第21話 ミュージックビデオの視聴 4

「ニヤニヤ〜」

「な、なんだよ」

「ううん、なんでもないよー」


 咲とのやり取りを聞いていた彩音がニヤニヤしている。

 そんな彩音を無視し、「こほんっ!」と咳払いを挟んでから咲との電話を続ける。


『今、隣に彩音がいるから彩音と電話を変わろうか?』

『いえ、彩音さんには後で電話をかけるから問題ないわ。それより……あーもうっ!うるさいわね!』


 俺と会話をしていた咲が突然、怒鳴り出す。


『咲?』

『あ、ごめん。直哉に怒ったわけじゃないわ。アタシの隣でウロチョロしてる妹に怒ったのよ』

『妹が近くにいるのか?』

『えぇ。アタシが直哉に電話すると聞いて……あ、ちょっと!』


 “ガコンっ!”という音と咲が慌てる声が聞こえた後、咲とは違う女の子の声が聞こえてきた。


『直哉様っ!ミュージックビデオ拝見しました!とーってもカッコ良かったです!ウチ、100回は絶対に見ます!』

『あ、ありがとう……』

『あ、申し遅れました!ウチ、お姉ちゃんの妹の渚です!』


 咲の妹である渚ちゃんが自己紹介してくれる。


『ウチ、直哉様を初めて見た時からの大ファンです!一目惚れしました!』

『ありがとう、渚ちゃん』


 声だけで元気いっぱいなのが伝わってくる。

 そんな渚ちゃんの言葉に笑みをこぼす。


『まさかお姉ちゃんのことを助けてくれた白馬の王子様が直哉様だとは知りませんでした!』

『は、白馬の王子様?』

『はいっ!だってお姉ちゃんが直哉様のことを白馬……むぐっ!』

『よ、余計なこと言わなくて良いわよ!』


 咲が渚ちゃんの暴走を口を塞いで止めたようだ。


『ごめん、直哉。ちょっと渚に躾をしてくるから。また学校でね』

『あ、あぁ。ほどほどにな』


 そう言って電話を切る。


「なかなかパワフルな妹だな。咲とは性格が似てないぞ」

「あははっ!そうだね!」


 俺たちの会話を聞いていた彩音が笑いながら同意する。

 すると、またしてもスマホが鳴る。


「今度は紗奈からか。家族を除き、アドレス持ってる人全員から電話がかかって来たな」

「そりゃお兄ちゃんの晴れ舞台だからね。みんな電話してくるよ」


 そんな話をしつつ電話に出る。


『直哉さん。ミュージックビデオ見ました。直哉さんのバスケ姿、素晴らしかったです!』

『あぁ、ありがとう』


 紗奈からの真っ直ぐな褒め言葉に照れながら返答する。


『本当は1番最初にお伝えしたかったのですが、直哉さんのバスケ姿に見惚れてしまって、電話をかけるのが遅くなってしまいました。何度か電話をかけたのですが通話中になってたので』

『今まで菜々美と咲、渚ちゃんの3人と電話してたからな』

『むっ、また知らない人が出てきました』


 今の言葉に何故か不機嫌そうな声を出す。


『さ、紗奈?』

『い、いえ。何でもありません。これに関しては彩音さんに確認します。今、この場で聞いてしまうと直哉さんにご迷惑をおかけしそうなので』


 その発言だと彩音には迷惑をかけて良いとも取れる。

 それだけ仲が良い証拠だろう。


『あ、そうだ。紗奈に言いたいことがあったんだ』

『……?なんですか?』

『ミュージックビデオに映ってた紗奈、とても可愛かったぞ』

『っ!あ、ありがとうございます……』


 紗奈が消えそうな声で感謝を伝える。

 ちなみに俺の横にいる彩音は可愛い顔でサムズアップしていた。


『きっと今回のミュージックビデオで紗奈のファンが増えただろう。彩音のファンが激減しないか心配だ』

「え、このタイミングで私に危機感を煽ってくるの?いや、実際心配になるくらい紗奈ちゃんは可愛かったけど」

『ふふっ、大丈夫ですよ。私よりも彩音さんの方が可愛かったので』


 紗奈が電話口で“クスクス”と笑う。


『あ、長電話しすぎましたね。電話に出ていただきありがとうございました』

『いやいや。長電話というほどでもなかったけど、こちらこそありがとう。直接感想を言われて嬉しかったよ』

『わ、私もその……か、可愛かったと言ってくれて嬉しかったです』


 照れながらハニカム紗奈が容易に想像でき、笑みをこぼしながら電話を切る。


「女の子4人から褒められて良かったね!」

「あぁ。やっぱり直接感想を言われると嬉しいものだな」

「そうだね!でも、感想は4人だけじゃないよ!」


 そう言って彩音がスマホを見せてくる。

 そこには今回のミュージックビデオを見た視聴者たちが様々なコメントをしていた。

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