描写トレーニング
こばなし
1回目 雨・猫・君
【雨】
空から無数の水滴が落ちて来る。
目を凝らして、やっと見えるくらいの、ささやかな。
肌に落ちても、濡れたかどうか、あやしくなるくらいに、やわらかな。
傘をささなくても散歩ができる程の。
恵みにもならない程の。
散歩に出るのにも、差し支えない程の。
僕は天に向かって、心の中だけで語りかける。
強すぎて嫌われてしまうから、たまにはこうして、やさしく落ちてくるんだね。
【猫】
おなかがすいたらすり寄ってくるくせに、いっぱいになったらすぐにそっぽ向く。
帰っておいでと呼んでも来ないくせに、気付いたら足元にいて、しっぽを踏んづけてしまいそうになる。
そのお腹に、顔をうずめて、すーはーしたい。
ごろごろと喉を鳴らす音が、僕の鼓膜をやさしく揺らしている。
どこかへ行ってしまったのかと思うくらい、長い間、留守にして。
戻ってきたかと思ったら、数年来の再会のように、僕の胸に飛び込んでくる。
かわいいと、かわいくないを、行ったり来たり。
どうしようもなく、僕は君のとりこ。
【君】
用もないのに、電話をかけて来る。
べつに「それが嫌だ」なんて言ってない。
お気に入りの俳優の画像を「かっこいいよね」と笑顔で見せつけて来る。
べつに興味はないし、何ならそいつのこと嫌いになりそうだけど、「そうだね、かっこいいね」って返しておく。
「今夜、なにがいい?」って聞いてくる。
「なんでもいい」って返すと、むすっとした顔で包丁を向けて来る。
「君の好きなもの」って返すと、チベットスナギツネみたいな微妙な表情になり、
「豆乳鍋」って言ったら、満面の笑みで、シャツの袖をまくる。
「私のこと好き?」って聞いてくる。
「嫌い」って答えると、「えっ!?」て、目を見開く。
「でも、愛してはいる」って言うと、ぼこぼこ殴ってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます