第2節 逢魔が時と丑三つ時
2ー1
第2節 逢魔が時と丑三つ時
PM 2:00 すすきの
事務所での仕事を一通り終わらせ、早めに店を閉じ、ある所に向かう。昼間とはいえ、すすきのの通りは、賑やかである。
だが、その殆どは夜の準備をしている。その為か、酒屋が店に樽のビールを運び入れたりしている。
ふと、昨日あったあの現場に通りかかる。自殺した女子高生の遺影と、花束が添えられている。おそらくは、被害者のクラスメイトと見ていいだろう。
本当に気の毒だ。その日の前までは至って普通だったのに、突然自殺してしまったのだから。
それを見た私は、その場を後にし、とある場所に向かう。
少し離れた雑居ビルに入り、エレベーターで4階まで上がる。その奥にある扉に手を当て、扉を開く。
「あら、お早い到着で。このまま来ないかと思ったわ」
「来ない方が不自然でしょうが。それより、そっちはどう?」
女性のバーテンダーの格好をしている『
どうやら、暇を持て余していたらしい。
「こっちは結構調べたわよ。あなたが気がついていないうちにね」
「よく言う。んで? そのファイルはどこに?」
『
「思ったより薄いな。君にしては、案外調べられていないじゃないか」
「まだ4件しか起きていないじゃない。その量なのは、こっちも気かがりな事ばかりと言うわけよ」
「気かがりな事? 珍しいね。君がそう感じるなんてね」
『
「概要としては、あなたと大差ない。けど、今は起きた時間帯を考察してるのよ」
「深夜2時と、夕方6時か。言われてみれば、不自然な部分があるな。まるで、人為的に起こしてるみたいな」
「そこがおかしいのよ。自我を持たないはずの霊が、人を殺すことなんて、出来やしない」
『
そうしていると、『
「これは?」
「この国の、古い文献よ。昔は、今とは違う時の読み方をしていたそうよ」
「それが、何か関係あるの?」
「おそらくはね。特に、ここが当てはまるんじゃないかと思うの」
『
「特に、この『逢魔が時』と『丑三つ時』と言うのがどうも気になってね」
「『逢魔が時』と『丑三つ時』? 何故それが?」
「『逢魔が時』とは、日が暮れた時を意味する時間帯の事を意味してるみたいだわ。ただ、この時間帯は霊が強くなる時間帯でもあるらしく、災いを呼ぶ時間でもあるんだとか。今で言う、夕方6時頃を指すわね。
逆に、『丑三つ時』は深夜の最も深い時間帯のことのようね。この時間帯が、最も霊が出る時間とされているわ。これも今で言う深夜2時の事を指す。
不自然に思わない? これらの事件は全て、『
まぁ、これが人為的なものであるのなら、話は別よ。問題は、これがあの建物に潜む霊が何故、引き起こしてるかが問題よ」
「確かに、それが人為的なものであるなら、
その確証を検証してるのに時間を要してるだけかな? 私らも
私は、グラスに注がれている酒を飲む。そして、煙草を咥え、火をつける。
「ねぇ、みにくいアヒルの子は、何を求めてたのかしら?」
「さぁ。仲間じゃないの? 生まれつきみにくい容姿だったんじゃ、誰かにはぶられていたのなら、私だってそうするさ」
「そうね。でも、仲間を得たとして、果たしてそれは、信頼のできる仲間なのかしらね?」
『
「おそらく、
でも、再開発の影響で、あそこは取り壊しになった。それを知った
まるで、これまで溜め込んだ恨みを解き放つかのようにね」
「結局は、寂しいだけか。でも、それだと自殺した子達が報われないじゃないか」
「そんなのはどうでもいいのよ。ただ、仲間を増やしたいだけなのよ。彼女は」
「はぁ……。随分と自己中心的な怨霊な事だな。それで? そいつは何がみたいんだ?」
『
「『俯瞰』よ。彼女は、『俯瞰』を一緒に観る為の仲間を探してる。今この時もね」
「『俯瞰』? 景色じゃなくて?」
「そう。彼女は『俯瞰』が観たいんじゃないかと思う。その為の仲間探しで自殺した少女たちを集めてると思うのよ」
「なるほどな。それなら納得だ」
私は、椅子から立ち上がり、帰る準備をする。『
「ごちそうさま。また何かあったら頼むよ」
「えぇ、またね。アル」
私は、扉に手を置き、ここを後にする。かくして、『
――――――――――――――――――――――
その夜
私は、深夜のすすきのの街を徘徊していた。もちろん、あの自殺をこの目で見るために。
あいつの推理が正しいのなら、次はラフィラからさらに50m先で誰かが自殺をするのだろう。
そう思い、私はすすきのを徘徊する。このご時世だってのに、客引きなんているものなんだなと思った。
だが、それは、場違いなものが見つかったことで、一瞬でそれどころじゃなくなったのだ。
「なるほどねぇ。こりゃ、ただの投身自殺じゃないわね」
『調べてみる?』
「うん。お願い、ウィズ」
私は、ウィズの力を借りることで、自殺した遺体を鑑定する。蒼い吸血鬼のよう目で、死体を見ていると、不可解な物が見えた。
「そう言うことか。あれは、ただの怨霊じゃないな」
私は、ラフィラの方をみる。その上に浮かび上がる霊は、不敵な笑みを浮かべていた。
「まぁ、今はここで見ているといいさ。そのうち、君は終わりさ」
自殺者の霊が、ラフィラの方に向かう。それはまるで、
こうして、私は確信を得たことを確認し、屋敷に帰るのだった。
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