第十四話 布石

「赤坂さんの奴隷は全て阿黒さんのものとなります。」


「ふざけるな!!」


赤坂晨人は椅子を立ち、机を思いっきり叩く。


「お前、嘘ついてるだろ。」


阿黒賢一を指さして怒鳴る。


「嘘なんて、そんなつまらないものついていないよ。」


「じゃあ、セットしたカードはなんなんだ。」


赤坂晨人は阿黒賢一のセットしたカードを勢いよく表に返した。


見ているもの達、いやそれだけではない。ゲームマスターである岩田叡山や赤坂晨人までもが阿黒賢一のセットしたカードに驚愕した。なぜななら、阿黒賢一がセットしたカードが7であったからである。


「なっ!?、そんな馬鹿な。」


ここでようやく赤坂晨人は阿黒賢一の策略に気付く。


「そういうことだったのか。」


力なく椅子に座り込む。


「あの7の宣言はやはりブラフだったのか。」


「あぁ、そうさ。」


赤坂は今までのゲームを脳内で振り返る。


(成程な、あの7の宣言は僕がやったような相手のセットしたカードの絞り込みではなく、僕に7の宣言をさせないための宣言だったというわけか。僕はまんまとその罠にひっかかり、相手の手札に7はないと思い込まされていた訳か。)


ゲームを振り返っていくと一つの疑問が赤坂晨人の中で生まれれた。


「一つ君に質問をしてもいいか?」


「良いよ。答えられる範囲ならね。」


「君の二回目の宣言は運に頼ったのかい?」


そう、二回目の宣言で阿黒賢一は赤坂晨人のセットしたカードの5を宣言したが、まだ9の可能性だってあったのだ。赤坂晨人はあの場面では5か9かの見極めなんて不可能だと考えたからこの質問を阿黒賢一に投げかけたのだ。


「運なんかじゃないよ。」


返ってきのは意外な回答であった。


「それじゃあ、どうやって5を導き出したんだ?」


運じゃないならどうやってあ見分けのつかない5と9を見分けたのか、赤坂晨人には分からない答えを阿黒賢一に求める。


「赤坂さんは賢くて、疑り深くて、裏をかく人間だよね。」


唐突に赤坂晨人の性格の話をしはじめる。


「なぜそうも思う?」


「ゲームでの立ち回りを見ていれば嫌でもわかるさ。」


「……。」


赤坂晨人はその返事に言葉がでない。なぜなら図星だからだ。相手の裏をかいて5を選んだ。この行動に赤坂晨人の全てが詰まっている。


「そんな人間がさ5と9どちらをセットするかなんて簡単じゃないか、他の数字と比較して5という数字は質問で割り出されにくい。だけど、読まれやすい危険な手でもある。だからこそ5を選んだ。赤坂さんはそういう人間だよ。」


阿黒賢一の言葉で赤坂晨人は自身がなぜ負けたのか、理解した。


「成程、僕の性格を全て読んでの行動だったのか、勝てないわけだ。」


負けたはずの赤坂晨人は少しの笑みを顔に浮かべる。


「約束通り、僕の奴隷は君に全て渡そう。」


川名組でのギャンブラーの座を賭けたゲーム『数当て』は阿黒賢一の勝利で幕を閉じた。





「強いのぉ、阿黒賢一とかいうギャンブラーは。」


組長室にいる埼崎元組長と川名春吉は机を挟んで座っていた。


「はい。なんたって陣間組と戦うためにさがしたギャンブラーですから。ところで、埼崎さんも赤坂さんも生きててくれて良かったです。」


「ゲームのレベルが低かったからのぉ、」


『ヴレ・ノワール』のゲームにはレベルという概念がある。レベルとは簡単にいうとそのゲームの危険度だ。レベルは1~5まであり、レベル1は賭けたものしか失わない。レベル2は賭けたものと身体に傷をおう。レベル3は賭けたものと入院が必要な程の怪我をおう。レベル4は賭けたものと体の部位が失われる。レベル5は賭けたものとギャンブラーの命が賭かったいる。極たまに一命を取り留めるものも存在するらしいが殆どのものは命を落とす。こんな感じで分けられており、赤坂晨人が行ったゲームは低レベルだったので助かったという訳だ。


「それと、陣間智久の慈悲だろうな。」


埼崎さんを組長室に招き入れたのには理由がある。


「その陣間智久について教えてくれませんか。埼崎さん。」


そう、これが理由だ。陣間組の組長で、埼崎組を乗っ取った張本人でもあり、川名組にゲームを挑んできた男、陣間智久。調べても調べても名前や外見くらいしか出てこない謎だらけの男、そんな男の正体を知りたいのだ。


埼崎さんは少しの沈黙の後、静かに口を開いてくれた。


「わしが陣間智久と出会ったのは今から15年も前のこと、まだ暴力が裏世界を牛耳っていた時じゃった。」

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