30:不屈の闘志

 急いで階段を探さないと、死神たちや勇者パーティーが襲ってきてしまう。こうなったら、走りまくって探すしかない!


「ゼノバスターで天井破れないの?」


「できたとしても、どうやって登りますの!?」


「そうだけど、そうじゃないと時間を取られるだけだよ?」


60階をさらにうろちょろとすると、目の前からまたも3体の死神が現れた。ため息をつきながらも、俺達はローブを刻んで彼らの再生を封じていく。しばらく走っていると、二手に分かれた道が見えた。どっちが正しいんだ?


「待てやゴラー!」


ほとんど叫びのような声が響き始めたかと思うと、煙幕から逃れたリリィたちが追いかけ始めて来た。


「やばっ!?」


「早く見つけないと!!」


「ええい、面倒ですわ! あの方々全員ぶっ飛ばしてやりますわ!」


「追いかけられ続けるのはネガだ。ジブンも賛成だ」


ティルとゼノバスターが前に出てきてまたミサイルを放とうとするも、今度はピンクの子がとてつもない速度でゼノバスターまで詰め寄っていった。


「ピンクフラッシュ!」


ピンクの子の身に着けていたスーツが発光し始め、僕たちが目をつぶってしまった。その一瞬で、俺の背中の剣が取られていた。その慣れた手つきは、俺が防ごうとしたスピードを越えていた。


「あっ!? お前! 泥棒!!」


「今更お気づき? 私、手癖が悪いの」


「ああっ!!!」


「え、ティルどうしたの?」


「お財布がありませんわ!」


「僕のブロマイド集もない......」


「え? これただの写真? なんの価値もないじゃない。返すわ」


「心外だなぁ! 美しい僕の貴重な写真だよ? 少しは価値、あると思うけど?」


「そんなこと言ってる場合かよ! にしても子供にしてはこの手際の良さ、ただものじゃないですわね」


「あったりまえじゃない! 私は人の世を騒がす大泥棒ジュエル様よ!」


いままで着ていたピンク一色の衣装を脱ぎ捨てると、これまで以上に派手でフリフリとしたスカートと目元に黒いドミノマスクを着けて恰好を見せびらかせてきた。


「はあ......。じゃあ、俺達先急ぐから剣とか返してくれる?」


「いや、なんでそんな冷めてんのよ! あんたは忘れたかもしれないけど、私はあんたのこと忘れてないからね!」


正直、そんなことは関係なくて俺の剣を返して欲しいなと首をかしげていると、カインが茶々をいれるかのごとく肘で俺のわき腹をぐりぐりとしてきた。


「おやおや、ジュノ君も隅に置けないねえ」


「いや、本当によくわからないんだけど」


「どんな因縁にしたって、忘れるのは紳士として最低でしてよ?」


「そうよ! 私、第一部で一緒だった! お姫様争奪ゲームで私ら戦いあったじゃん!!」


「......! あー。あの子か。君も出場できたんだ」


「まあね。って、だから反応薄すぎ! もっとなんか、こうあるでしょ!」


俺は動揺する彼女を差し引いて、実力行使で俺の剣を取り返そうとするも彼女は軽い足取りでひらりと俺の腕を躱す。続いてティルが乗り出すも、ティルの手をするりと躱してさらに合気道のような身のこなしでティルをはじき返してしまう。


「こう見ても武術の心得はあるんだよね。あんたと同じで。だから、一度手合わせしたかったんだよね......。破魔震伝流の使い手、ジュノ」


「俺の破魔震伝流を知ってるのはすごいけど、だからって手加減はしないよ?」


「あんたが勝てば、望み通りこの趣味の悪い剣は返してあげる。負けたらあんた、私の犬になりなさい」


「犬? それは看過できないな。 なら、全力で挑ませてもらう!」


俺は一瞬でジュエルの元に近づき彼女に一発食らわせようと振りかぶった。


「破魔震伝流-!」


「「魂揺!!」」


なにっ!? 同時に魂揺!? しかも俺の振動を自分の振動で中和して力を和らげている!! これは、姉さんも習得していない対破魔震伝流武術!! 


「さすがにボアのアホみたいに見様見真似はできないけど、少しは体得してるからね。破魔震伝流の礎は」


瞬間、彼女は静かになり知らない武術の形を取り始めた。俺を煽るような指の動きに、俺は一瞬迎え撃ちそうになったがそれは三流の武闘家のすること! ここは少し距離を取る!!


「それは悪手でしょ......。私はあんたより年下だけど、実戦経験だけは誰にも負けないのよ!!」


「俺だって、ずっと島で生き残るため戦って来た! 経験で言えば五分五分だろ!!」


一進一退の攻防が続く。ジュエルのコピー能力は、近い能力を持つボアに引けを取らない。ただ、こいつは手数が多い。俺の知らない武術さえもコピーして自分のものにしている。この子、姉さん以上に強敵かもしれない。


「意外、中々やるじゃない」


「君もね。でも、この戦いは1対1じゃない!!」


「ゼノ! ゼノ・バースト!!」


後ろからティルとゼノ・バスターが出てきては、ゼノバーストを繰り出す。その光はジュエルを捉えるが、一瞬にして彼女は高く飛び上がり回避した。


「私だって、そうよ!」


「リリィも戦う!」


「勇者を殲滅する!」


「ダメだ、この子たちをどうにかしないと!!」


低い姿勢を取りながら、カインが変身して俺に並び立った。俺も再び攻撃態勢と整え、ティル達も俺たちに同調して並び立つ。


「ネガだる......。本気、だすか......」


「いいんですの? ネガだるなんでしょ?」


「今の方が、もっとネガだるだ」


「なに? なんかあるの? ここを突破する秘策」


「ありますわ。でも、ゼノはかなり負荷を負うことになりますが......。商人するしかありませんわ! バスターモード、承認ですわ!!」


瞬間、ゼノバスターの身体が蒸気と光で包まれたかと思うと、これまで重装甲のような見た目から骨だけのようなスラリとしたフォームへと変身した。その装甲は、逆にティルの体にくっつき二人が戦闘モードへと変身したようだ。ゼノバスターは腕から刃のようなものを取り出し攻撃に向かう。ティルは彼のサポートとして腕に取り付けたゼノバーストのパーツでリリィたちを掃討する。


「あの二人、すごい連携だ!」


「僕たちも負けてられないねえ」


「ああ! 俺達の力を見せつけよう!」


「負けてたまるか! クソボケがぁ!」


ジュエルは俺と同じ破魔震伝流を使うことができる。力の強さも互角。カインもティル達も破魔震伝流を知らないし、戦えるとは思えない。ここで一番手っ取り早いのは、彼女の攻撃以上の力を出すか、秘技を使い攻撃自体を止めるかの二択。


「いいよ、来なよ。ジュノちゃん!」


「小手先の秘技では負けた気がする......。なら、拳で負かすのみ! 破魔震伝流 ‐百脚凌嵐‐!!」


「手数で勝てると......!? えっ!!」


俺はさらに、百脚凌嵐を繰り出していく。何百も何千もの手数、いや足数をかけてジュエルの盗まれた破魔震伝流を越える! 


「僕の攻撃も忘れるな!」


唐突なカインの攻撃に対応できなくなったジュエルを、俺は見逃したりはしなかった。


「君の負けだ!! 破魔震伝流 ‐魂揺‐!!」


加速していく俺の拳はようやく彼女の顔を捕らえた。彼女の顔に余裕の表情が消えたのを感じた。


「きゃあああ!!」


「ジュエルちゃん!? リリィ許さない!! 死神ちゃん、カモン!」


「また死神!?」


「うっそぴょーん! 隙あり!!」


「その手には乗らないよ。がおおお!!」


カインの咆哮は、リリィそしてダンジョン自体を震わせた。天井も崩れ始めて、岩石が俺たちとリリィたちを無作為に攻撃していく。落石を避け、俺達はリリィ、そしてキラーを相手していく。


「いい加減、諦めてほしいよね」


「諦めないもんねー! 全部めちゃくちゃになるまでそこで踊ってろ!! ビッグエンゲージ!」


リリィは自身の持つ指輪から魔法を繰り出し始めると、その姿はどんどんと大きくなっていった。その大きさは天井を貫くほどだった。


「おーりゃあああ!!」


野太い声と共にリリィはドシドシと足踏みを鳴らしながら、こちらへ向かってくる。だけど、これってチャンスじゃないのか? あの子を登っていけば、階段を探さずとも上のフロアへ向かえるのでは?


「カイン、ティル!!」


「言いたいことはわかっていますわ。ゼノ!」


「わかった!」


「さあ、フィナーレと行こうか!」


「させないぞ!」


キラーが俺たちを襲い掛かろうとするも、ティルが装備した肩のミサイルでキラーを足止めしつつ、俺達は大きくなったリリィを登って進んでいく。


「ちょ、ちょっとくすぐったいんですけど~」


揺れる体に耐えつつ登りきると、彼女の頭部が見えた。こいつは、ここにいてもらうと間違いなくキラーが登ってくる。ここで倒さないと!!


「破魔震伝流! ‐落振雷おりたつかみ‐!!」


木槌を振り下ろすように、俺の拳をリリィの脳天めがけて撃つと雷鳴のような轟音と共にリリィが底へ落ちて行く。これ以上、俺たちは付き合う必要はない。俺は天井に目を向けて渾身の一撃を打ち込んだ。


「破魔震伝流 ‐昇震念のぼりなまず‐!!!」


衝撃波は天井を五つ吹き飛ばしていく。落ちて行く瓦礫に飛び移りながら俺は登っていく。


「瓦礫を伝って登っていくぞ!」


「本当に無茶言うなぁ、君は!」


「そんなこと、お茶の子さいさいですわ!」


「ネガだが、やるしかないか」


カイン、ティル、ゼノバスターがそれぞれに俺と同じように瓦礫を伝って登っていく。これで十数回分くらいは稼いでやる!!







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る