何があっても1
「……ん……」
目が覚めると、ガブリエラは、見知らぬ部屋にいた。ロープのようなもので縛られて、部屋の隅に転がされているようだ。
「目が覚めた?」
部屋にいたラウルが笑顔でガブリエラに話しかけた。
「ラウルさん……これは一体……?」
見回すと、ここはかなり広いリビングのようだ。値の張りそうな家具が置いてある。しかし、部屋全体があまり手入れされていないようにも見える。
「ここはね、僕が昔両親と住んでいた屋敷なんだ。何も知らないで死ぬのも可哀そうだから、教えてあげる。僕の本当の名前は、ラウル・スカットーラ。昔平民を大勢襲ったヴァンパイア、アデルモ・スカットーラの息子だよ」
「え……」
いつも笑顔で新聞を届けてくれていたラウルがヴァンパイアだなんて、すぐには信じられなかった。しかも、殺人を犯したヴァンパイアの息子とは。
「……じゃあ、最近行方不明になっている人達は……」
「うん、僕が殺した」
笑顔のまま言うラウルに恐怖を感じる。
「……私の事も、殺す気ですか?」
「そうだよ。父さんは、騎士団とバルト一家によって殺されたようなものだからね。ずっと復讐する機会を窺っていたけど、バルト夫妻は復讐する前に亡くなってしまった。だから、その息子のマティアスに復讐する事にしたんだ。マティアスの大切な者の命を奪えば、マティアスに絶望を与える事が出来るでしょう?マティアスに大切な人が出来る時を、ずっと待ってたんだ」
それで、ガブリエラにマティアスとの関係を聞いたのか。
「本当は、今すぐにでも君を殺したいけど、約束があるからなあ……」
「約束?」
ガブリエラが聞き返したその時、部屋のドアが開いた。入って来たのは、見覚えのある栗色のボブカット。その人物を見て、ガブリエラは呟いた。
「アンジェリカ……」
マティアスとリディオは、新聞社でラウルの住所を聞いて自宅へと向かった。いかにも家賃の安そうなアパートに到着すると、二人はラウルの部屋に乗り込む。しかし、そこには誰もいなかった。
ガブリエラの命が危ない。一刻も早くラウルの居場所を突き止めなくては。そう思いながらマティアスが部屋を調べていると、棚に飾られている一枚の家族写真が目に入った。親子三人が映っている写真。子供はラウルだろう。そして、父親の顔を見てマティアスは全てを察した。
「どうしてアンジェリカがここに……」
ガブリエラは、目を見開いて言った。
「僕とアンジェリカは、元々契約をしていたんだよ。アンジェリカがもし投獄される事になったら、僕が脱獄を手伝う。その代わり、アンジェリカは僕に血を提供するっていう契約をね」
そして、その他にも二人は約束していた。アンジェリカは、一回だけサントアズッロをラウルの代わりに購入する事。ラウルはサントアズッロを使って牙を隠す薬を作る方法を知っていたので、一度買って来てもらえば後はどうにでもなる。
そして、アンジェリカは、ガブリエラを殺す際は自分にも見届けさせて欲しいとラウルに頼んでいた。
「ラウルが殺そうとしているのがアンタだってわかってびっくりしたけど、丁度いいわ。私の邪魔をしたんだもの。しっかり死ぬ所を見届けてあげる」
アンジェリカが、嫌な笑みを浮かべてガブリエラに言った。
「じゃあ、もういいかな。……君の血を吸い尽くしてその遺体をマティアスに送り付けたら、あの男、どんな顔をするんだろうな」
ラウルはそう言って、ガブリエラに近付こうとした。
「私に近付かないで」
ガブリエラがそう言うと、ラウルの歩みが止まった。
「どうしたの、ラウル」
アンジェリカが、不思議そうな顔で聞く。
「……身体が動かないんだ」
「え?……まさか、麻薬?」
当たりだ。ガブリエラは自衛の為、麻薬を懐に入れていた。厳密に言えば違法だが、自分の命を守る為だし、仕方ない。
「解毒剤を飲んで」
アンジェリカが、ラウルに錠剤を渡した。ラウルは、手を震わせながらも麻薬に抗って錠剤を飲む。しばらくすると、解毒剤が効いてきたようだ。
「……姑息な手段だね」
ラウルはそう言うと、ガブリエラに近付き、その首筋に口を近付けた。
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