42:第一のボス 力の支配魔ヘルクレス
ヘルクレスとリンドウの玉当て対決は、互いに一歩も譲らず戦い続けた。だが、時間は無限ではない。制限時間も半分が過ぎていた。
「もう半分しかないぞ!」
「さ、後半戦も締まっていこう!」
「なんかあんた達、応援雑じゃない?」
「よそ見を、するなぁ!!」
あれからずっと、ヘルクレスは壁を通じてなお正確にリンドウへと当てていく。にしても、あんなに力を入れているのに壊れないあのボールも不思議なもんだ。
「うぎゃああ!?」
リンドウは受け止められないと判断し、先にボールを避けてから威力の弱くなったボールになってから受け止めた。
「これ、かなりきつい......」
「夢を叶えるんだろ? 何のためにここに来たんだ、リンドウ!!」
俺は必死に叫んでいた。敵である彼女に......。いや、夢を持つ者に敵なんていない。はじめからみんな仲間なんだ。それでも、叶えられる人に限りがあるから戦っている。だから越えていくんだ。壁は、高い方がいい!
「わかってんのよ、それくらい!! でもこいつ、強すぎる! いや、一つだけあるかっ!」
リンドウはまた走っていった。俺でさえ目で捉えることのできない速さで、ボールを持ちながら壁を蹴り、ヘルクレスの周りをまわっていく。そして、ボールを投げては自分の元に跳ね返していく。これを永遠に繰り返していく。
「ヘルクレスの反応が鈍りだした! 行けるぞ!」
「それで勝てるといいけどねえ......」
カインの不安は的中した。最後の最後で、リンドウに鈍りが生じた。疲れが出たのだ。ヘルクレスの腕にかすり始めたボールは弱まり、リンドウはヘルクレスに掴まってしまう。
「諦めろ、童。ワシ相手にようやったわい。だが、力の差が違うのだよ!」
頭を鷲掴みされたリンドウは手足をじたばたとするばかりで、何もできないでいた。ボールもヘルクレスに渡り、リンドウはヘルクレスの力によりねじ伏せられて地面に落とされてしまう。
「楽しませた礼に、すぐに終わらせてやる」
ルールも忘れて割って入ろうとしたのも束の間、ヘルクレスの強靭な腕から放たれたボールは音をも置き去りにしてリンドウを押しつぶした。地面にボールが当たった数刻後、轟音と破裂音が聞こえた。
「リ、リンドウ......」
リンドウもボールも姿かたちもない。負けたのだ。残り時間1分という時間を残して......。
「どうやら、勇者側が倒れたようだな。1分以内に次の勇者を立てなければ、辞退として」
「俺がやる!」
カインがこんな奴、相手にできるわけがない。ここは、少しでも知っていて力自慢の俺がやるしかない。出て来た俺に対して、ヘルクレスはニヤリと笑い返した。
「威勢のいい奴は嫌いではない。それに、お前の放つオーラからは強者の色が見える。お前、何者だ?」
「俺か? 俺はジュノ。勇者になるものだ」
シフルから予備のボールが放たれた。そのボールは俺に渡っていく。ここは、先手必勝。リンドウの死は無駄にしない!! 足に集中させた振動と波動によって、音を越えた速さの蹴り!!
「破魔震伝流 ‐
ボールは壁を跳ね、軌道はリンドウのときより早くまるで分身しているかのような動きを見せた。
「破魔震伝流か! おもしろい! だが、見切った!!」
大きな体が跳ね、さらにのけ反りボールがギリギリ当たらない所へ体を捻っていく。そして、ボールを捕らえた右足で、そのボールを俺に撃ち返してきた。
「まじかよ!! 本気出してなかったってか? ふざけんなぁ!! 破魔震伝流‐魂揺‐蹴撃!!!」
帰ってきたボールを俺もさらに速度を倍にして返していく。小細工は無し。相手のこめかみまっすぐの一撃。ヘルクレスはそれを手で受け止めようと構える。
「来い! 破魔震伝流の勇者よ!」
ヘルクレスはボールを掴んだ、かと思いきやそのボールはさらに勢いを増して指を折って頭へとぶつかっていった。ヘルクレスはその威力に天を仰いだ。ドーンという音と共に、ヘルクレスは倒れた。
「なに!? 支配魔が倒れただと!?」
「シフル、一つ教えてやるよ。俺の師匠、そして育ての親はな。そこの力の支配魔から生まれた魔人なんだよ。そんな俺がこいつを倒せないとでも思ってんのか?」
「勝った気でいるなよ、小僧が! お前は大事な娘を殺した、だからお前だけはお前だけは私の手で殺す!!」
シフルは腰に据えていた剣を取り出し、こちらへ向かおうとした。だが、それを止めたのは、ヘルクレスだった。
「やめろ。勝負はもうついた」
「私の戦いは、終わっていない!!」
「終わったのだ。ワシが負けた。なら、それはお前の敗北を意味する。敗北を認めず、じたばたするな。はしたない」
ヘルクレスが窘めるも、シフルの怒りは収まらない。
「俺はあなたから逃げない。だが同時に、殺される気もない! 俺が勇者になってもあなたを待ち続ける。あなたに復讐という願いがあるのなら」
「くぅっ......! きれいごと並べて気が済んだか! だから、勇者はきらいなんだよ!」
そう言うと、シフルは立ち去っていった。どうやら、わかってくれたみたいだ。俺も、気を引き締めないとな......。拳を見つめていると、アリストが割って入ってきた。
「ふん。いい気になるなよ、欲望のために戦っている偽善者どもめ。まだボスは2体残っている! クエム! 出てこい!!」
「御意! クエム・シンドウ、推して参る!!」
音もなくスタリと現れたその男は、背中に不穏なオーラを放つ刀を携えていた。そして、和風で動きずらそうな服装を脱ぎ捨てて黒装束に身を包みなおしていた。
「じゃあ、引き続き俺が相手ってことで」
俺は拳を構え、準備をするとクエムはその黒々しいオーラを放つ刀を抜いた。その刀には、なにか怨霊めいた魂がふわふわと刀身に取り巻いている。
「我が剣は、黄泉の支配魔の魔石より拵えた魔剣『
クエムが剣を振るたび、悲鳴のような声が聞こえる。その叫びに眉をひそめつつも、俺は拳を振るう。
「はあああ!」
握る指の間で刃を掴み、もう一方の手でクエムの顔面を殴る。吹き飛ぶも、クエムは剣をひと時も離さない。
「拳が剣に勝てる者か! 勝ってたまるか!」
「その心ごと折ってやるよ! 破魔震伝流‐!」
「させない、黄泉抜刀幻術! 操心!」
その瞬間、俺の目の前が煙のようなもので覆われていく。払えど払えど、煙は霧のように濃くなるばかり。果ては、闇へと変わっていった。この暗さ、外ではありえない。星が見えるはずなのに、それさえも反射しない黒々とした黒だった。
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