剣と魔法のあるある異世界で、魔族として転生しました。

蒼樹 煉

序章

魔族転生

「マジでオレ…ネーミングセンスはないなぁ」



でも、相手がそれで喜んでくれるならさ?

別にいいんだけどね?

要は気持ちってのが大事だからさ。

だから何?ってのはさ?マジで無し!無しだからね!?

それについては、まぁ…オレには深い事情があったんだ。



「今回はなかなか好評のようだな。野間君」

サーモンとチーズを使った、『サーモン&チーズのクリームミルフィーユ』というネーミングセンスの欠片は全然ないものの、そう名付けられた料理が度々と出ていることから、総料理長・奥本薫は言ったのだ。

「ええ。今回はたまたま読みが当たっただけです」

「そんなご謙遜なことを…」

とにかくと今は途切れることのない、野間優人が考えた料理をちまちまと彼らは作りながら、その日の業務を終えたのである。

「お疲れ!えっと…野間君は明日から連休だったね」

「はい。久し振りに海外に行こうと思っています」

「うむ。気を付けて行って来いよ」

「お土産宜しくっす!野間先輩」

「ああ。では、失礼します」

そんなこんなで、いつものように業務を終えたオレは、明日から旅行に備え、とっとと家へと帰ることにしたのだった。



「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

どこからか女性の悲鳴が挙げていた。

「おっらおらおららおら!どっけどけー!!!!!」

ナイフを手に持った男は、次から次へと人を刺しながら、オレへと向かって来ていた。

「なっ…!」

グサッ…と男の持っていた、ナイフはオレの腹部に深々と突き刺さると、男は颯爽と逃げ去ったのだ。

『剣と魔法のあるある世界へと転生準備が整いました。転生しますか?』

はぁ?あるある世界?

そんな世界は二次元だけにしとけって言いたいけど、あるあるならアリだな。

つーか…アンタ誰?

『それについてはお答え出来ません』

っておい。

まあ、良くあるパターンだな。

『とりあえずですが、今の世界に似た異世界へと転生ですね』

今の世界に似た異世界って…どこが剣と魔法のあるある世界だよ?

それでは、異世界じゃないだろう。

『そうですね』

って即答かよ。

とりあえず、どこでもいいや。

オレはどうなってもいい。

別に魔法とかどうでもいいんだけどさ?

何か特技みたいなモノというか、相手のために使えるモノがあればいいしさ?

あっ…出来れば、使いたい。日本語で使えるヤツ。

今以上に長く生きられる世界にでも転生させてくれ。

『分かりました。第二の人生は長く生きられる世界ですので、安心して下さい』



まさか…刺されて死ぬって。

案外、人生は呆気ないモノなんだな。

せっかく、連休で旅行に行きたかったけど、仕方ないよな。

とまぁ、オレの意識はここで完全に途切れてしまったのである。



『≪伝承≫・≪解析≫・≪生成≫の3つだけあなたに捧げましょう』

という謎の言葉は薄らと聞いたような気がする、オレであった。






「何たって…が生まれた!」

「知らないわよ…!私だって好きで…じゃないわ!」

「言い訳するんじゃねぇ!」

オレの傍で、茶髪の男性と金髪の女性が言い合っていた。

どうやら、オレはこの二人の間に生まれ変わったようだ。

つーか…さっき何て言った?

ちょいと聞き取りが出来なかったんだが?

「べ、別に言い訳なんか…」

「いいや!言い訳だな!第一、俺は先祖代々と人間だ。お前の中に魔族の血でも混じってたんじゃねーのかよ!」

「私だって先祖代々人間よ…!ヴァルド。なんで…あなたは…」

結婚前はあんなに優しかったのに。

妊娠が分かってからも優しく接してくれたのに。

どうして、この子が生まれた途端、態度を180度変換しちゃうのよ…。

私だって好きで魔族の子を産んだんじゃないのに。

「ふん!とにかく…コイツの名は今日からノヴァだ」

乱暴にヴァルドという名の男性はオレの首元を掴むと、家の外にある小舟にオレを乗せ、とっとと海へと流してしまったのである。

「ちょ、ちょっと…まだ、産まれたばかりなのよ?首だって座ってないわ」

「ふん!知ったことか!それに魔族ならば生き長らえるだろ!」

とっとと今度は人間の子どもをちゃんと作るぞ!ノエル!

産後すぐのノエルと呼んだ女性を無理矢理と抱くようにしながら、ヴァルドは事を進めたのだった。



小舟で漂流って…産まれてすぐのオレ。

無いわー…。いや、マジで。

生き長らえる世界って言っていたよね?

幾らさ?魔族として産まれたけどさ?さすがに死ぬだろ。オレ。



そんなこんなで、オレは、流されるままに気が付けば、3年近い年月が流れていた。

「ここから歩けってことだよな…」

小舟の中に幸い残っていた、白のシーツをローブ代わりに羽織ると共に陸へと上がったのだった。


「…つくづく魔族として産まれて良かった。人間だったら、絶対に死んでいただろうし…」



魔族というのは、生命力が高いようだ。

3年近い年月、飲まず食わずのまま、生き長らえたのだ。



「ん?そこの幼子よ。魔族かのぉ?」

籠を持った老人は、ふとオレに気付いて言ったのである。

「は、はい。え、えっと…」

「わしか?わしはユーノという者じゃよ。お主は何と言うんじゃ?」

「お、オレ…じゃなかった。僕は野…ノヴァです。ここは?」

「ふむ。ここはエアスト小国内にあるエストの村前じゃ」

「エストの村…」

「そうじゃ。行く先がないのであれば、わしの所に来るかのぉ?」

「い、いいんですか?返って迷惑をお掛けするんじゃ…」

「子どもが遠慮してはならぬ。それにそなたはわしの孫と同年齢の割にはしっかりしておるのぉ」

「そ、そうですか…」

「まあ…色々とあったのじゃろう。とにかく何もない村じゃが…来ると良かろう」

ユーノはそう言いながら、オレを村へと招き入れたのだった。



何だかんだとオレ、魔族として転生してしまったのである。

別に長らえる人生を望んだとはいえ、魔族って何?だけどね。

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