心のささくれ

藤澤勇樹

第1話 心の傷

28歳のオフィスワーカー、美咲は日々の業務に追われる中、次第に心にささくれが生じ始めていた。敏感で傷つきやすい彼女は、同僚との些細な行き違いや上司からの厳しい叱責に、深く心を痛めていた。


「また失敗しちゃった…。どうしてこんなにダメなんだろう」


美咲は自分自身を責め、心の奥底で静かに泣いていた。しかし、その心の痛みは日に日に大きくなり、やがて肉体にも影響を及ぼし始める。頭痛や胃痛に悩まされ、夜は眠れない日が続いた。


「体調不良で休みます…」


美咲は会社を休むようになり、一人で苦しみを抱え込んでいた。心のささくれは深く彼女を蝕み、現実と幻想の境界を曖昧にしていった。



◇ 不可視の証拠


「誰か私の痛みを理解してくれないかな…」


美咲は必死に周囲に助けを求めた。しかし、目に見えない心の傷を証明することは難しく、同僚からは「気のせいじゃない?」と一蹴されてしまう。上司からは「しっかりしなさい」と叱られ、家族からは「大げさに言うのはやめなさい」と諭された。


「私の痛みは本当なのに…。なぜ誰も分かってくれないの?」


理解されない孤独感は美咲を更に追い詰め、心のささくれは一層深くなっていった。現実と幻想が交錯し、美咲は自分が本当に苦しんでいるのか自信が持てなくなっていた。



◇ 絆創膏の発見


ある日の帰り道、美咲は古い薬局を見つけた。何かに引き寄せられるように、彼女はその薬局に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」


年老いた薬剤師が優しく微笑んだ。美咲は自分でも理由が分からないまま、こう口にした。


「心のささくれを治す薬はありますか…?」


薬剤師は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに奥の棚から小さな箱を取り出した。


「これなら、あなたの心の痛みが見えるかもしれません」


箱には「心のささくれ用の絆創膏」と書かれていた。半信半疑ながらも、美咲はその絆創膏を手に取った。


「使い方は簡単です。痛む場所に貼るだけで、心の傷が見えるようになるでしょう」


薬剤師の言葉を聞き、美咲は絆創膏に期待を寄せた。もしかしたら、これで自分の痛みを証明できるかもしれない。


そう思った彼女は、代金を払い薬局を後にした。心のささくれに絆創膏を貼る、そのときが近づいていた。


(続く)

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