第23話 村長、さよなら

 村長はニヤリと笑った。

 眉根を額に寄せ、クスクスと体をくねらせると、震えている。

 何に怯えているのか、何に震えているのか、アルバンとリスタは睨んだ。


「いい加減正体を表せ、お前は誰だ」

「儂か? 儂は村長じゃよ」

「村長さんがどうしてこんなことをしたんですか?」

「答えると思うか……」

「答えないなら視せて貰うぞ」


 アルバンは一向に正体を語ろうとしない村長を脅した。

 痺れをきたしたのではない。

 これ以上面倒な話をする気は無いだけだ。


「いや、待て待て待て、そんなこともできるのか!?」

「できますよ」

「くっ、もはやこれまでか……儂にできるのは他者を呪うことだけ」

「呪い、呪術師ってことか? 魔法から派生した、負を司る陰の魔法使い……」

「でも、あれって確か古の魔法だったよね? 今の時代現存しているのは、当時の劣化版で……まさか!」


 リスタは口元を抑えた。

 想像以上に厄介なものを作ったと知識の本棚が震えていた。


「そのまさかじゃよ。儂はな、儂のことを讃えんこの村の人達が憎いんじゃよ」

「「はい?」」

「儂はの、代々この村の村長をする家柄なんじゃよ。しかし今の若い者達は、この村が豊かでないからと、次から次へと出て行ってしまう。そうなればどうなる? この村は寂れ、廃れ、その責任は全て儂に向くじゃろう」

「だからって、そんな……」

「儂だって殺す気は無かった。ちと、脅す程度で留めて置き、最終的に解けばよいと思っておったのじゃが、いやはや、儂ではどうすることもできんかったわい」


 糞爺過ぎた。

 アルバンとリスタは悲しいとまでは思わなかったが、同じくらいイカれている村長が嫌いで嫌いで仕方がない。

 自分の利のために他者を犠牲にする。魔法使いらしいと言えばらしいのだが、一度そこに堕ちれば、もやは戻ってくることはできない、闇の魔法使いの深淵だった。


「そんな時、都合の良い二人の魔術師が現れた」

「私達のことですね」

「いかにも。このままでは儂まで死んでしまう。そう思ったからの、背に腹は代えられんかったんじゃ。まあ、儂の息子は死んでしまったが、残りの余生、儂は死んだ者達を憂いて生きることにする。それがせめてもの償いじゃからの……ほほっ!」


 村長は達観した姿勢を見せる。

 しかしそれがアルバンとリスタには許しがたい。

 自分達を出汁に使ったこと。それが一番苛立つのだが、何よりも反省の色が見えず、アルバンとリスタは人形代に掛けられた呪いは解けていないのだ。


「おい!」

「なんじゃ、まだそこにおったのか」

「おったのかって……」

「おお、そうかそうか。米俵か。いや、ちと待ってくれ、米はの、儂が食うために置いておかんといけんのじゃ。ここは儂の顔に免じてタダでの……」

「黙れ、【黒葬】:《ヘルズ・ニード》!」

「ぐはっ、な、なんじゃなんじゃ!?」


 アルバンは人形代を持った手を、村長の頭に触れさせた。

 その状態で魔法を唱えると、黒い渦が生まれ、村長の中に練り込まれる。

 苦痛を浴びながら、村長は絶叫を上げると、アルバンの手の中から人形代が消えていた。


「な、なにをする!」

「これでいい」

「そうだよね、これでいいよね」


 村長は激昂し、アルバンを突き放す。

 しかしアルバンとリスタはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。


「い、一体、なにをしたんじゃ!」

「なにも無い。本人に返したんだ」

「本人、じゃと?」

「人形代を村長さんの魂に練り込んだんです。安心してください、これで他の村人達は助かりますよ。村長さんは……その」

「よかったな、お前一人の犠牲でこの村は助かるんだ。安心しろ、後は騎士警察は読んでやる。後は独房でもなんでも過ごすんだな」


 アルバンとリスタは絶望的なことを突き付けた。

 すると村長は、当然のこと理解できない。

 けれど全ては事実であり、顔色を真っ青にして、アルバンに掴みかかった。


「ちょっと待ってくれ。どういうことじゃ、魂にだと!? それに騎士警察とは」

「安心しろ。お前の息子の所にすぐには行かない。残りの余生、苦痛を浴びて死に続けるんだ。この先、永遠にな」

「な、なんじゃと!? な、なんとかならんのか? なんとかせい!」

「するわけがないだろ。じゃあな」

「さよなら、村長さん」


 アルバンとリスタは何食わぬ顔で村長を突き放す。

 地面に転び、立てなくなると、踵を返して歩き出す。


「ま、待たんか! 魔術師だからと言ってなにをしてもいいわけではないんじゃぞ!」

「お前、なにか勘違いしているな」

「そうだね。私達、魔術師じゃないから」

「な、なんじゃと?」


 村長は震えてしまう。

 もはや声も出ておらず、息遣いも苦しげ。

 呪いの影響が出始めたのか、今にも倒れそうだった。


「俺達「私達は魔法使いだ」から」


 アルバンとリスタは全く気にしない。

 自分達の正体を明かしてもどのみち理解されない。

 その事実を深く受け止めながら、二度と来ることの無いヒュード村に別れを告げるのでした。

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