第23話 上原渚との出会い 2

 渚さんへのファンサービスの時間が始まる。


「まずは私からだよ!」


 そう言って彩音が渚さんの前に立つ。

 そしてポケットから1つのアイテムを取り出す。


「じゃーんっ!私のサイン入りリストバンドだよ!」

「えっ!いいんですか!?」


 目を輝かせ、興奮した様子の渚さん。


 このリストバンドは彩音が所属するアイドルグループ『スノーフェアリー』の特注品で、リストバンドには小さな文字で『スノーフェアリー』という文字が書かれている。

 それに加え彩音のサインが入っているため、世界でたった一つのアイテムとなっている。


「うんっ!渚ちゃんは私たち『スノーフェアリー』のことをデビュー当初から応援してるって咲さんから聞いたんだ!だから長年ファンでいてくれた渚ちゃんへ感謝の気持ちだよ!」

「ありがとうございます!」


 可愛らしい笑顔で渚さんが受け取る。


「あと何かしてほしいことはある?」

「写真をお願いします!」

「いいよー!」


 とのことで渚さんと彩音がツーショット写真を撮る。


「ありがとうございます!大切にします!」

「いえいえ!これからも応援、よろしくお願いしますね!」


 こうして彩音からのファンサービスが終了する。


「じゃあ次は俺だな」


 そして彩音とバトンタッチをした俺が渚さんの前に移動する。


「俺はグッズを作ってないから渚さんへ渡せる物がないんだ。だからこれにしようと思って」


 そう言って俺は『何でも言うこと聞く券』と書かれた紙を手渡す。


「な、直哉様を言いなりにできる券ですか!?」

「言いなりではないが、俺にできることなら可能な限り応えてみせるよ」


 1人のファンに対して過剰なファンサービスは悪いと思うが、デビュー当初から妹のことを応援してくれた渚さんなので、出血大サービスでファンサービスを行う。

 俺の返答に冗談ではないことを理解した渚さんが「むむむっ!」と悩む。


「……2つに増やしてもいいですか?」

「2つに?うーん……内容にもよるけど特別だよ?」

「ありがとうございます!」


 嬉しそうな笑顔を見せた渚さんが俺の隣に来る。


「ウチとはツーショット写真をお願いします!」

「ウチとは?」

「はいっ!あ、直哉様はここに立ってていいですよ!」

「あ、あぁ」


 「ウチとは」という発言が気になったが、渚さんが写真を撮る体勢に移ったため、俺も写真撮影の準備をする。


「はい、ちーずっ!」


 “パシャっ!”とシャッター音が響き、俺と渚さんのツーショット写真が撮られる。


「ありがとうございます!大切にしますね!」

「あぁ。それでもう一つは?」

「あ、もう一つはですね……」


 そう言いながら咲の後ろに回り込んだ渚さんが、咲の背中を押しながら爆弾発言をする。


「ウチのお姉ちゃんにもファンサービスをお願いします!」

「ちょっ!渚!?」


 背中を押された咲が俺の目と鼻の先まで近づき、もう少し近づくとキスができそうな距離感となる。


「〜〜〜っ!ち、近すぎよ!」

「ご、ごめんっ!」


 一瞬で顔を真っ赤にした咲からお腹を押され、慌てて咲から離れる。


「むぅっ!お姉ちゃんっ!何で直哉様から離れるの!」

「だ、だって直哉の顔が目の前にあったから咄嗟に……」

「……はぁ」


 咲の発言を聞いて渚さんがため息をつく。


「お姉ちゃん。素直にならないと先に進まないよ?」

「うっ……」


 妹である渚さんの発言に咲が固まる。

 俺にはよくわからないが、咲には心当たりがあるようだ。


「じーっ」

「うぅーっ!わ、分かったわよ!」


 渚の視線に耐えきれなくなった咲が声を出す。


「直哉っ!」

「お、おう」

「わ、私にもファンサービスしなさいよね!」


 そう言って豊満な胸を張って堂々と言う。


「えぇ……なんで上からなの……」

「咲さん!よく頑張りました!」


 そんな咲を見て呆れる渚さんと“パチパチっ!”と拍手をする彩音。


「そうだな。咲も俺のことを応援してくれてるからな」


 ミュージックビデオがSNSにアップされた時はすぐに電話で感想を伝えてくれた。

 咲の感想は俺に頑張る力を与えため、渚さんと同様しっかりともてなすことにする。


 俺はテーブルに置いてあるメモ用紙を一枚取り、ペンで『何でも言うこと聞く券』と書く。


 そして咲に手渡す。


「俺にできることなら何でもしてやる。何かしてほしいことはあるか?」

「な、何でも……」


 俺から手渡された紙を見ながら呟く。


「ほ、本当に何でもしてくれるの?」

「あぁ。もちろん、できないこともあるけどな」


 そう答えると、数秒ほど咲が考え込む。


「な、なら……あ、頭を撫でさせてあげるわ!」

「……へ?」


 まさかのお願いに俺は耳を疑い、聞き返してしまう。


「だ、だから頭を撫でさせてあげるって言ってるの!」

「そ、そんなことしていいのか?」

「も、もちろんよ!だから……は、はやくしなさいよね!」


 そう言って俺の前に近づく。


(異性の頭を撫でるって兄妹や恋人でもないのにしていいのか?)


 そう思い固まっていると、咲が不安そうな顔をしながら上目遣いで聞いてくる。


「も、もしかしてアタシの頭は撫でたくない……とか?」

「っ!」


 気の強い女の子である咲が普段見せることのない表情に“ドキっ!”と心臓が跳ねる。


「そ、そんなことないぞ」


 俺は誤魔化すように優しく咲の頭に手を乗せる。

 そしてゆっくりと頭を撫でる。


「いつも応援ありがとう。これからも応援してくれると嬉しいな」

「と、当然よ。だって直哉はアタシの……と、友達なんだから」


 そんなことを言いながら咲が俯く。


(ヤバい、咲がものすごく可愛い……)


 不覚にも“ドキっ!”としてしまい、顔を赤くしながら咲の頭を撫で続ける。

 そのため、後ろの方で彩音と渚さんがニヤニヤしながら見ていることに気が付かなかった。

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