることを言う。それが、ことの重要さを含めたことになるとも知らずに。
「強い呪いは、『魔術と同等になる』。まぁ、私の言い分だけどね」
「そう。それならいいが」
私と明日香は、屋敷に帰ろうとした。
――――だが、何かを感じ私たちはあたりを見渡す。先ほど感じた、強い怨念を感じ、ラフィラの方を向く。
そこには、以前見た霊が、ラフィラの上空を舞っていた。
『うふふふふふふふふ……』
霊の笑い声が聞こえる。私と明日香は、それを見上げていた。
「何これ!? 咎人並みに強い力を感じる!」
「あぁ、だが、何だこれ? 何故、
霊を見て、違和感を感じる。生体でもない霊から、強い
霊は、不適な笑みを浮かべる。そして、私たちは後ろを振り向いた。
「キャアーーーーーーーーーー!!!!」
通行人の悲鳴が聞こえる。なんと、私たちが霊に夢中になってるうちに、ボウリング場の屋上から、女子高生が飛び降り自殺をしてしまった。
エントランスは、赤い液体の水溜りができる。飛散する肉片と、体から飛び出る骨片が、ことの悲惨さを語る。
そして、すぐに警察が駆け込んできた。
「キサラギさん!! 一体何が!?」
「私も、偶然通りかかっただけで、自殺したと思われますね」
「そうですか……。これで6件目ですね。今度は、このビルで起きた。次に起こるのは――――」
「次は、2日後。それも、ラフィラから200m先で起きるでしょう」
私の言葉に、下川さんは不審がる。
「よくわかりませんが、肝に免じておきます」
下川さんは、遺体の処理に入る。それを見ていた私を、明日香は宥める。
「帰ろう」
「あぁ、行こう」
私たちは、ゆっくりと歩み出す。屋敷に着く頃には、警察が撤収するサイレンが、すすきのの街に響き渡ったのだった。
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