デュアル・キャスト

瑞野 緑(みずの みどり)

第1話 ふたつの終わり

 ピッ――ピッ――ピッ――


 規則的な電子音が、秒針のように命を刻んでいる。


 耳障りな心拍センサーと、鼻につく芳香剤、そして瞼の裏に映る暗闇――それが俺の世界に残された全てだった。


 ベッドに寝かされた身体は心と切り離されたように固まり、指先ひとつ動かすことも、言葉ひとつ零すことさえも叶わず、心だけが錆び付くように蝕まれていく。


「……息子さんの感染状況ですが、先ほどフェイズⅢへの進行が確認されました。残念ながら……現段階でこれ以上の治療は不可能です」


 主治医の残酷な通告に続いて、両親の咽び泣く声が届いた。


 ……ああ、やっぱりか。


 自分でも驚くほど自然に死を受け入れる。冷静でいられたのは、両親の声がそれ以上に悲痛だったから。死の宣告よりも、両親を悲しませることに心が痛んだ。


 ……俺は一体、何のために生きているのだろうか。


 何も生み出せず、誰も幸せにできず、それどころか悲しませるだけの存在。

 こんなことならば、いっそ今すぐに死んでしまいたい。

 しかし己の命を絶つことすら、自分の意思では叶わない。きっと俺はこのまま死ぬまで病に囚われ、暗闇を彷徨い続けるのだろう。


「……れた方法……方舟計画……へ転院を……」


 やけに遠くから主治医の声が聞こえる。


 ああ――また波が来た。


 泥のような波濤が脳裏へ寄せては返し、徐々に意識を飲み込んでいく。


 きっと――これが最後だ。


 無意識に己の半生を振り返るが、浮かんでくるのは後悔ばかりだ。

 もっと色々な場所へ行きたかった、もっと沢山の人たちと話したかった、もっと……親孝行したかった。


 叶うことなら、来世では悔いのない生き方をしたい。当たり前の日々を噛み締めて、小さな幸せを抱きしめて、そして大切な誰かと共に――生きていたい。


 徐々に意識が遠退き、水底へ引きずり込まれるように闇へと堕ちていく。ふと、右手を仄かな熱が包み込むと、朧げな世界に微かな声が届いた。


「……ナツ。こんな形になって……ごめんなさい。どうか…………生きて……」


――。


――夢を見た。


 名前も顔も知らない、少女の夢。


 少女が映す世界――そこでは、大勢の人々が恐怖に顔を歪めていた。

彼らは口々に叫喚し、互いを押し退け合いながら逃げ惑う。


「はっ……はっ……はっ……」


 少女は人の波に飲まれながら、懸命に走り続けた。

 肺を焼く熱い呼吸から脳裏を駆ける焦燥感まで、少女の思考や感覚がまるで自分のことのように流れ込んでくる。


 ――どうして……。


 荒ぐ呼吸を繰り返しつつ、霞がかった脳内で何度も自問する。

 今朝までいつものように皆で食卓を囲んでいたのに。

 いつもと変わらない日常だったはずなのに――


 次の瞬間、背後から小さな悲鳴が上がり、握っていた掌が手中から零れ落ちる。


「シンシア!」


 足を止めて振り返り、石畳に倒れた少女へ駆け寄る。

 彼女は膝を擦り剥いて、目尻に涙を溜めながら嗚咽を漏らしていた。

 幸い傷は深くなさそうだが、それより精神面が限界だ。


 この様子では、これ以上走るのは難しいだろう。

 しかし助けを求めようにも、逃げ去る群集は既に遠くなっている。


 辺りを見回すと、道端に置かれた古い納屋が目に入った。少女を抱えて建物へ入ると、積み上げられた農具の影へ隠すように彼女の身体を降ろす。


「リッカちゃん……パパとママは……?」


 少女は縋るようにこちらを見上げると、唇を震わせながらそう呟いた。


「……大丈夫です」


 彼女の頬を伝う涙を拭い、取り出したハンカチを包帯代わりに膝へ巻いていく。

 いつもは子鹿のように快活な少女が、今はこんなにも小さく震えていた。

 少女を優しく抱き寄せると、落ち着かせるように耳元で言葉を作る。


「私が皆を探してきますから、シンシアはここに隠れていてください」


 ややあってから小さく頷いた彼女の頭を撫でると、納屋を後にして、道を引き返すように走り出す。


 先ほどから一変して、周囲は水を打ったような静寂に包まれていた。住民のほとんどは既に避難を済ませたのか、遠くから微かに叫声が聞こえてくる程度だ。


 見慣れた街の光景はどこにもなく、痛いほどの静寂が焦燥感を掻き立てる。

 深く息を吸って歯噛みすると、絶望感を振り払うように加速する。


 少女にはああ言ったが、目的は人探しではない。

 今の自分にできることは、たったひとつだ。

 他の誰にも代わることのできない――私の使命。


 或いは――宿命。


 程なくして中央広場へ辿り着くと、息を整えながら歩みを進める。

 眼前に現れたのは、一本の巨大な樹木。

 幹の直径だけで三十メートル、高さは四百メートルを越える巨木が、淡い紫色の葉を揺らしながら、街を見守るように聳え立っている。


 街の守護を司る御神木であり、人類の生存圏を示す最後の砦。


 玉垣を越えて根元へ近付き、龍鱗のように荒々しい幹へ手を伸ばす。

 いつも身近にあったのに、こうして近付くのは初めてだ。

 見慣れたはずの姿から、今は畏怖にも似た感情を覚える。


 しかし感傷に浸っている暇はない――意を決して樹幹へ両手を伸ばす。

 指先が微かに震えているのは疲労か、或いはこの先に待ち受ける運命への恐怖か。


 掌が樹幹に触れた瞬間、硬質な感触に反して、まるで水面に触れたような吸い付く感覚と、人肌にも似た仄かな熱を覚えた。


 直後――樹肌が生き物のように脈打つと、頭上を覆う葉が一斉に輝きを強めた。幹も淡い光を帯び、全体が光に包まれる。


 幻想的な雰囲気に圧倒されていると、唐突に腕が沈むような錯覚を覚える。

 咄嗟に手を離そうとするが、掌が癒着したように離れない。

 まるで見えない腕に掴まれて、幹の中へ引きずり込まれるように、腕から全身にかけて何かが吸い上げられていく。


 全身をひどい倦怠感が襲い、眩暈に膝から崩れ落ちる。


 それでも引力は衰えず、次第に世界との境界線が曖昧になり、自分が呼吸をしているのかさえ覚束なくなる。


 樹幹へ寄りかかるように倒れ込むと、身体が芯から冷たくなっていくのが分かる。

睡魔のように這い寄る死の気配に成す術もなく身を委ねていると、背後に微かな気配を覚えた。


 いつの間にか閉じていた瞼を薄く持ち上げると、霞がかった視界に人影が映る。

 半ば無意識に口を開くが、そこから意味のある言葉が生まれることはなかった。


 必死に繋ぎ止めていた意識の糸が切れ、暗澹とした闇の中へ落ちていく。




 それからどれくらい経っただろうか。

 暗く閉ざされた世界の中に、微かな光が生まれた。


 這い出すように手を伸ばした次の瞬間、世界に色彩の洪水が溢れ出す。


 天蓋のように重なり合う枝葉。

 梢の隙間から木漏れ日が降り注ぎ、透き通るような蒼穹が顔を覗かせている。


 これは瞼越しの光ではない。

 双眸を通して脳裏を焼くこの色彩は、紛うことなき世界の景色。

 俺は今――確かに目を開けていた。


「あ……あ……!? なッ……!!」


 乾いた唇の隙間から零れた音は、もはや懐かしさすら覚える自分の声だった。

 身体を勢いよく起こし、全身の感触を確かめるように手を這わせる。


「動け……る……!? 生きてる……!?」


 両の拳を掲げて天に吼えると、溜まりに溜まったフラストレーションを吐き出すように走り出す。


 足裏から伝う土の感触も、頬を薙ぐ風も、全てが懐かしく愛おしい。たっぷり10分ほど走り回ったことで全身に血液が行き渡り、僅かに冷静さを取り戻した。

 呼吸を整えながら改めて周囲を見回すと、そこは鬱蒼とした森の中だった。


「つーか……ここ、どこだ?」


 滲む汗を拭いながら、遅すぎる疑問を口にする。


 記憶が正しければ、自分は病院のベッドで眠っていたはず――冷静に考えてみれば異常事態だ。入院していた筈が、気付けば見知らぬ森の中に転がされていたなんて。


 中でも不可解なのは――この身体。

 不治の病と聞いていたが、今のところは何の不調も感じられない。


「夢……じゃ……ないよな……」


 頬を抓るという古典的な手法で意識を確かめる。

 白昼夢や天国でないことを祈りつつ当て所なく歩みを進めていると、程なくして現れた人工物に足を止める。


 それは大木に巻かれた注連縄だった。雨風に晒されてくすんだ稲藁が荘厳な気配を漂わせており、吸い寄せられるように樹幹へ手を伸ばした次の瞬間――


『ん……』


 身じろぐような女性の声が生まれた。

 その声があまりに近くから聞こえて、肩が小さく跳ねる。咄嗟に辺りを見回すが、しかしそこには鬱蒼とした木々が広がるばかりだ。


『ここは……?』


 すると今度は、寝起きのような気の抜けた声が、今度こそハッキリと聞こえた。


「だ……誰かいるんですか?」


 辺りを見回すが、やはりそれらしい人影はない。


『身体が……動かない……?』


 女性は体調が芳しくないのか、呻くように独り言ちる。

 まだ幼さの残るその声に、何故か微かな既視感を覚えた。


「あの……大丈夫ですか?」


 そう呟きながら、いよいよ幻聴を疑い始めた次の瞬間――


『……どなた……ですか?』


 警戒心を孕んだ声が飛んできた。

 相手もこちらの存在を認識しているようで一安心する。


 しかし相変わらず姿は見えないのに、声はやけに近くから聞こえてくる。

 まるで――自分から発せられているように。


「俺は……ナツって言います。えっと……あなたは?」


 しかし少女は意識が朦朧としているらしく、譫言うわごとのように反芻するだけだった。そう言えば、自分も目覚めたときは眩暈を覚えていたが、喜びのあまりどこかへ吹っ飛んでいた。

 冷静になると今も少し気分が……そう思った直後、微かな悪寒が背筋を走る。


 その刹那――視界の端に淡い光が灯る。


 見ればその光は、注連縄から生まれていた。

 蛍のような妖しい寂光が、脈打つように輝いている。


「何だ……これ……?」


 次々と起こる怪奇現象に困惑している間にも、注連縄から溢れる光は次第に量を増し、それに比例して全身を走る悪寒も強くなっていく。

 寒さを感じている訳でもないのに、骨の髄から震えるような感覚が体を這い回る。


『探知……術式……? そうだ……街が襲われて……儀式を――ッ!?』


 少女はそこで小さく息を呑むと――


『逃げて!!』


 と、切迫した声を上げた。

 それと同時に、背後から軋むような音が生まれる。

 振り返ると、先ほどの樹幹に蛇のようなものが巻き付いていた。


 それは――七本の指だった。


 直径五十センチメートルはあろうかという幹を、巨大な手が鷲掴みにしている。

 程なくして、手の持ち主が幹の後ろから、おもむろにその姿を現した。


 それを一言で形容するならば――異形。


 体長は四メートルを超えるだろうか。

 一見すると巨人のように見えるが、四肢や頭部、目や口に至るまで、身体を構成するパーツの数が全て夥しい。複数の身体を無理やり継ぎ合わせたようなその異形は、一際大きな腕に槍のようなものを握り締めていた。


虚殻クリファ……』


 聞き覚えのない言葉が耳の奥で響いた。


 それを察したように異形が首をもたげると、無数の瞳でこちらを捕捉した。否応なく畏怖を刻み込むその姿に本能が警鐘をかき鳴らし、喉が萎縮して悲鳴が漏れる。


 しかし恐怖のあまり、身体と意識が切り離されたように指先ひとつ動かせない。


「オオオオオオオオォォォォ――――!!」


 異形が全身を震わせて咆哮し、捻れた枝のような槍を振りかざすと、不気味に湿った穂先がこちらの姿を捉えた。迫り来る死から逃避するように両目を強く瞑る。


『動いて……!!』


 少女の声が脳内で反響した直後――奇妙な浮遊感が全身を包み込む。


 奥歯を噛み締めるが、いくら待っても致死の衝撃はやって来ない。恐る恐る目を開けると、数メートル先に、地面へ突き立てられた槍と異形の姿があった。


 しかし異形が後退したのではない。

 移動したのは――自分の方だった。


 だが、身体を動かした覚えもない。

 咄嗟に身体の感覚を確かめようと腕を伸ばすが、空虚な浮遊感が全身を包み込んでおり、意思の力が肉体へ届く前に空振りする。


「……ようやく……出られました」


 再び少女の声が生まれた。

 しかし今度は内側から響くのではなく、外から聞こえてくる。


 少女の声は――己の口から生まれたものだった。


 それだけではない。

 両眼にかかる白銀の前髪に、白魚のようにしなやかな指――視界に映り込む身体のパーツ全てに見覚えがない。

 その上、視界にも形容し難い違和感がある。脳に映像は届いているが、まるで一人称視点の映画でも見ているように実感が伴わないのだ。


『何だ……?』


 口をついた言葉は虚しく響き、ここが外界でないことを本能的に悟る。


 狼狽するこちらをよそに、異形が再び動き出した。

 異形は芋虫のような下半身を蠕動させながら、槍を勢いよく振りかざす。無意識に後退さろうとするが、視界は敵を真っ直ぐに捉えたまま動かない。


 信じがたいが、俺は今――誰かの視界を覗き見ているらしい。

 視界の主は掌を異形へ向けて掲げると、おもむろに言葉を紡ぐ。


根源開花イェソド・キャスト――」


 少女の声に呼応して、掲げた腕の周囲に煌く粒子が現われた。

 白銀の粒子は渦を巻きながら勢いを増し、グラスパープのような共鳴が響き渡る。


「――氷華」


 その言葉と共に腕を振り上げると同時――地面から無数の白刃が突出した。


 木漏れ日を乱反射する氷の刃が数多の裂傷を刻み込むと、異形が地の底から響くような苦悶の咆哮を上げる。


 明らかに物理法則を無視した現象に、脳の処理が追い付かない。


 しかし異形はお構いなしに氷刃を砕きながら、再びこちらへ猛進する。

 少女が後方へ跳躍すると、直前まで立っていた場所を槍が薙ぎ払い、泥や苔を撒き散らしながら地面を抉った。


 我武者羅に振り回される槍を紙一重でかわしつつ、少女は再び攻撃態勢を取る。

 しかし対する異形が一足早く槍を逆手に持ち変えると、穂先を地面へ突き立てた。


 直後――少女の足元が微かに揺れたかと思うと、地面を突き破るように無数の黒い触手が飛び出した。蔦のような触手が少女の脚を絡め取り、態勢が大きく崩される。


 歯噛みをしながらも何とか反撃を試みた次の瞬間――視界が歪む。

 呻きと共に頭を押さえる少女を見て、好機とばかりに異形が凶器を振りかざした。


『逃げろ!!』


 咄嗟に声を上げるが、少女は蔦に脚を取られて動けずにいる。異形が舌なめずりするように歪んだ笑みを浮かべると、無情の凶刃が振り下ろされた。


 その刹那――流星のような一閃が視界を両断する。


 背後から飛来したそれは――光の矢だった。


 眩いほどの光を放つ矢に射抜かれて、千切れた腕が槍を握り締めたまま地面を転がった。咆哮を上げながら後ずさる異形の背後に、無数の光が浮かび上がる。


 玉響たまゆらのような光の球体が異形を取り囲むと――


終天開花ネツァク・キャスト――木霊エーコー


 直後――フラッシュを焚くように玉響から光の矢が放たれた。


 矢は三々五々に異形を襲うと、その身体に焼き焦げた風穴を穿っていく。

 その光景に茫然としていると、微かな着地音と共に人影が舞い降りた。


 黄金色の長髪を靡かせたその人物は、こちらへ背を向けたままからの弓を構えた。

 流れるような所作で弦を引き絞ると、馬手から弓手にかけて光が走り、幽玄の矢が番えられる。弦の緊張が最高潮に達した次の瞬間――しかし、その射線を遮るように無数の蔦が地面から飛び出した。


 直後――放たれた矢が蔦の壁を穿つが、軌道がずれたせいか異形の肩口を抉るに留まった。異形は再び咆哮を上げると、身体を引きずるように森の奥へ消えていく。


 視界の端で千切れたはずの異形の腕と、それによって突き立てられた槍が地面へ溶けていくのが見えた。

 人影が弓を降ろしながら息を吐くと、張り詰めた緊張が徐々に解けていく。


「無事ですか?」


 弓を肩にかけた人影がこちらを振り返り、手を差し伸べながらそう言った。

 齢は二十くらいだろうか。

 木漏れ日を受けて煌く長髪に、スラリと伸びた健康的な四肢。黒で統一された制服に身を包み、翡翠のような瞳を細めて微笑む美しい女性だった。


「……ありがとうございます」


 少女が手を取って立ち上がった次の瞬間――女性が小さく息を呑んだかと思うと、その美しい双眸が見る見るうちに見開かれていく。


「リッカ……ちゃん……?」


 呆然と零された言葉に、少女は困惑を滲ませながら頷きを返す。

 直後、女性が眉尻を下げて顔を綻ばせると、飛び付くように少女を抱き締めた。身長差からこちらの頭部は女性の胸元に包み込まれ、視界が完全に閉ざされる。


「リッカちゃん!! 本当に……!? どうして――」


 女性は強く抱き締めながら何度も言葉を零すが、しかしリッカと呼ばれた少女はそれどころではない。口元が塞がれて呼吸すらままならず、身動ぎしながら抗議の呻きを漏らすが、女性はひどく興奮しているらしく、リッカの様子には気付いていない。


 蚊帳の外のまま呆然としていると、再び奇妙な感覚に包み込まれる。例えるなら微睡みから目覚める直前、漂う意識が肉体へ嵌めこまれるような感覚だろうか。


 次の瞬間――身体を覆う不可視の膜が弾けるように全身の感覚が蘇った。


「ぶっ……く、苦し……!!」


 背中を締め上げる腕力、顔面を圧迫する柔らかい感触、鼻腔をくすぐる蠱惑的な香り――全身を襲う感覚の洪水に溺れながら必死に助けを求める。


 その声に女性は慌てて拘束を解いた。

 俺は両手を膝に手を突いて必死に肺へ酸素を送る。


「あっ――ごめん! 嬉しくてつい……ってあれ? リッカちゃん……髪が……」


 顔を上げると、呼吸が重なるほどの距離で視線が交差した。

 女性の顔が引き攣るように硬直すると、見る見るうちに青ざめていく。

 本能が、先ほどとは別の意味で警鐘を鳴らした。


「あの……これには訳があって――」


 申し開きをようとした次の瞬間、悲鳴と共に居合いのような平手打ちが頬を捉えた。情けない声を上げながら身体ごと半回転し、視界がブラックアウトしていく。

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