ゾンビの意思が戻ったら
渡貫とゐち
#1 ゾンビの意思が戻ったら
「撃て撃て撃てッッ!!」
「センパイッ、ダメです弾切れですッ!!」
大学構内に溢れんばかりのゾンビが集まっていた。
狭い通路に敷き詰められたゾンビたちは、緩慢な動きで周りのゾンビたちに体をぶつけながら前へ進んでいる。通路が狭いので、大雑把に見ればきちんと列になって進んでいた。
逃げ遅れた大学生のふたりが、救助にやってきた特殊部隊から拳銃を拝借(奪って?)して対抗しているが……、本体があっても弾は限られている。ゲームのように都合良く引き出しを開ければ弾薬が手に入るわけもなく……焦って使ってしまえば弾切れになるのは当然だった。
引き金を引いても弾は出ない。
仕組みを知らないから、必要な手順を踏んでいない、というわけでもなく。
「逃げ道は!?」
「屋上しかないっすよ!!」
「バカ野郎ッ、屋上は行き止まりだろ!?」
「でも、地上はもうゾンビでいっぱいで……」
大学の敷地内はもうゾンビに占拠されていると思った方がいい……。
ちょうど学園祭だったのがまずかった。ひとりでも感染してしまえば、一気に鼠算式でゾンビが増えていく。学園祭の仮装も運悪く、ゾンビが多くて……――。
感染者と仮装のゾンビの違いが分からなかった。そういうイベントなのかもと思う者も多く……気づけばあっという間に、大学内はゾンビに染まっていた。
偶然にも徹夜で出し物の準備をしていた一部の生徒は日中眠っていて、今回の騒動に乗り遅れたが……同時に逃げ遅れてもいるのだ。
――門は封鎖されている。ゾンビが外に出ないように。
つまり、生き残っている生徒は、外に出られなくなった。
地上よりは屋上へ逃げた方がまだ、空からの救助にしがみつくことができる。
「……屋上だ」
「で、でも、後ろのゾンビが追いかけてきますよ!」
「賭けだ――祈るしかねえだろ!!」
後ろが気になるも、ふたりは屋上へ向かう階段へ向かって――「あぎゃぁああ!?!?」と、既に屋上まで入り込んでいたゾンビと衝突し、案の定、食べられていた。
数秒後には彼らも同じくゾンビになるだろう……灰色の肌、流れた血は固まり、ゾンビによっては目玉が溶けたように落ちて、皮膚が剥がれ骨が剥き出しだったり――
女性のゾンビはあられもない姿だが、当然ながら恥を感じることはなく…………、
いや。
ひとりだけ、いた。
頭蓋骨が割れて脳が見えている大学生の少女だった。彼女は破れた服から見えている胸を自覚して、さっと両手で隠した。周りはゾンビだらけで、いやらしい目で見てくる相手がいないとは言え、自宅でなければ露出しているだけで恥ずかしいものだ。
彼女もゾンビなのだけど。
羞恥のあまり、自我を取り戻した?
「……なにこれ……」
周りはゾンビだらけ。
彼女自身もゾンビになっている。なので既に終わった物語なのだけど……でも。
――どん、と後ろから押されて、少女は再び歩き始めた。
理由があって前へ進んでいるわけではないだろうけど、後ろのゾンビに急かされ、少女は前へ進んだ。狭い通路だから……戻ることもできない。脇道に入るタイミングを見計らうしかないけど……それまでには納得しておきたいことがある。……もちろん、現状を。
大学がゾンビに占拠されたこと……ではなく。
……このタイミングでどうして自我が戻ったのか、だ。
「えぇ……。
こんな終末に意思が戻っても……どうしようもないし……勘弁してよ……」
世界を騙した大学の仮装イベントだったらいいのに……と。
今の彼女は現実逃避しかできなかった。
…了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます