第56話 赤い花、ティーナの願い

「もう少しだ頑張れ」とジルがミペットにかける声を聞きながらティーナは鍋を見守った。



やがて火を止めたティーナは


「少ない」と言いながら中身をカップに移した。カップに息を吹きかけたティーナは一口すすった。


じっと見ていたジルの目にはティーナの姿が一瞬、揺らいで見えた。目がおかしくなったかとジルは目をつぶった。


もう一口飲んだティーナは少し水を足して飲みやすくすると、


「ジル、これを飲ませるからミペットを抱いてあげて」ジルはうなづくと慎重にミペットを抱き上げると


少し上を向かせた。


ティーナはカップの中身を口に含むと用意していたガラス管を、ミペットの口に入れた。少しずつミペットの口に薬を流し込むと最初は口からこぼれていたが、次第にぐんぐん飲むようになった。そして手足を動かし、尻尾を振ってティーナのほうに短い手を伸ばした。


ティーナが抱きとると、くったりともたれかかって、やがて眠ってしまった。


「ティーナこの薬は?」とカップを手に持ってジルが訪ねた。


「サリーさんの庭の赤い花で作ったの。作ったわたしの願いがかなうって言ってたあれ・・・」


「あれかぁ、それでこいつが助かったってことか」


「多分ね、願いを二つ分のせいか、思ったより少なかった」


「二つって?」とジルが聞くと


「二つ、一つは背を伸ばそうと」


「伸ばす?」


「うん」といいながらティーナが立ち上がると確かに背が伸びていた。


「はーーー」とジルがため息をついたが、ミペットを潰さないようにティーナを抱き寄せるとそっとくちづけをした。


「なるほど、いい願いだ」と言うともう一度くちづけた。




「このミペットどうしたの?」


「僕が気がついた時、もうミペットは血だらけで訓練場で追い詰められていて、おもわず走って行って、剣を持っていた護衛を殴り倒していた。飼い主のお嬢さんが、なんか言ってたけどそれどころじゃないからここに急いだ」


「ミペットにこんな怪我させるなんてね」とティーナは怒りを滲ませて低い声で言った。


「まぁミペットはよく言う事聞くし、穏やかだよね」とジルがなだめるように言った。


「うちで飼っちゃう?」とティーナが言うと


「いいよ。歓迎だ」とジルが答えた。


「そうだ、仕事に連れて来ていいか、薬師長に聞いちゃお」


「帰るまえに薬師長の所に行こう」


「いや、僕が呼んで来る、ここで待ってて」


やって来た薬師長はミペットを見ると


「噛みませんか?」と聞いた。


「噛みません。いじめなければ」とティーナが答えると


「そうでしょうね。この部屋から出さなければここに連れて来ていいです。移動の時は繋ぐかバスケットにでも入れて下さい」


「わかりました。なんか大きな布がないですか?この子を包みます」


「それでは騎士団のマントを持ってきます。もう少し待ってて下さい」とジルが出ていこうとすると


「それなら、薬師長のマントを貸します」と薬師長があわてて言うと


「ありがとうございます」とティーナ。ジルは軽く頭を下げて薬師長と一緒に取りに行った。



「ジル、勘弁してくれよ。騎士団長のマントをミペットを包むのに使わせたとかなったら、わたしがすごく非難されるよ」


「そんな非難はわたしが」


「いやいや、やめてくれ」とジルの言葉をさえぎると薬師長はマントをジルに渡して送り出した。



家に帰ると食事がテーブルに用意されて、ミペット用の野菜もかごに盛ってあった。



ミペットはティーナがタロウと名付けた。



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