26杯目 大宴会
こうして俺は、多くの女性男性問わず、人たちの嫉妬を一気に受けて大宴会が始まってしまったのだが、普通、こういう時はまぁ乾杯攻勢でぶっ潰れるまで飲まされるのが普通なのだが……
「おねーちゃん、ちょっとさっきのはどういうこと?」
「別におかしいことはないだろう? 仲間に感謝の気持を示しただけだ」
「じゃあ、もういいよね、ゲンツさん借りても」
「何を言うんだい、仲間と飲みたいというのは至極普通だろ?」
「それにしたって、ちょっと距離が近すぎない?
離れないとゲンツさんが飲みにくそうだなぁ……?」
「そういうヒロルもゲンツさんが狭そうだよ、ね?
ゲンツさん」
「そんなことないよねゲンツさん」
ヤメテクダサイ、俺を挟んで姉妹喧嘩しないでください。
「ほらほら、ヒロル、ゲンツさんも飲んで食べてしたいんだから、はいゲンツさんおかわりのお酒」
キャティさん、もっとちゃんと引き剥がしてくれていいんですよ?
「はいゲンツさん、あっちのお店の料理も旨いですよ」
メルさんも面白がってないで、ね?
「ヒロルもケイトも大人げないぞ、それに、そこは君たちだけの場所じゃないんだが?」
「そうよぉーリーダーといえど、ここは私も権利あるわぁ」
「ゲンツさん、皆と飲みたいっすよね?」
「ゲンツ、鼻の下伸びてる」
「皆さん、仲良く飲みましょう、ね?」
俺の周りが美女溜まりになっているのは、喜ぶべきことなのだが、なぜだろう、空気は冷え切っているし、刺さる視線が痛すぎる……
助けてくれ……酒の味も、飯の味もわからない……
「悪いな嬢ちゃん逹、ちょっとその男に話があるんだ」
おお、救世主……
「ドグ……さん」
ドグの放っているオーラを感じ取ったメンバーは俺からササーッと距離を取ってテーブルには向かい合って座る俺とドグという状況になる。
おかしいぞ、さっきまで、あんなにぎゅうぎゅうだったのに、今は隙間風が身にしみる。
「なぁ、ゲンツ。
命がけの戦いだったのは判る。
そうだな、話は聞いた。
だが、それは、どういうことだ……?」
言葉が、氷の刃のようだ。
ソレ、とは、俺の身につけている猪突猛進。
あの激闘後少しづつ回復しているが……まぁ、控えめに言って、ボロッボロだ。
激戦の名誉ある傷と言えば聞こえはいいが……
「てめぇ、なんでそんな無茶な使い方をしやがった。
いや、まぁ、それは武具の本性、それはいい……」
沈黙が、胃を締め上げる。
「どうして
ダーンッとジョッキを叩きつけ、場の空気が静寂に包みこまれる。
「……返す言葉もございません」
「いいか、武器や防具は直してやれる。だがな、お前が死んだら、それでおしまいなんだぞ、状況は聞いている、ある程度はお前の行動も理解できなくもない、が、もっといくらでも手段があっただろ、なぜ最初の選択肢が自己犠牲から始まってる。
嬢ちゃんたちを舐めているのか?」
「!?」
その言葉は、予想外に俺の心に突き刺さった。
「それは……っ」
二の次を告げることが出来ない。
「ドグ、そういじめてやるな」
「なんじゃウイニード、そもそもお前らが冒険者のばか者共に命の大事さをきちっと教え込まんからこういう輩が現れるんじゃぞ?」
「おお手厳しい。だが、ゲンツは慎重な男だ、本来はな、ただ、今回は若人がいた。どうもこいつは自分のためよりも他人のためだと簡単に自己犠牲をしちまうやつなんだよ」
「バカモンが、そんな事をして生かされて残された方の気持ちを考えとらん」
「その通りです。今になって、自分の判断の浅はかさに気が付かされました」
「違うっ! ゲンツ殿は悪くないっ!
悪いのは……悪いのは弱い我々だ……」
いつの間にかケイトが隣に立っていた。
「ドグ、お主の気持ちはよく分かる。
幾度も武具を作り、使い手を守ってほしかったのに、武具だけが戻ってくる。
そんな悔しさを幾度も幾度も味わったお主の気持ちはな。
だからこそ、帰ってきた今、この瞬間は、素直に祝ってやろう。
明日にでももっとこってりとしっかりとずっぽりとゲンツを叱ればいい。
まさか30階層程度でゴブリンキングとその軍勢なんて現れるとは、過去の報告からでも予測が不可能、もう、無茶をしてでもなんとかしなければいけなかったゲンツの必死さも想像してやってくれ」
「……相変わらずウイニードは甘いな……ゲンツ、俺がいいたいのはただ一つだ。
もっと自分を大事にしろ。話は終わりだ。悪かったな」
「いや、ドグ親方っ!! 俺は今の言葉心に刻みます!!
あの、猪突と猛進、本当に、俺の命を救ってくれました!!
素晴らしい相棒を、ありがとうございました!!
これから、俺、俺、冒険者として、たくさん、たくさん、冒険を、た、だ、だのじみまずからぁー!! ドグ親方がぁ、ぐず、つぐってくれた、こいつらといっしょ、にぃ……っ!!」
ドグ親方は俺を力強く抱きしめて、ポンポンと背中を優しく叩いてくれた。
俺は、果報者だ、こんな風に心配してくれる人がいる。
そうだ、俺自身をもっと俺が、大事にしなければいけない。
気がつけば、周りのメンバーも皆、目に涙を浮かべて泣き出してしまっていた。
「さぁさぁ、若人に反省はつきもの、それも含めて、今日は飲み込むぞ、酒と肴といっしょにな!!」
ギルドマスターの一言で、再び場に温かい活気が取り戻された。
俺に剥けられていた嫉妬や怨嗟もすっかりと亡くなって、それからは多くの人々と楽しく酒と肴を楽しむことが出来た。
「お互い、返しきれない恩を受けちゃったね」
「そうだな、あの人は、本当にすごい人だ」
そんな中、ヒロルとケイトは小さく乾杯をするのだった。
二人にとっての英雄を見つめながら……
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