第3話 シイタケを食べられないなんて、勇者はおこちゃまザコ
「ピッキーったら、ザコいわー。しいたけを食べられないなんてー」
ただひたすらザコい勇者ピッキーを、あたしは罵倒する。
「くっ!」
勇者ピッケンハーゲン・アポロニアことピッキーは、シイタケを前に負けた。
情けない。
あたしたち勇者一向は、救った村から施しを受けていた。
バーベキューを、催してもらっている。
当たり前だが、お肉は最高だ。シメたばかりの牛一頭を、ほぼすべて食べつくす。
肉も内蔵も、捨てるところなんて、ほとんどないくらい。
また、ここはキノコの産地としても有名だ。
中でも、シイタケが最高においしい。
ガルム……この世界でいう「おしょうゆ」を一滴たらすだけで、極上の味に変化する。
「ああ、このほろ苦さの中に滲み出てくるうまみ。これをわからないなんて、人生の半分は損をしているみたいだわ」
「まったくだなー。ホルモンばっかりでクドくなっている口が、シイタケで一気にリセットされちまう。実質、カロリーゼロになった気分だじぇ」
いつも口ごたえばかりしてくるマロリーとも、珍しく意見が合った。
「シイタケか。デリン、そんなにおいしいのか」
「ええ。さして高級でもないから、勇者のあなたでも遠慮なしに食べてよろしくてよ」
「遠慮するよ。シイタケは苦くて、ダメなんだ。デリンが食べてくれ」
うーん。この苦みがしょう油と絡みついて、極上の味になっているのだが。
「あーっ、シイタケがうまい。酒に合う」
いいながら、戦士ハッサンがエール酒を煽る。
シイタケをかじりながら、また酒を一杯。
「チーズと合わせても、おいしいですな!」
独特の苦みが得意ではないのか、騎士ユリー二世は特殊な食べ方をしていた。
「うん。これなら、勇者殿も食べられるのでは?」
「私はいい。みんなで食べてくれ」
一応勇者ピッキーは、かたくなにシイタケを食べようとしない。
「おめえ、肉も減ってねえじゃないか」
「でも、焼きそばも焼きうどんも、おいしいのだ」
マレリーの指摘通り、勇者ピッキーは鉄板に乗った焼きそばや焼きうどんばかりを口にしていた。しかも、肉もコマばかりのヤツを。
それは、それでおいしいけれど。
せっかくの村の催しなんだから、たっぷり食べればいいのに。
やはり、まだぜいたくをできない体になっているのだ。
おまけに、シイタケは本当に苦手ときている。
まったく。こうなったら。
「ピッキー。あたしに食べさせて」
「わかった。あーん」
フォークに挿したシイタケを、ピッキーがあたしに食べさせてくれた。
「てえてえ!」
戦士ハッサンが、過剰に反応する。
だからどうしてコイツは、女の子同士の食べさせ合いだけ凝視するの!?
「うん。おいしいわ。あなたに食べさせてもらうから、余計においしく感じるわよ」
「そうか。そう言ってくれるとありがたいな」
「でも、どうしてシイタケはダメなの?」
「シイタケだけじゃない。キノコ全般がダメなんだ」
昔、黙って教会の裏庭に生えているキノコを食べて、神父に怒られたという。
「それがトラウマになって、キノコはダメになったんだ」
「どんなキノコだったの?」
「なんか太くて、先が丸いやつ」
当時食べたキノコを、ピッキーはイラストで教えてくれた。
「これは!」
「なんと。これはマツタケですな!」
ピッキーが食べたキノコは、マツタケである。
「マジで!? マツタケって、この世界にもあるの!?」
「ございますぞ。もっとも、文化財扱いですな。食べるだけでなく、売買をしても罰せられますぞ」
それを、教会は栽培していたと。
「自分たちが食べるために、庶民に行き渡らないようにしたのね?」
「フリーデリンデ姫殿。その説で間違いないようですな」
だったら、いいこと聞いちゃった。教会を脅すネタが、また増えたわね。
「ブモモォー!」
骨になった牛が、急に暴れ出した。
「うわ、なんだなんだ!」
村人が、パニックになる。
「ブモモー! 魔王様の命令によって、お前たちを全員食っちまうモーッ!」
牛が、キノコと合体した。
「ウーン。マタンゴ・ミノタウロスだモーッ!」
マタンゴと牛のスケルトンが合体し、マタンゴミノタウロスと名乗る。
「勇者ピッケンハーゲンの弱点はわかったモー!」
ミノタウロスの言う通り、ピッキーはキノコを前に、足がすくんでうごけない。
「勇者の首は、もらったも同然だモーッ!」
魔物がバーベキューの串を、ピッキーに向けて投げつけた。
「マジックフフィールド! てい!」
あたしは、魔法障壁を張って串を弾き飛ばす。
「ユリー、いつものように村人を避難させて!」
「御意!」
ユリー二世が盾になって、村人を逃がした。
「ハッサン、マレリー。二手に分かれて敵の戦力を削いで」
あたしの指示に、ハッサンは忠実に動く。斧を振り回して、ミノタウロスと武器を打ち合う。
マレリーは文句を垂れながらも、敵の足元に爆弾トラップを仕掛けて足止めをしてくれた。
「ナイスよ。みんな! さて、あたしも仕事をするわ!」
あたしは勇者に食べさせてもらうことで、勇者にふさわしい料理を思いつくことができる。
「女神よ。勇者にふさわしきレシピを! 秘技・【合成レシピ】!」
勇者が食べたくなるシイタケ料理のレシピが、頭に浮かんできた。
「……わかったわ! 『すき焼き』ね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます