L×R

.046『並行世界のフェイルノート』：Sestina

栄養（えいよう）失調（しっちょう）気味（ぎみ）の　脳（のう）が報（ほう）じた現象（げんしょう）

炳乎（へいこ）たる赫（かがや）き放（はな）ちそいつは顕（あらわ）れた

嬰商（えいしょう）　詠唱（えいしょう）響（とよ）み　衝（つ）き出（だ）された左手（ゆんで）

平穏（へいおん）で平凡（へいぼん）で　低頭（へいこら）する日々（ひび）は忽（たちま）ち

永劫（えいごう）の羇旅（きりょ）を強（し）いる　嚆矢（こうし）に便乗（びんじょう）して

冷笑（れいしょう）する奴（やつ）が言（い）う　並行（へいこう）世界（せかい）へ行（い）こう

栄光（えいこう）か偉功（いこう）か　普通（ふつう）の家庭（かてい）で憩（いこ）う

並行（へいこう）世界（せかい）の君（きみ）は楽（たの）しそうでしょう

英雄（えいゆう）に　自由（じゆう）に　憧（あこが）れてたのにどうして

弊竇（へいとう）抱（だ）く落伍者（らくごしゃ）　敗者（はいしゃ）として囚（とら）われた？

鋭鋒（えいほう）を　突（つ）き刺（さ）す　弓形（ゆみなり）の輔車（つらがまち）

閉口（へいこう）する負（ま）け犬（いぬ）へ奴（やつ）は眇（すが）め蔑（さげす）んで

冷笑（れいしょう）失笑（しっしょう）　君（きみ）の脳（のう）じゃどうしたって歪（ひず）んで

低頭（へいこら）無駄腹（むだばら）に喚（がな）り　懲（こ）りず贖（あがな）い乞（こ）う

軽傷（けいしょう）　軽症（けいしょう）と放（こ）き　積（つ）み重（かさ）ねた過（あやま）ち

平穏（へいおん）で平凡（へいぼん）で低頭（へいこら）する日々（ひび）は必然（ひつぜん）でしょう

計謀（けいぼう）も思慮（しりょ）も癈（し）いる　瞳子（どうし）に笑（え）み割（わ）れた

並行（へいこう）する奴（やつ）が射（い）る　睛眸（せいぼう）笑（え）まいに動（どう）じて

晴朗（せいろう）な昨日（きのう）は　報（むく）う征矢（そや）で遺忘（いぼう）して

並行（へいこう）世界（せかい）の鬼魅（きみ）は愉（たの）しそうに弾（はず）んで

勁弓（けいきゅう）に弥久（びきゅう）に　遊（あそ）ばれては捉（とら）われた

減（め）り込（こ）むは愉楽（ゆらく）の矢（や）　災禍（さいか）の射手（いて）　雷光（らいこう）

罵詈（めり）傲語（ごうご）　突（つ）き刺（さ）す　弓形（ゆみなり）の哄笑（こうしょう）

閉口（へいこう）する負（ま）け犬（いぬ）へ　弾（はず）ませた輔車（つらがまち）

成長（せいちょう）の機（き）を拒（つき）み　唯（ただ）　奇跡（きせき）を立（た）ち待（ま）ち

正道（せいどう）も希望（きぼう）も　棄（す）てたのはどうして？

精一杯（せいいっぱい）　戦（たたか）わず　勝（か）てる筈（はず）無（な）いでしょう

静止（せいし）した負（ま）け犬（いぬ）へ　奴（やつ）が差（さ）し出（だ）した左手（ゆんで）

清爽（せいそう）な笑（え）まいで　歪（ゆが）んだ弓形（ゆみなり）の　開口（かいこう）

成功（せいこう）した君（きみ）を見（み）て　少（すこ）しは救（すく）われた？

正当化（せいとうか）しようが　苦衷（くちゅう）も荒（あ）れ罅（ひび）割（わ）れた

並行（へいこう）世界（せかい）の染（し）みは　彼（か）の譏笑（きしょう）に忽（たちま）ち

涕泣（ていきゅう）し　悲泣（ひきゅう）し　憧（あこが）れへまた邂逅（かいこう）

弊竇（へいとう）抱（だ）く落伍者（らくごしゃ）　敗者（はいしゃ）を見（み）て嗤笑（ししょう）して

刑（けい）を　徒（ず）を突（つ）き刺（さ）す　弓形（ゆみなり）の口（くち）　左手（ゆんで）

閉口（へいこう）する負（ま）け犬（いぬ）へ　奴（やつ）が浮（う）かべた嘲笑（ちょうしょう）

並行（へいこう）世界（せかい）で背負（しょ）う　十字架（じゅうじか）に魘（おそ）われた

永劫（えいごう）の罪人（つみびと）は倦（う）んで　執（と）りす矢（や）を儘（まま）待（ま）ち

冷笑（れいしょう）して奴（やつ）は言（い）う　さあ並行（へいこう）世界（せかい）へ行（い）こう