第80話 友との再会①

 外に出ると同時に轟音が響いた。どうやら特殊部隊が突入したらしい。五人は警備中の警察官に紛れながらその場を離れた。


「しかし解せません。どうして後世では貴方ではなく、彼の方が人気なんでしょう」

 鷲を見ながら景浦は首を傾げる。彼は本心からそう思っているようだった。

「それを俺に聞くか?」

 興俄が険しい顔をすると、そばにいた御堂が嬉しそうに会話へ加わった。

「俺が特別に教えてやろう。あのな、理屈であれこれ言う冷たい奴よりも、鷲みたいに行動が多少荒っぽくても可愛げがある奴のほうが、結局は好かれるんだよ。まぁ、あいつは天性のヒーローだからな」

「それはお前の主観じゃないのか? 答えになっていないぞ」

「だから神冷くん、そういうところだよ」

 眉を顰める興俄を見て、御堂は得意げに笑った。

「あの、とりあえず休めそうな場所を見つけに行きましょう。この制服も着替えたいし」

 鷲が三人に近づき声をかけるが、

「おう、分かった」

『……』

 御堂だけが返事をし、興俄と景浦は無言だった。


 規制線の外にでると、ゆかりんと麻沙美が待っていた。

「みんな無事だったんだね。良かったぁ」

「お疲れさま。休めそうな場所を見つけておいたわよ。しばらくここに残るんでしょう」

 二人は冬華たちにねぎらいの言葉をかける。ゆかりんの背後には、ともちゃんと賢哉もいた。


「冬華、大丈夫だった?」

「ともちゃん! 無事に来られて良かった。怪我はない?」

「なぁ椎葉、どうして警察官の格好をしているんだ? 服に血がついてるぞ。大丈夫か?」

「え? ああ、うん」

 賢哉に問われた鷲は、曖昧に頷く。

「違う違う。高校生の格好だと、早く家に帰れとか言われるでしょ。これなら自由に動けるし、ちょっと借りたんだよ。血は怪我した人を助けた時についたのかな?」

 冬華が慌てて訂正する。何も知らない賢哉には、極力黙っていたほうが良いと思ったのだ。


 麻沙美が連れてきたのは、他のビルよりも一段低いビルの中だった。壁に挟まれた階段を下り地下に行くと、突き当りにドアが見える。中に入ると室内は広々として、ボックス席やソファーがいくつもあり、前はお酒を提供する場所だったようだ。

「ここは居抜き物件で、もとはラウンジだったの。電気は使えるし、空調もある。ボックス席も広いから、みんな横になれるでしょう。毛布や食料は名村さんと調達してきたのよ」

 全員にペットボトルを手渡しながら麻沙美が言った。エアコンは作動しているようだが、設定温度が高めなのか、涼しいと感じたのは部屋に入った一瞬だった。

「ラウンジって何?」

 ともちゃんが聞いた。

「ああ、高校生は知らなくていいから」

 麻沙美は苦笑いしながら答える。


 着替えを済ませた鷲は、ソファに座り鞘から刀を取り出した。見ると刃が捲れている。

「骨は避けて斬っていたんだけどな。まぁ、良く持ったほうだよ」

 鞘に納めながら溜息をついた。すると、それを見ていた興俄が小刀を差しだした。

「おい、とりあえずこれで刃捲れを削っておけ」

「え? これで削るんですか? まぁ、何もないよりかはましか」

 興俄から小刀を受け取った鷲は、刀の手入れをしようと立ち上がった。


 冬華はともちゃん、ゆかりんとテーブルを囲んで再会を喜んだ。

 御堂は賢哉と話している。二人とも疲れた様子だが、時折笑顔を見せていた。興俄は景浦と麻沙美の三人で何やら話し込んでいた。


「それにしても、静岡からどうやって来たの? 連絡もできないのによく会えたね」

 ゆかりんが尋ねる。

「交通機関は少しずつ動いているんだよ。それで、何とかここまで来たんだけど、東京は大変だった。東京から出ようとする人で、どこもごった返していた。みんなただ家に居ろって言われても不安だよね。こっちに来る人はほとんどいなかったな。それに、たまにスマホが繋がったんだ。だから北川先生に連絡ができた」

「え? スマホが繋がるの?」

「ここは地下だから無理じゃない?」

 冬華とゆかりんが顔を見合わすと、

「東京に入る前は繋がっていたよ。でも都心近づくにつれて全く繋がらなかった」

 ともちゃんがスマホを取り出して通話履歴を見せた。確かに一時間ほど前は通話ができたようだ。

「SNSはどこにいても全くダメ。みんな誰にも相談できなくて、困っていたよ。とにかく周囲にいる人に聞いても情報が錯綜しているし、何が正しくて何が間違っているかなんて誰も分からないからさ」

 ともちゃんはそう言って、深い溜息をついた。

「日本って周囲が海だから、外国にも逃げられないよね。みんな市街地から逃げているのかな。家にいても、情報もないし心配だろうね。やっぱり早く終わらせないと。ね、冬華」

 ゆかりんが隣に座る冬華を見ると、彼女は座ったまま目を瞑りうとうとしていた。

「冬華、寝てる……」

「疲れているんだよ。今日もずっと戦っていたから」

 二人は冬華をそっとソファに寝かせて、毛布を掛けた。


「なぁ、明日からどうする?」

 刀の手入れを終えた鷲に御堂が聞く。

「どうするって、戦うしかないだろ。でも、冬華の力はもう限界が近いんじゃないかな。前にも言ったけれど、あの力は破壊された施設の修復に使いたいんだ。だから、できるだけ僕たちで敵を倒そう」

「そうだな。いざとなりゃ敵の武器を奪って戦おうぜ」


「なぁ、椎葉。夢野の力ってなんだよ」

 二人の会話を聞いていた賢哉が訝し気に聞いた。

「あれ、樹くんは知らなかったっけ? あの人と一緒に行動していたから、全部知っているのかと思った。僕たちの前世……」

「ああああ! ちょっと待って!!」

 鷲の言葉を遮るように、ともちゃんが二人の間に入った。

「ちょっと椎葉くん、賢哉におかしなこと言わないでくれる?」

「え? おかしなことって……」

 鷲は首を傾げる。

「いいから、言わないで! 黙ってて!」

「ああ、うん」

 ともちゃんに凄まれて、鷲は困惑した顔で頷いた。ともちゃんは賢哉を引きずるように場所を移動させる。


「朋渚、おかしなことってなんだよ」

 半ば強引に鷲から引きはがされた賢哉が、不思議そうな顔で聞いた。

「ほら、椎葉くんて変わってるでしょ。前にも生まれた意味を知るとかなんとか言ってたじゃない。良い子だとは思うけど、あんまり真剣に話を聞かない方がいいかなって思って」

「まぁ、良い奴だけど、確かに変わっているな」

 賢哉は納得していないような顔で、御堂と話を始めた鷲に視線を移した。



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