8話 家庭教師

 次の日。

「みんな今日俺、仕事で一日家に入れないから昨日と同じで文字の練習できるか?」

「「「「はい」」」」

「ムニャムニャ」

 いつもより俺が起きたのが早かったせいかレーナは目を擦りながら返事をする。

「ご飯食卓にあるからね!」

 俺はみんなに言い残して家を出た。

「《転移》」

 目まぐるしく周囲の風景が変わり俺が来たのは王都。豪華な邸宅が立ち並ぶ貴族街の中でも大きい邸宅。公爵家の前に来ていた。

「アルス様お待ちしておりました」

 槍を構える門番が槍を下げて俺を中へ案内する。

「お疲れ様です、ありがとうございます」

「お気遣いありがとうございます」

 門番に労いの言葉を掛ける。

「アルス様おはようございます!今お嬢様をお呼びしますので中でお待ち下さい」

「わかりました」

 俺は顔見知りの使用人に中へと案内された。

「アルス、おはよう」

「公爵様!おはようございます、公爵様に置かれましては―――「よいよい、そんなに堅い仲でも無かろうて」」

「気分ですよ気分」

「何をしているんじゃ、さて娘との婚姻だがどうだ?」

「……」

「不満か?何が不満だ、勉強優秀、魔法素質あり、容姿端麗、身分十分つまり可愛い!」

 これだけ聞くと親バカにしか聞こえないが言っていることは間違っていない。

「私は貴族位を持っていません、それに公爵家と婚姻できるほどの実績も」

「名誉伯爵位を持っているじゃろ?実績も十分じゃ前線で十分活躍している」

「いえ、名誉伯爵位は1代限りです純貴族では無い血を公爵家に流すわけには……」

「儂は良いと思うぞ」

「それに他の貴族令息とは違い私は前線にたつ戦闘職です、もしものとき生きて帰れるとは限りません」

「それでもじゃ、お主にはそれでも繋がりを持っておきたいという恩も価値もある」

「……」

「娘の学院入学と共に婚姻をさせる良いか?」

「……」

「無言は肯定じゃぞ」

「……」

「よろしい準備を進めておこう」

 そう言い公爵様は戻った。

「せ〜んせっ!」

 『ムニュ』っと背中に柔らかい感触を感じる。

「シュナおはよう」

 明らかに胸が当てられているがそれに触れるのは禁忌だ。

「おはよっ!今日は実技でしょ?」

「うん、そうだよ」

「行こ!行こ〜!」

 シュナは俺から離れたかと思いきや俺の手を取り繋ぐ。『恋人繋ぎ』というやつだ。

「人に見られたらどうす―――「良いの良いの!せんせ以外と付き合いも結婚もしないから!」」

「え〜……」

 そんなことを話しながら公爵家の騎士団練習場に着いた。

「気を付けっ!!!」

「「「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」」」

 鍛錬の励んでいた騎士たち団長の声を合図に元気よく挨拶をする。

「良いわ、鍛錬に戻って」

「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」

 シュナに騎士たちが左胸に手を当てて騎士の敬礼をした。

「じゃ、やるか」

「着替えてきます!」

「おう」

「覗いても良いですよ?」

「馬鹿言ってないで早く行け〜」

「むぅ、はい」

 俺はシュナを着替えに送り出す。

「ふぅ」

 なんか精神のHPが『ガッッッ』と削れた気がする。

 さ、気を切り替えて!

「せんせっ!やろ!」

「じゃ、最初は模擬戦から」

「先生と模擬戦するから練習場ちょっと貸して」

「はっ!終了!全員観戦せよ!最上位冒険者の戦いが見れるぞ」

「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」

 すると騎士たちは鍛錬を止め上にある観戦スペースへと走っていく。

「始めるぞ」

「はいっ!」

「始め!」

 俺の声と同時にシュナが飛び出す。

「先手は貰いました!《幻影》」

 シュナが左右にずれながら走ると分身のようにシュナが増える。

 幻術か……。教えたっけ?ま、良いや。

「《大地創造》」

 平らな床から岩の柱が幾つも生える。

「《爆焔》!」

 『ドーーーン』と構築した魔法がシュナの放つ魔法によって吹き飛ばされた。

 強い。

「《水氷の矢:追尾》」

 俺の上に幾千の矢が現れる。

「《炎陽の矢:撃墜》」

「「発射」」

 俺が放つ火の矢とシュナが撃墜に放つ水の矢で何度も爆発が起こる。

「《灼熱波》」

「《遮熱》」

 俺から赤い波がシュナに押し寄せる。

「先生!私に炎は厳禁です!《血焔開放ペディグリーofイグニス》」

 シュナの元々鮮やかな赤の髪が更に赤くなり光を帯びる。

 体の周りには火が飛び散り圧が先程から一気に変わる。

 《血焔開放》それはその一族血の中に秘められた魔法。唯一その一族のみに使われることが許された魔法。

「《焔弓》」

 シュナの周りに精巧な炎で構築される弓が現れる。

 動けない。魔法が張り巡らされてる。俺が一歩でも動いたら撃つつもりだ。

「発射」

 弓から熱線が放たれる。

「《結界領域:多重》」

 重い。熱線の射線上に結界を作る、がまるで紙であるかのように熱線は止まらず進む。

 強くなったな。

「シュナお見事だ、本番と行こう」

 手に星剣を握る。

 シュナ相手に剣を抜くのは初めてだ。

「っ!《煉獄》」

 シュナを中心とした全てを灼く炎の世界が出来上がる。

 空間魔法。

「《星月夜》」

 対抗して俺からは全てを呑む夜空の世界。

「《焔弓》」

「《虚無》」

 シュナが構築する魔法が消える。

「!?」

「魔法に気を取られすぎ《夜呑》」

 俺は『ピトッ』とシュナの首に剣を付ける。

「負けた……」

「終わりだな」

「はい」

 こうして勝負はいつも通り俺の勝ちで幕を閉じた。




――――――――

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