第5話 なんでこんなことに ジルフォード目線
一年ぶりに戻って来た。ティーナにやっと会える。王宮で初めて見かけた時、走り寄って抱きしめたかった。
「ちょうどよかった、あの子だよ。天才薬師のティーナ。国で保護したい薬師。彼女ならエリクサーを作れる」
「保護とは?」
「そのままの意味さ。難しいよ。政治バランスがね」とヘンリーが浮かぬ顔で言う。悩むことなどないだろ。
「俺が結婚して守る」簡単だろ!!
「女を寄せ付けないおまえが?不自然だろ」とヘンリーが言うので
「好きな女は寄せ付ける」と答えた。
「・・・・大丈夫か?」とあいつは俺の顔を覗き込んだ。
「少し胸が苦しい」と答えた。
「・・・・・・」心底呆れたと言う目をするあいつの頭を軽く殴った。
その夜一晩話し合って、目くらましで何組か王命で結婚させることにした。そのひと組みが俺とティーナだ。
もちろん組み合わせは政治バランスを考えて・・・・いや、ヘンリー。つまり王太子に都合のいい組み合わせだ。
もちろん、おれにも大変都合がいい。先に結婚してからゆっくり口説く。そのつもりだったが、隣国からある薬草の情報が入った。
のがすわけには行かない。それで彼女の事は家族に頼んで俺とヘンリーは出発した。
手紙は頻繁に出したし、目についた物もプレゼントとして送った。
彼女が受け取って包みを開けて喜ぶ所を想像したり、離れていてもおれの心は彼女と共にあったのだ。
王宮に戻って彼女の仕事部屋を訪ねようとしたら、薬師長がやって来て防音室に案内された。そこに人事課の者、経理課の者がやってきた。
彼女になにかあったのかと血の気が引いた。そして話しを聞いた。なにかあったなんてもんじゃなかった。
彼女が置いていったのは、退職届け・・・・嫌なことがあったのかも知れない。苛められた?
離婚届。なぜ・・・・請求書??わけわからん・・・・ヘンリーの野郎も間抜け面を晒してやがる・・・・俺もそうかも・・・
すると人事課と経理課の者が決死の表情でこう話し始めた。
「これから話すことはあまりにも荒唐無稽で目撃者はたくさんいますが、その者たちは沈黙を守っています。言っても信用されないことも・・・」
「早く話せ」と言うとヘンリーが
「やめろ、ジルフォード。怖がらせるな。すまん、続きを・・・・ゆっくりでいいぞ」
「目撃者は沈黙を守っています。本当の事と思えないようななので」と人事の者が言うと、経理課の者が引き取った。
「この給料明細で引かれているお金はレッド公爵家に送られていました」血が逆流した。相手の顔色が
「う!すまん続けてくれ」と言うと
「はい公爵家の正式の依頼書が来ております」と書類を机に置いた。
「なんと」と唸り声が出た。相手がおれからできるだけ遠ざかろうとしている。
「それでティーナさんには本当に、はした金が渡されていました。それでこの退職届けを持って来たティーナさんは思いがけない言葉使い、声で飛んでもないことを言いました。それはここにまとめてあります。どうぞ」と彼は俺とヘンリーに小冊子をよこした。
俺は怒り狂った。怒りの矛先は自分。母。姉。妹。執事・・・・
横ではヘンリーが笑っている。こいつもついでに殺しとくか!!と睨みつけたが平気な顔をしている。
そして彼女が人事課で言った言葉・・・・どれもが俺の胸をえぐった。なのにヘンリーは笑っている。
俺が怒りを制御できずに考え散らしている間にあいつは聞き込みに行くように指示をだしていた。
そして、薬師長がまた姿勢を改めて飛んでもないことを言い出した。
「実は公爵夫人が作って下さっていたポーションがなくなり王宮で働いているものが、困っております。騎士団に届けていたポーションは疲労回復効果があり、翌日の鍛錬の効果があがります。結果騎士たちの能力が上がっております。女性陣には美肌のポーションが人気で、肌のきめが細かくなり、目が生き生きとして美人度が上がってます。
肩こり頭痛に効くもの、食欲を抑えるものも・・・・・髪の毛の問題の悩みを考察している最中に急に、気もそぞろになり、決められたポーションを作るだけになって・・・・どうぞ王宮に戻られるようお説得下さいませ」
「・・・・・」
なにも言えなかった。俺は自宅に戻った。
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